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周術期の透析開始、全国規模の解析で注意すべき手術の種類が明らかに-東京医歯大ほか

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2022年08月22日 AM11:20

大手術前後の透析開始、生存やADLに及ぼす影響は?

東京医科歯科大学は8月19日、これまで不明だった、周術期の透析開始のリスク、治療成績への影響を全国規模の入院データ解析により初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の内田信一教授、萬代新太郎助教、中野雄太大学院生、大学院医療政策情報学分野の伏見清秀教授、獨協医科大学病院腎臓・高血圧内科の賴建光教授らの研究グループによるもの。研究成果は「International Journal of Surgery」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本で維持透析治療を受けている患者数は30万人を超えており、毎年推計4万人が新規に透析を開始している。その背景には、1300万人前後(成人の約8人に1人)が罹患する慢性腎臓病の存在が潜在している。透析開始のきっかけは多岐にわたるが、大きな侵襲を伴う手術では、さまざまな要因で腎臓に負担がかかり、予定外に透析開始を必要とするケースが少なからず存在する。研究グループは以前にも、慢性腎臓病の背景に潜在する複雑な病態、多併存症を明らかにしてきたが、大手術の前後()において透析開始を必要した場合の、生存率や日常生活動作(Activities of Daily Living;ADL)の低下率といった治療成績にどの程度影響を及ぼすかはほとんどわかっていなかった。今回の研究によって、全国規模の調査を行い、維持透析例、透析を必要としなかった例とを相対的に比較することで、これまで知られていなかった周術期の透析開始に関するリスクを明らかにした。

全国規模の実態調査を初めて実施、8種類に分類した大手術カテゴリーとリスク因子を解析

研究グループは、国内の入院患者に関する大規模データベースである、DPC入院データベースの解析を通じて、周術期の透析開始が治療成績に与える影響について全国規模の実態調査を初めて行った。8,000以上の病院施設のうち、DPC調査参加病院は5,000病院を超え、現在60%を超える入院症例を網羅している。今回、2018年から2019年にかけて入院中に侵襲の大きな手術を受けた約99万例を対象にし、従来の研究を参照し8種類に分類した大手術カテゴリーを解析に用いた。傾向スコアマッチングによって年齢、性別、BMI、入院年といった背景がなるべく同条件となる各7,619例の3群、「透析開始群」、入院前から透析を継続的に行っていた「維持透析群」、透析を必要としなかった「非透析群」を母集団として、ロジスティック回帰分析でリスク因子を解析した。

3群を比較すると、非透析群の院内死亡率、ADL低下率が最も低い水準であり、世界的に見て日本の優れた外科診療成績を反映した結果と考えられたという。一方で、透析開始群のADL低下リスクは維持透析群と同等に高く、死亡リスクについては維持透析群以上を超えてリスクが高いことがわかった。その他の因子については、入院時の高年齢、低ADL、多併存症、緊急入院、冠動脈バイパス術、下部消化管切除術(小腸切除術、結腸切除術、直腸切除術)、上部消化管切除術(胃切除術、または食道切除術)、は死亡リスク上昇と関連した。ADL低下リスク上昇には、高年齢、多併存症、緊急入院、冠動脈バイパス術、整形外科手術(椎弓切除術/椎弓形成術/脊椎固定術、膝または股関節の関節形成術/人工骨頭挿入術/人工骨頭置換術、大腿・下腿の観血的骨折手術)が関連した。

肝胆膵手術と上部消化管手術において高リスク、それ以外の大手術でも集学的な治療介入の重要性を認識

このため手術の種類に応じて、維持透析群を基準に解析したところ、透析開始のリスクが高い手術が明らかとなった。肝胆膵手術(肝切除術、胆嚢切除術、膵臓切除術、または複数の切除術)と上部消化管手術の周術期に透析開始を要した際に、注意を要することがわかった。それ以外の大手術でも、維持透析群と同等の高リスクではあるため、基本的に周術期に透析開始を要した場合は集学的な治療介入の重要性が再認識された。

さらに透析開始のタイミングについて、手術の術前(術日の前日以前)と術後(手術日以降)に分けて解析を行った。その結果、維持透析群を基準とした際、心臓手術(冠動脈バイパス術)と下部消化管切除術を除いたすべての手術で、術後の透析開始がリスク増加と関連することがわかった。これらの手術においては、術前に透析開始も考慮される水準の腎機能障害を認めた場合は、透析を開始し全身状態が安定した上で手術に臨むことが治療成績の改善に結び付く可能性が示唆された。しかし、観察研究である性質上、因果関係を証明するものではないため結果の解釈に慎重になる必要があるという。また、研究グループは、データベースに検査データが含まれないため、術前の腎機能に応じた理想的な診療行動を明らかにするためにはさらに検証を続けていく必要があると考えている。

難しい大手術前後の透析開始判断、今後の診療に大きな影響を与える知見

今回、周術期の透析開始のリスクについて実態が明らかになり、診療に大きな注意を要することがわかった。また、特定の手術や、術後に透析開始を要するケースで一層慎重な診療を要することがわかった。従来、透析の開始基準については明確な判断基準がなく、腎機能などの採血データや、むくみの程度、体調などを考慮しながら適正なタイミングが個々の患者で見定められることが通例だった。特に大手術は、診療医にとって最も透析開始判断が難しい要素の一つとなっていた。「今回の研究によって、透析開始と開始時期に関する診療行動に大きな影響を与える、新たな知見を得ることができた。必ずしも因果関係だけを反映した解析結果ではない点や、術後に透析開始が必要となる予測手段を明らかにしていくことが今後の課題であるものの、元々日本の外科診療は世界に誇る成績を有しており、内科的立場から外科治療成績のさらなる向上に貢献し得る成果と考えられる」と、研究グループは述べている。

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