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オミクロン株BA.5流行期におけるワクチン有効性、症例対照研究の暫定報告-感染研

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2022年08月19日 PM02:38

2022年7月4日~31日の調査における暫定結果報告

(感染研)は8月17日、「新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第四報):(BA.1/BA.2およびBA.5)流行期における有効性」と題した速報を発表した。この報告は、FASCINATE study group(国立感染症研究所感染症疫学センターの新城雄士氏、有馬雄三氏、鈴木基氏、クリニックフォア田町の村丘寛和氏、KARADA内科クリニックの佐藤昭裕氏、インターパーク倉持呼吸器内科の倉持仁氏、仁平侑希氏、中鉢内科・呼吸器内科クリニックの中鉢久実氏、聖路加国際病院の柳井敦氏、上原由紀氏、有岡宏子氏、国際医療福祉大学成田病院の加藤康幸氏、日本赤十字社医療センターの上田晃弘氏、公立昭和病院の大場邦弘氏、新宿ホームクリニックの名倉義人氏、複十字病院の野内英樹氏、町田駅前内科クリニックの伊原玄英氏、池袋メトロポリタン・クリニックの沼田明氏、横浜市立大学付属病院の加藤英明氏、田中克志氏、埼玉医科大学総合医療センターの岡秀昭氏、西田裕介氏、埼玉石心会病院の石井耕士氏、大木孝夫氏ら)、株式会社エスアールエル、株式会社LSIメディエンス、株式会社ビー・エム・エル、株式会社ナチュラリ/東京PCR衛生検査所、株式会社マイクロスカイラボ、株式会社みらい によるもの。同調査は感染研および協力医療機関において、ヒトを対象とする医学研究倫理審査で承認され、実施された。


画像は感染研サイトより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

)に対するワクチンの開発は未曾有のスピードで進み、ファイザー社製およびモデルナ社製のmRNAワクチンは、大規模なランダム化比較試験で高い有効性(vaccine efficacy)が示された。免疫の減衰や免疫逃避能を有する変異株の出現が確認される中で、国内でも感染研で、複数の医療機関協力のもと、発熱外来等で新型コロナウイルスの検査を受ける者を対象として、(test-negative design)を実施し、実社会における有効性(vaccine effectiveness;発症予防効果)が検討されている。これまでの暫定報告においては、B.1.1.7系統(アルファ株)およびB.1.617.2系統(デルタ株)に対して、高い有効性を示すことが確認された。さらに、オミクロン株の亜系統であるBA.1/BA.2流行期においては2回接種で中程度の有効性を示す一方、3回目(ブースター)接種により、高いレベルに有効性が回復することが示された。

2022年6月末以降、国内におけるCOVID-19症例は急増しており、これは新たなオミクロン株の亜系統であるBA.5の流行によるものである。そこで今回は、関東地方において、BA.5が75%以上を占めるとされた7月4日~31日の調査における暫定結果が報告された。

ワクチン接種歴を8カテゴリーに分け、陽性と陰性とで比較解析

2022年7月4日~31日までに関東地方の複数医療機関の発熱外来等を受診した者を対象に、検査前に基本属性、新型コロナワクチン接種歴などを含む問診票によるアンケートを実施。意識障害のある者、直ちに治療が必要な者、日本語での問診票に回答できない者には問診票の配布は行われなかった。のちに各医療機関で新型コロナウイルス感染症の診断目的に実施している核酸検査(PCR)の検査結果が判明した際に、検査陽性者を症例群(ケース)、検査陰性者を対照群(コントロール)と分類。発症から14日以内で、37.5℃以上の発熱、全身倦怠感、寒気、関節痛、頭痛、鼻汁、咳嗽、咽頭痛、呼吸困難感、嘔気・下痢・腹痛、嗅覚味覚障害のいずれか1症状のある者に限定して解析が行われた。期間中にすでに受診した記録のある者は今回の解析から除外された。なお、2022年7月以降、一部の医療機関では、16~19歳の者も対象に含めることとしている。

ワクチン接種歴については、(1)未接種、(2)1回接種または2回接種から13日以内、(3)2回接種から14日~3か月(14~90日)、(4)2回接種から3~5か月(91~150日)、(5)2回接種から5か月以降(151日以降)、(6)3回(ブースター)接種から13日以内、(7)3回接種から14日~3か月(14~90日)、(8)3回接種から3か月以上(91日以降)の8つのカテゴリーに分類された。4回接種後の者は数が非常に少なかったため、今回の報告では除外して解析した。ロジスティック回帰モデルを用いて、オッズ比と95%信頼区間(CI)を算出。多変量解析における調整変数としては、先行研究等を参照し、年代、性別、基礎疾患の有無、職業(医療従事者かそれ以外)、医療機関、カレンダー週、濃厚接触歴の有無、過去1か月の新型コロナウイルス検査の有無、3か月以上前の新型コロナウイルス感染症診断歴、マスクの着用状況、飲酒を伴う夕方・夜の会食への参加がモデルに組み込まれた。

ワクチン有効率は(1-調整オッズ比)×100%で推定された。さらに、国民の多くが2回接種を完了している中で、2回接種と比較した3回接種の有効性を検討するため、同報告においては、調整オッズ比を元に2回接種と比較した3回接種の相対的な有効率も算出された(3回接種の対象となり得る者に限定するために、2回接種から5か月以上経過した者に限定して解析)。解析に際して、ワクチンの種類は区別せず、ワクチン接種歴等について、欠損値のある者は今回の解析から除外された。

ワクチン有効率、2回接種5か月以降35%、3回接種14日~3か月65%/3か月以降54%

関東地方の7医療機関において、2022年7月4日~ 31日までに発熱外来等を受診した者で解析可能だった1,624人が組み入れられ、うち、発症日不明および発症から15日以降に受診した者51人および4回接種後の26人を除外して解析が行われた。解析に含まれた1,547人(うち陽性989人、63.9%)においては、年齢中央値(範囲)36(16~93)歳、男性802人(51.9%)、女性742人(48.1%)であり、385人(24.9%)が何らかの基礎疾患を有していた。また、ワクチン接種歴について、未接種者は197人(12.8%)、1回接種した者は8人(0.5%)、2回接種した者は471人(30.6%)、3回接種した者は864人(56.1%)だった(ワクチン接種回数の欠損7人を除く)。

ワクチン接種歴を接種回数および接種後の期間別で8つのカテゴリーに分け、検査陽性者(症例群)と検査陰性者(対照群)とで比較した結果、未接種者を参照項とする調整オッズ比は、2回接種後5か月以降で0.65(95%信頼区間[95%CI] 0.40-1.04)、3回接種後14日~3か月で0.35(95%CI 0.21-0.58)、3回接種後3か月以降で0.46(95%CI 0.29-0.72)だった。

調整オッズ比を元にワクチン有効率を算出した結果、2回接種後5か月以降では35%(95%CI -4-60)、3回接種14日~3か月では65%(95%CI 42-79)、3回接種後3か月以降では54% (95%CI 28-71)だった。

なお、参考として、1月1日~6月19日のBA.1/BA.2流行期については、解析に含まれたのは6,349人(うち陽性2,749人、43.3%)であり、年齢中央値(範囲)35(20~74)歳だった。この解析においては、2回接種後3~5か月では50% (95%CI 30-64)、2回接種後5か月以降では46%(95%CI 38-60)、3回接種14日~3か月では72%(95%CI 65-78)、3回接種後3か月以降では71%(95%CI 55-81)だった。調整オッズ比を元に2回接種と比較した3回接種の相対的なワクチン有効率を算出したところ、3回接種14日~3か月では49%(95%CI 38-58)、3回接種後3か月以降では46%(95%CI 20-64)だった。

BA.1/BA.2よりBA.5で有効性減弱の可能性、しかしブースター接種は有効

今回、2022年7月のBA.5流行期におけるワクチンの有効性を検討した結果、BA.5流行期においては、2回接種後5か月後には発症予防効果は低程度であることがわかった。一方で、3回(ブースター)接種により発症予防効果が中〜高程度まで高まる可能性が示された。2回接種と比較した3回接種の相対的な有効率についても同様に、一定程度見込まれることがわかった。

諸外国の報告として、BA.5に対するワクチンの有効性に関する報告は非常に限られている。In vitro(試験管内)での評価として、3回接種後の血清による中和能は、BA.1/BA.2と比較してBA.4/BA.5に対して低く、ワクチンの有効性が低下する可能性が示唆された。疫学的な暫定評価として、感染者におけるワクチン接種2回接種または3回接種のオッズがBA.1/BA.2とBA.5とで大きく変わらないという結果が、イギリスやポルトガルから報告されている。

今回の調査結果では、BA.1/BA.2に対する有効性と比較して一定程度有効性が減弱する可能性が示唆されたが、信頼区間も重なっており、解釈に注意が必要だ。ただし、BA.5流行期においても、2回接種から半年弱後の有効性は低下した一方、ブースター接種によりワクチン有効率が高まることから、ブースター接種を検討するとともに、場面に応じた適切な感染対策を継続することが重要だ。海外の報告からは、BA.1/BA.2流行期における重症化予防効果は発症予防効果よりも高い値でより長期間維持されることが報告されており、未接種者も速やかに接種を検討することが重要だ。ただし、度重なる免疫逃避能を有する変異株の出現および免疫の減衰の可能性から、オミクロン株を含めた変異株に対応したワクチンの早期の開発および導入が待たれる。

なお、今回の調査は迅速な情報提供を目的としている暫定的な解析であり、今後も解析を適宜行い、経時的に評価していくことが重要だ。

暫定報告のため、バイアスの影響など一定の制限あり

今回の調査および報告においては少なくとも以下の制限がある。まず、1つ目に交絡因子、思い出しバイアス、誤分類等の観察研究の通常のバイアスの影響を否定できない。特に、ワクチンの接種が進むにつれて、ワクチン接種者とワクチン未接種がワクチン接種歴以外の部分で異なる可能性が高くなるが、これによって起こりうる交絡として、「過去の感染」に加え、今回から、「マスクの着用状況」「感染のリスク因子と考えられる行動の有無」についても変数として解析に組み込まれた。2つ目の制限として、ワクチン接種歴等について欠損値のある者は今回の解析では除外されている。

3つ目の制限として、今回の調査は軽症例を対象としており、無症状病原体保有者・中等症例・重症例・死亡例における有効性は評価されておらず、ワクチンの種類ごとの有効性は評価されていない。4つ目の制限として、今回の研究では陽性例についてウイルスゲノム解析が実施されていない。ただし、BA.5流行期における解析であり、大部分はBA.5への感染であったとの想定のもとで実施された。5つ目の制限として、サンプルサイズの制約から有効率の信頼区間が広いため、点推定値の解釈には注意が必要だ。

今後の調査拡大・継続のため、協力可能な医療機関は感染研担当まで

なお、感染研では、新型コロナワクチン有効性評価のための患者調査の拡大・継続に伴い、現在、医療機関への協力を広く呼び掛けている。協力希望の場合の連絡方法等、詳細は「【ご協力のお願い】新型コロナワクチン有効性評価のための患者調査-感染研」に記載されている。(QLifePro編集部)

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