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SCIDの新生児マススクリーニング検査、国内初の大規模実施を報告-藤田医科大ほか

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2022年08月17日 AM11:15

、日本では公的な検査の対象疾患に含まれていない

藤田医科大学は8月10日、2017年から愛知県で出生した新生児に対して、全国に先駆けて重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency; SCID)に対する新生児マススクリーニング検査を開始し、2021年までに約14万例にスクリーニング検査を実施、2例のSCID患者を診断し、造血細胞移植へとつなげることにより救命することができたと発表した。この研究は、同大医学部小児科学の伊藤哲哉教授、名古屋大学大学院医学系研究科 小児科学の高橋義行教授、村松秀城講師、若松学助教(筆頭著者)、愛知県健康づくり振興事業団健診事業部の酒井好美検査課長らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Clinical Immunology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

新生児マススクリーニングは、知らずに放置しておくと命にかかわるような疾患を、症状が出現する以前に見つけて予防する取り組みだ。新生児期にスクリーニング検査を行うことで、対象となる疾患の患児を早期に診断し、治療介入を行い、健常な新生児と同じような生活を送ることができるようになる。重症複合免疫不全症(SCID)は、Tリンパ球がうまく機能しないために重篤な感染症を発症する原発性免疫不全症の一つである。根治的な治療法である造血細胞移植が適切な時期に行われない場合、生後1年以内に重篤な感染症により致死的な経過を辿る。海外では、重篤な感染症を発症する以前にSCIDを診断・治療介入するための新生児マススクリーニング検査が広く行われている。米国のカリフォルニア州では、正常なTリンパ球が新たに作られるときにできるT-cell receptor excision circle(TREC)の測定を約300万人の新生児に対して実施し、およそ5万人あたり1人の新生児をSCIDと診断することができたと報告している。日本ではこれまで公的な新生児マススクリーニング検査の対象疾患にSCIDは含まれておらず、家族例を有する症例以外は全例、重篤な感染症を発症したのちに診断され、治療成績は満足できるものではなかった。

近年、次世代シーケンサー(NGS)を用いた網羅的遺伝子解析が、原発性免疫不全症の診断に有用であることが示されている。しかし、SCIDに対する新生児マススクリーニング検査陽性例に対する精密検査の一部として網羅的遺伝子解析を活用することについては、十分に評価されていない。また、海外のいくつかの国・地域からBリンパ球産生のマーカーであるKappa-deleting recombination excision circles(KREC)をTRECと同時に測定する取り組みが報告されているものの、KREC測定の偽陽性率の高さと費用の増加から、KRECの同時測定の是非は議論が分かれている。

SCIDに対する新生児マススクリーニング検査、有料のオプショナル検査として愛知県内で実施

そこで研究グループは、SCIDを生後早期に診断・治療介入するために、2017年4月から日本で初めてTRECを用いたSCIDに対する新生児マススクリーニング検査を、愛知県内で出生した新生児を対象に、有料のオプショナルスクリーニング検査として開始した。また、2020年4月からはTRECと同時にKRECの測定も行った。期間中に、愛知県で出生した全新生児の約半数が、本スクリーニング検査を受けた(2021年では、5万4,891人中3万2,846人で59.8%)。スクリーニング陽性例は、精密検査としてリンパ球サブセット解析と免疫不全症に関する網羅的遺伝子解析を行った。

TREC測定では8万例中112例、TREC/KREC測定では5.7万例中33例に異常値

2017年4月から2020年3月に、TREC測定用キットを用い、8万791例の新生児に対してTRECの測定を行った。8万791例の新生児のうち、TRECの異常値を認めた新生児は112例(0.14%)だった。そのうち、79例に対して、免疫不全症に関連する網羅的遺伝子解析を行い、SCID以外の免疫不全症患者(non-SCID PIDs)が6例診断された。内訳は、完全型DiGeorge症候群、10q11.22-q11.23微小欠失、8p逆位重複欠失症候群、軟骨毛髪低形成症、CHARGE症候群、Wiskott-Aldrich症候群が1例ずつ診断された。

次に、2020年4月からTREC/KREC測定用キットに切り替えて、TRECと同時にKRECの測定を行い、Tリンパ球だけでなく、Bリンパ球も同時に評価した。その結果、2021年12月までに5万6,693例の新生児に対してTRECとKRECを測定し、33例(0.058%)でTRECもしくはKRECの異常値を認めた。このうち、TRECとKRECの両方が異常値4例、TRECのみ異常値13例、KRECのみ異常値16例が含まれた。スクリーニング陽性であったこれら33例のうち、25例(76%)に免疫不全症に関連する網羅的遺伝子解析を行い、2例のSCID(IL2RG-SCIDと細網異形成症)、4例のnon-SCID PIDs(ヘテロ接合型FOXN1遺伝子変異に関連する胸腺低形成、軟骨毛髪低形成症、CHARGE症候群、およびヤコブセン症候群)と診断された。KRECのみ異常値を認めた16例のうち、Bリンパ球のみに異常を認める免疫不全症と診断された患者はいなかった。

SCIDと診断された2例は造血細胞移植へ

13万7,484例の新生児のうち、2例(6万8,742人に1人)がSCID(IL2RG-SCIDと細網異形成症)と診断された。一方、Tおよび/またはBリンパ球の欠損を伴う免疫不全症(non-SCID PIDs)として、10例(1万3,748人に1人)が診断された。

IL2RG-SCIDの児は、生後4日で測定したTREC(1コピー/μL)が低値で名古屋大学医学部附属病院に紹介された。リンパ球サブセット解析で、T-B+NK-SCIDの表現型を示し、ヘミ接合性IL2RG遺伝子変異を認め、IL2RG-SCIDと診断した。患児は、生後4か月に臍帯血移植(CBT)を行い、ナイーブTリンパ球の増加を認めた。

細網異形成症の児は、生後4日で測定したTREC(0コピー/μL)、KREC(0コピー/μL)が低値で、生後6日目に同病院に紹介された。リンパ球サブセット解析でT-B-NK-SCIDの表現型を示し、遺伝子解析にて複合ヘテロ接合型のAK2遺伝子変異を認め、細網異形成症と診断された。患児は、生後半年でCBTを行い、好中球の生着に続いて、ナイーブTリンパ球の増加を認め、感染を認めることなく、元気に過ごしているという。

TREC/KRECキットの使用により偽陽性率が低下

次に、2017年から使用したTRECキットと2020年から導入したTREC/KRECキットの性能を比較するために、2,841例の正常新生児、6例のnon-SCID PIDs、2例のSCIDの乾燥ろ紙血を用いて、両者のキットで測定したTREC値を検討した。TREC/KRECキットで測定したTREC(TREC-TK)値は、TRECキットで測定したTREC(TREC-T)値と有意に相関を認め(P<0.001)、特にTREC-TK値が低値の場合(<61 copies/μL)に強い相関関係を認めた。さらに、患者48例においてTREC-TとTREC-TK値は、CD4+CD45RA+ナイーブTリンパ球と中等度の相関を認めることを示した。

最後に、それぞれのキットにおけるSCIDとnon-SCID PIDsに対する精密検査率と偽陽性率を比べた。TREC/KRECキット(TREC-TK)は、TRECキット(TREC-T)と比較して、精密検査率(0.138% [n=112] vs. 0.058% [n=33], P<0.001) と偽陽性率(0.131% [n=106] vs. 0.019% [n= 1], P<0.001) がどちらも有意に低くなることを確認した。

SCID新生児の早期診断だけでなくnon-SCID PIDsの診断にも貢献

愛知県で大規模に開始したSCIDに対する新生児マススクリーニング検査を通じて、SCID新生児の早期診断に成功し、重篤な感染症に罹患することなく造血細胞移植へつなげることができた。スクリーニング検査に網羅的遺伝子解析を組み合わせることで、non-SCID PIDsの診断にも貢献した。全国に先駆けて、愛知県で開始したSCIDに対する新生児マススクリーニング検査は、国内の他の地域にも広がりつつあるという。「今後は、日本全国の新生児がこの新生児マススクリーニングの恩恵を受けられるように、公的マススクリーニングの対象疾患としてSCIDが一日も早く指定されることを期待している」と、研究グループは述べている。

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