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慢性肝疾患、正常p53の活性化で肝発がんがかえって促進されると判明-阪大

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2022年06月21日 AM10:55

慢性肝疾患の肝臓でがん抑制遺伝子p53が活性化、その影響は?

大阪大学は6月16日、肝臓ではがん抑制遺伝子p53が過剰に働くことで、かえってがんの発生が促進されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の牧野祐紀特任助教(常勤)(研究当時、現The University of Texas MD Anderson Cancer Center)、疋田隼人助教、竹原徹郎教授(消化器内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Research」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

慢性肝疾患は肝炎ウイルス、アルコール、肝臓への脂肪蓄積、自己免疫などさまざまな病因により肝臓に慢性的な炎症を生じる疾患の総称で、長い年月を経て慢性肝炎から肝硬変へと進展し、肝細胞がんを発症する。肝硬変・肝細胞がんは慢性肝疾患の終末像であり、肝細胞がんは肝硬変患者の最大の死因となっている。

正常細胞ががん細胞になるときには、DNAの損傷、がん遺伝子の活性化など、細胞に対するストレス刺激を伴う。通常はこのような刺激が加わるとがん抑制遺伝子が働いてDNAの修復、細胞増殖の停止を誘導するが、がん抑制遺伝子の機能が障害されると一部の細胞はがん細胞に変化する。がん抑制遺伝子には多くの種類があるが、中でもp53遺伝子は「ゲノムの守護神」と称される最も代表的ながん抑制遺伝子であり、p53の機能喪失は肝細胞がんを含めあらゆるがんの発生に密接に関わっている。

慢性肝疾患患者の肝臓では、正常な肝臓に比べてp53の働きが活性化していることが知られている。これは肝炎ウイルス、アルコール、脂肪など、慢性肝疾患の原因物質による肝細胞へのストレス刺激が原因と考えられている。一方、肝細胞でp53が活性化することでどのような影響があるのかこれまでわかっていなかった。

Kras変異の肝発がんマウス、正常p53を蓄積・活性化させると発がんが著しく促進

研究グループは、肝細胞においてがん遺伝子のKras遺伝子が変異し、肝細胞がんを自然発症するマウス(肝細胞特異的Kras変異マウス)において、p53の分解を促すタンパク質であるMdm2を肝細胞で欠損させた(肝細胞特異的Mdm2欠損Kras変異マウス)。その結果、肝細胞においてp53が分解されずに蓄積してその働きが活性化するとともに、肝細胞がんの発生が著しく促進された。このマウスにおいてMdm2に加えてさらにp53を欠損させると、肝細胞がんの発生は抑制された。このことから、肝細胞特異的Mdm2欠損Kras変異マウスにおいて、p53の蓄積・活性化が発がんを促進していることがかった。

正常Mdm2の肝前駆細胞ががん化と判明、ペレチノイン投与で前駆細胞抑え発がん減少

肝細胞特異的Mdm2欠損Kras変異マウスの肝臓では、慢性肝疾患患者の肝臓と同じように、持続的な炎症が生じていた。また肝臓内において、サイトケラチン(CK)、AFP、CD133などのタンパク質を発現し、Mdm2遺伝子型が保たれた肝前駆細胞が出現しており、この肝前駆細胞ががん細胞に変化していることがわかった。さらに、このマウスにビタミンAの類縁化合物であるペレチノインを投与すると、肝前駆細胞の出現が抑えられ、肝細胞がんの発生も減少した。

C型慢性肝疾患検体で、肝組織中p21発現量が多いと肝発がん率が高い

また、慢性肝疾患患者の肝組織検体では、p53の活性化の指標であるp21遺伝子の発現量が、正常肝組織に比べて上昇していることが確認された。さらにC型肝炎ウイルスによる慢性肝疾患患者の肝組織検体において、p21の発現量の多い症例では、高率に肝細胞がんが発生することが明らかになった。

従来のp53の概念やp53を標的としたがん治療に一石を投じる結果

p53は最も重要ながん抑制遺伝子であり、非常に多くのがんにおいてその働きが失われていることがわかっている。そのためp53の機能を回復させることががんの治療に有効であると考えられ、p53の働きを増強する薬剤の開発が進められてきた。一方、今回の研究はp53の働きが過剰になると逆に発がんが促進されるという事例を示したものであり、これまでのp53の概念やp53を標的としたがん治療のあり方に一石を投じ得るものと考えられる。

肝細胞がんはひとたび発症すると治療しても再発率が高いことが特徴で、日本におけるがんの死因の第5位を占める難治がんだ。これまで肝細胞がんの予防には、肝炎ウイルスに対する抗ウイルス療法など、慢性肝疾患の原因に対する治療以外に方法がなかった。しかし、今回の研究により新たな肝発がん予防法の開発につながる可能性がある。「研究に用いたペレチノインはこれまで肝細胞がんの発症を抑える効果が報告されている薬剤であり、p53の活性化した慢性肝疾患患者において初の「がん予防薬」になる可能性が期待できる」と、研究グループは述べている。

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