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一次精母細胞を用いた顕微授精、出生率の大幅改善にマウスで成功-理研ほか

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2022年05月23日 AM11:15

卵子の細胞質サイズ縮小で、染色体異常減少・出生率向上につながるか?

(理研)は5月19日、効率が著しく低かった一次精母細胞を用いた顕微授精技術の改良を行い、卵子の細胞質サイズを小さくすることによって、マウス産子の出生率の大幅な改善に成功したと発表した。この研究は、理研バイオリソース研究センター遺伝工学基盤技術室の越後貫成美専任技師、小倉淳郎室長(開拓研究本部小倉発生遺伝工学研究室主任研究員)、生命機能科学研究センター染色体分配研究チームの京極博久客員研究員、北島智也チームリーダーらの共同研究グループによるもの。研究成果は、「EMBO Reports」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトや動物の生殖補助技術として顕微授精技術が広く用いられており、近年、精子以外に減数分裂後の未成熟精子(精子細胞)からも産子が得られるようになってきた。さらにマウスでは、減数分裂前の一次精母細胞からも産子の作出に成功している。しかし、一次精母細胞を用いて産子を得るには、一次精母細胞の染色体が複雑な減数分裂を卵子の中で完了しなければならない。

このため、一次精母細胞を用いた顕微授精では染色体異常を生じることが多く、その結果、出生率は非常に低いのが現状だった。一方、京極博久客員研究員と北島智也チームリーダーは、卵子はその巨大な細胞質サイズのために染色体分配異常を起こしやすいことを報告している。そこで今回、研究グループは、顕微操作により細胞質サイズを半分程度に減らしたマウス卵子を一次精母細胞の顕微授精に用いることで、注入胚の染色体異常が減少するか、そして胚移植後の出生率の向上につながるかを調べた。

卵子縮小で減数分裂時の染色体異常が大幅に軽減、多くの異常は精母細胞由来

研究グループはまず、卵子の細胞質サイズと一次精母細胞の顕微授精後の染色体異常の関係を解析。その結果、細胞質サイズがそのままの卵子(コントロール卵子)では2%(1/59)のみが正常染色体を保持していたのに対し、細胞質サイズを3分の1~2分の1程度に減らした卵子では21%(13/62)が正常染色体を保っていた。観察された染色体異常の多くは、姉妹染色分体の早期分離だった。さらに、一次精母細胞注入直後から減数分裂終了までの間の染色体の動態について、雌雄それぞれの染色体を識別してライブイメージング解析を行った。その結果、大部分の染色体異常は精母細胞由来の染色体に生じており、それが卵子の細胞質サイズを小さくすることで改善されることが明らかになった。

出生率が20倍近く向上、無精子症マウスからの産子獲得にも成功

次に研究グループは、産子までの発生能を解析。2細胞期まで発生した一次精母細胞由来胚を偽妊娠雌マウスの卵管に移植したところ、コントロール胚では1%(1/96)の出生率(胚移植当たり)だったのに対し、細胞質減少卵子の胚では19%(17/90)と、20倍近い改善が見られた。また、一次精母細胞で精子発生が停止している無精子症マウス2系統からもそれぞれ産子を得ることに成功した。

正常な常染色体を所持した胚のみが選抜されて産子まで発生

同研究で開発された顕微授精法によって得られた産子のうち、里親に哺育させた11匹は全て正常に発育し、子孫も作った。また、マルチカラーFISH解析を用いて全ての染色体を検査したところ、4匹で性染色体の異常が見つかった。この原因が、染色体異常が性染色体で生じやすいことによるのか、それとも常染色体でも異常が生じているのかを明らかにするため、移植前の胚をマルチカラーFISH解析した。その結果、常染色体・性染色体にかかわらず異常が生じていることがわかった。このことより、正常な常染色体を所持した胚のみが選抜されて産子まで発生し、産まれた産子の一部に性染色体異常のみが残ることが明らかになった。

染色体異常の克服で新たな不妊治療法となる可能性

今回の研究によって、一次精母細胞を用いた顕微授精が、用いる卵子の細胞質サイズを小さくすることによって、従来の精子や精子細胞を用いた顕微授精と同じように、実用的な技術になる可能性が示された。現在、ヒト男性不妊のうち顕微授精で治療できるのは、減数分裂以降の精子・精子細胞がある場合に限定されている。一次精母細胞は多くの無精子症男性にもその存在が認められているので、将来、同技術が新たな不妊治療法の一つとなる可能性がある。

一方で、同技術がヒトで応用されるためには、染色体異常を改善するという大きなハードルがある。また、卵子の細胞質サイズを小さくするだけでは染色体の異常の全てが修正されないこともわかっている。今後の研究により、なぜ一次精母細胞由来の染色体に異常が出やすいのか、どのような一次精母細胞の減数分裂異常が修正可能なのかなど、多くの疑問が解き明かされることが期待される。

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