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慢性腰痛にモバイルアプリによる患者教育と運動療法が有用である可能性-東大病院ほか

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2022年05月18日 AM11:30

働く世代の慢性腰痛患者を対象に、プログラムの有効性を非盲検ランダム化並行群間試験で評価

東京大学医学部附属病院は5月17日、痛みを緩和するための薬物治療を含む通常診療を受診した患者群と比較して、通常診療に加えて患者教育と運動療法をセットにしたプログラムをモバイルアプリで実施した患者群において、慢性腰痛が改善していることが判明したと発表した。この研究は、同大病院22世紀医療センター 運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座の松平浩特任教授と塩野義製薬株式会社らの研究グループによるもの。研究成果は、「JMIR mHealth and uHealth」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本人の腰痛の生涯有病率は8割を超え、世界の主要な健康問題でもある。慢性腰痛に伴う生活や仕事への支障は、働き盛りの年齢層で最も高くなり、アブセンティーズム(欠勤に起因する生産性損失)のみならず、プレゼンティーズム(症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や労働生産性が低下している状態)の解消が社会課題となっている。慢性腰痛に対する最も有用で合理的な対策は患者教育と運動療法だが、その方法はいまだ確立していない。さらに、運動療法が継続しないことも難点とされている。また、社会が求めているオンライン診療化も未発展のままという状況だ。

そこで研究グループは今回、慢性腰痛の有用な対策とされる患者教育と運動療法の提供方法および、運動療法を継続させる方法の確立を目指し、慢性腰痛で薬物治療を含む通常診療を受けている働く世代の患者を対象に、患者教育と運動療法をセットにしたプログラム(ヴァーチャルパーソナルアシスタントシステム)の有用性を、非盲検のランダム化並行群間試験により評価した。

ヴァーチャルパーソナルアシスタントを用いた患者教育と運動療法を12週に渡り提供

今回の試験は、地域の医療機関16施設(8施設、3施設、プライマリケア5施設)に通院する患者を、薬物治療を含む通常診療のみを継続した患者群(51人:平均年齢46.9歳、うち男性患者の割合54.9%)と、薬物治療を含む通常診療に加えてモバイルアプリによる患者教育と運動療法を併用した患者群(48人:平均年齢47.9歳、うち男性患者の割合56.3%)の2グループに分けて実施した。

モバイルアプリによる患者教育と運動療法の提供には、モバイルガイドサービス「se・ca・ide」を用いた。同モバイルガイドサービスは、)のキャラクターがチャット形式でガイドすることによって患者に継続利用を促すもの。具体的には、運動の指示と慢性腰痛の症状を改善するために日常生活でできるヒントを含むメッセージをSNSで送信するようプログラムしたもので、毎日1~3分間程度の簡単で効果のある6種類の運動療法メニューを、オリジナルの患者教育ツールとともに12週に渡り提供し、運動の継続性や慢性腰痛の改善に関する評価を行った。なお、同研究はCOVID-19の影響下で実施された(2020年6月~2021年3月)。

モバイルアプリ併用群で、慢性腰痛の自覚的改善度・QOLなどが有意に改善

その結果、慢性腰痛の痛みを緩和させるための薬物治療を含む通常診療のみを継続した患者群と比較して、モバイルアプリを併用して活用した患者群では、12週後の腰痛の自覚的改善度(3.2 vs 3.8; difference between groups −0.5, 95% CI −1.1 to 0.0; p=.04)に加え、慢性腰痛患者が伴うことの多い運動恐怖(−2.3 vs 0.5; difference between groups −2.8, 95% CI −5.5 to −0.1; p=.04)、さらには健康関連QOL(EuroQoL 5 Dimensions 5 Level: 0.068 vs 0.006; difference between groups 0.061, 95% CI 0.008 to 0.114; p=.03)が統計学的に有意に改善された。特に、事後解析になるものの12週の期間中、75%以上の日数で運動実施を達成した群は、達成率が75%未満の群または通常診療のみを継続した群よりも、労働生産性(QQ法)、痛みの程度を示す尺度(NRSスコア)、慢性腰痛によって日常生活が障害される程度を示す尺度(RDQ-24)の改善が大きく示された。

また、運動療法では、その継続(順守)率の低さがどの分野でも問題視されているが、同研究においては12週の期間中、75%以上の日数で運動実施を達成した集団が50%以上とその継続(順守)率が高く、同集団を対象とした事後解析では、労働生産性の改善に加え、腰痛の程度と腰痛特異的QOL両者の臨床的に意味のある改善(MCID:minimal clinically important difference)が認められた。併せて、慢性腰痛の改善に伴い通院回数が減少したことも認められたという。

慢性腰痛改善やQOL向上に加え、オンライン診療やセルフケアによる医療費削減にも期待

今回の研究結果から、患者教育と運動療法をセットにしたプログラムをモバイルアプリで提供することによって、継続が困難とされていた運動療法をリモート環境で習慣化させることができ、それに伴って、慢性腰痛の改善や生活の質の向上が見られることが明らかにされた。慢性腰痛に対する簡易かつ有効な患者教育と運動療法をセットにしたプログラムをリモートで提供することの有効性が確認できたことによって、COVID-19の影響下においてニーズが拡大したオンライン診療との連携が期待でき、また、セルフケアを充実させることによる医療費の削減にも寄与する可能性がある。

「今後は、患者教育と運動療法に加え、慢性腰痛に有用な治療である認知行動療法を条件に取り入れた場合の効果を検証するなど、働く世代のパフォーマンス低下を引き起こす社会的問題とされる慢性腰痛の改善に向けた臨床への応用にも取り組む予定だ」と、研究グループは述べている。

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