Zoomで創造的なアイディアは生まれない?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを受け従来の勤務体系が一変し、今やオンライン上でビデオ通話を行うZoomなどのツールを用いて会議(以下、オンライン会議)が行われることも珍しくなくなった。そんな中、オンライン会議は従業員の創造的なアイディアの生成を妨げる可能性のあることが、米コロンビアビジネススクールのMelanie Brucks氏と米スタンフォード大学のJonathan Levav氏が実施した研究で明らかになった。研究の詳細は、「Nature」に4月27日掲載された。
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この研究結果は、602人の参加者を対象にした実験室実験と、ヨーロッパ、中東、および東南アジアの5カ国の大手通信会社で総計1,490人の従業員を対象に実施されたフィールド実験に基づくもの。
実験室実験では、参加者をランダムにペアに分けた上で、創造性を必要とする課題を対面またはオンラインで行ってもらった。課題の内容は、ある製品(気泡緩衝材など)の創造的な用途について5分間で思いつく限りのアイディアを出し、その後、1分間で最も革新的だと思うアイディアを1つ選ぶという内容だった。
その結果、全体的には、対面ペアの方がオンラインペアよりも出したアイディアの総数と、創造的なアイディアの数が多かった。しかし、出したアイディアの中から最良のものを選ぶという点では、むしろオンラインペアの方が優れていた。この結果はフィールド実験でも同様であり、創造性の点では対面ペアの方が優れていたが、意思決定の点ではオンラインペアの方が優れていた。
Brucks氏は、職場での直接的なやり取りがなくなってしまう可能性を懸念する声は多いものの、実際には、オンライン会議と対面での会議は多くの類似点を持つと話す。同氏は、「両者の大きな違いの1つは、物理的な環境だ。同僚が同じ部屋にいるときは、気兼ねなく周囲を見回したり、動き回ったり、窓の外を眺めたりして、目と心を自由にさまよわせることができる。これは創造的なアイディアの生成においてはプラスに働く」と話す。
これとは対照的に、オンライン会議では、同僚がデバイスのスクリーンの枠の中に存在するという、対面での環境とは大きく異なる「共有環境」が作り出される。Brucks氏は、「オンライン会議では、脇見をしただけでその共有環境から離れたことになる。そのため、オンライン会議に参加する人はたいてい、視線をスクリーンに固定する。これはアイディアの生成にも悪影響を及ぼす」と説明する。実際に実験室実験では、アイトラッキングにより、オンラインペアでは、アイディアを捻出する際に周囲を見回すよりもコンピューターのスクリーンを見つめる時間の方が長いことが示された。
これらのことを説明した上でBrucks氏は、「だからといって、このようなオンライン会議での視線の向け方が良くないということではない。ともすると議題がそれがちな対面会議とは違って、オンライン会議では効率化が促進される可能性があるからだ」と話す。
この研究には関与していない、米ニューヨーク市立大学バルーク校ジクリン・ビジネススクールのAna Valenzuela氏は、「この研究結果は非常に理にかなっている」と話す。同氏は、認知や感覚が身体や環境と密接に絡み合っているとする「身体化された認知(embodied cognition)」と呼ばれる心理学の概念を引き合いに出し、「トンネルの中から外を見ているかのような状態で認知が狭まっているときに、思考を広げて斬新なアイディアを出すことはできない」と述べる。そして「Zoomでは、セレンディピティ(偶然の産物)が生まれることはない」としている。
ただし、Valenzuela氏もBrucks氏と同様に、オンライン会議が良くないと言っているわけではないことを強調。「ただ、特定のタスクには最適とはいえないというだけのことだ」と付け加えている。
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・Virtual communication curbs creative idea generation
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