医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 「特発性過眠症」の発症リスク遺伝子を発見、世界初-都医学研ほか

「特発性過眠症」の発症リスク遺伝子を発見、世界初-都医学研ほか

読了時間:約 3分5秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年04月15日 AM11:15

特発性過眠症の発症と関連する遺伝子は不明だった

東京都医学総合研究所は4月13日、オレキシン前駆体遺伝子の切断部位のまれな変異が特発性過眠症と関連することを証明したと発表した。この研究は、同研究所睡眠プロジェクトの宮川卓副参事研究員、本多真副参事研究員らと、国立研究開発法人国立国際医療研究センター ゲノム医科学プロジェクトの徳永勝士プロジェクト長、関西医科大学の田中進准教授らの共同研究によるもの。研究成果は、「npj Genomic Medicine」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

特発性過眠症は睡眠時間が病的に延長し、覚醒しても日中に強い眠気が持続する。朝も昼寝時も目覚めが非常に悪く、寝ぼけた状態が持続する「睡眠酩酊」を呈し、重症例は長期にわたり、1日14~16時間眠ってしまうなど、日常生活に多大な支障をきたす。眠気の軽減に用いられる薬剤が必ずしも効力を発揮しない一方、副作用が生じやすいことも問題となっている。

特発性過眠症は家族内発症が多く、遺伝要因があると考えられてきたが、これまで発症と関連する遺伝子は明らかにされていなかった。以前に研究グループは、頻度の高い一塩基多型(SNP)を対象とした研究を行ったが、特発性過眠症と関連する確かな発症リスク遺伝子を同定するには至らなかった。そこで今回、特発性過眠症の発症リスク遺伝子の同定を目指し、頻度の低いまれな変異を対象とした研究を実施した。

特発性過眠症の発症リスク遺伝子はオレキシン前駆体遺伝子、変異がある患者は重症化傾向

発症リスク遺伝子を同定するためには、対象疾患を適切に診断し、できる限り多くの患者に参加してもらうことが重要だ。しかし、特発性過眠症はまれな疾患であり、さらに中枢性過眠症の中でも、その診断が容易ではないことが知られている。そこで、全国の睡眠障害の専門医と共同研究体制を構築することで、厳密な診断基準に合致した患者を集積し、最終的に598人もの特発性過眠症患者のDNAを解析することが可能となった。これは世界最大のサンプル数だという。

まず、440人の特発性過眠症患者群と8,380人の対照群について1回目の解析を行った結果、オレキシン前駆体遺伝子上のアミノ酸置換を伴う変異(68番目のリシンがアルギニンに置換)の頻度が、患者群で有意に高いことが明らかになった。

この結果が偽陽性でないことを証明するために、新たに158人の特発性過眠症患者群と1,446人の対照群について、2回目の解析を行った(1回目で解析された人のDNAは含まず)。その結果、2回目の解析においても、この変異の頻度が患者群で有意に高いことが確認された。2つの解析を統合した結果、患者群におけるこの変異アリルの頻度は1.67%であるのに対し、対照群での変異アリルの頻度は0.32%だった。さらに、この変異の有無で特発性過眠症の患者の睡眠検査や臨床情報の結果を比較したところ、変異を有する患者は重症化傾向を示すことも判明した。

野生型に比べ、変異体のオレキシン前駆体ペプチド断片は切断される割合が低い

オレキシン前駆体は切断されることで、オレキシンAとオレキシンBが生成される。このオレキシンAとオレキシンBが、2種類のオレキシン受容体を介して、睡眠と覚醒を調整することが知られている。同定した変異は、オレキシン前駆体が切断される部位に位置していた。そこで、変異体と野生型(変異無)のオレキシン前駆体ペプチド断片で、切断酵素(プロホルモン変換酵素1とプロホルモン変換酵素2)による切断の程度に違いが見られるか検討した。その結果、野生型に比べて、変異体のオレキシン前駆体ペプチド断片は、切断される割合が低いことがわかった。

次に、切断されなくてもオレキシン前駆体ペプチドが、オレキシン受容体に対して、薬理活性を持つ可能性もあるため、2種類のオレキシン受容体に対する、オレキシン前駆体ペプチド、オレキシンAおよびオレキシンBの薬理活性の違いについても、細胞レベルで検討した。その結果、オレキシン前駆体ペプチドは、薬理活性が低いことを確認した。統合すると、特発性過眠症と関連するこの変異により、オレキシンシグナリングに異常が生じることが示唆された。

開発中のオレキシン作動薬が今回の変異を有する特発性過眠症患者にも有効である可能性

特発性過眠症は原因不明の過眠症で、異質性が高く、これまで研究がほとんど実施されてこなかった。しかし、今回の研究成果により、特発性過眠症の発症リスク遺伝子が世界で初めて発見された。オレキシン系の異常はナルコレプシー(代表的な中枢性過眠症)に特異的なものと考えられていたが、特発性過眠症の一部の群にも、変異を介してオレキシン系の異常が関与することが明らかにされた。

「現在、複数の製薬会社がナルコレプシー治療薬としてオレキシン作動薬を開発中だ。今回同定した変異を有する特発性過眠症患者にも、このオレキシン作動薬が有効である可能性があり、将来的な個別化医療に貢献する研究成果となる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか
  • 乳児股関節脱臼の予防運動が効果的だったと判明、ライフコース疫学で-九大ほか
  • 加齢黄斑変性の前駆病変、治療法確立につながる仕組みを明らかに-東大病院ほか
  • 遺伝性不整脈のモデルマウス樹立、新たにリアノジン受容体2変異を同定-筑波大ほか
  • 小児COVID-19、罹患後症状の発生率やリスク要因を明らかに-NCGMほか