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百日咳の咳発症メカニズム解明、原因療法開発に期待-阪大ほか

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2022年04月05日 AM10:45

再興感染症として成人を含む患者数が増加、原因療法の開発は急務

大阪大学微生物病研究所は3月31日、百日咳の咳発作発症メカニズムを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所の平松征洋助教、堀口安彦教授(感染症総合教育研究拠点兼任)らの研究グループが、大阪大学、、星薬科大学の共同研究グループとして行ったもの。研究成果は、「mBio」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

百日咳は、百日咳菌(Bordetella pertussis)がヒトの気道に感染することによって起こる、特徴的な咳発作を伴う呼吸器感染症。患者は、感冒症状を呈するカタル期から顕著な咳が見られる痙咳期を経て多くは回復期を迎えるが、乳幼児の重篤例では咳発作によるチアノーゼ、呼吸停止を起こし、最悪の場合には死に至る。百日咳は1950年代に始まるワクチンの開発・普及によって制御されていたが、近年では、ワクチンが広く普及した先進国においても乳幼児期に接種したワクチン効果の減弱した成人層の感染やワクチン成分と抗原性の異なる抗原変異株の出現などで患者数が増加しており、いわゆる再興感染症の一つに挙げられている。日本国内でも、これまでの百日咳の発生動向調査が指定医療機関(小児科)の定点把握であったところ、近年の患者数の増加傾向を鑑みて、2018年からは成人を含む全数把握疾患に指定されている。国立感染症研究所によると、2018、2019年には1万人以上の患者が報告されている。

百日咳の治療にはマクロライド系抗生物質が第一選択薬として菌の排除に使用されるが、典型的な咳発作が認められてからの咳に対する改善効果は低く、一般的に呼吸障害を改善するその他の療法(鎮咳剤、吸入ステロイドなど)にも、百日咳に効果を期待できるものはない。そのため、発症後の咳発作に有効な治療薬が望まれているが、百日咳の咳発症メカニズムが不明であるために、最も効果の期待できる原因療法につながる研究は全く進んでいなかった。さらに、日本を含む世界各国でマクロライド耐性百日咳菌の分離が報告され、米国疾病予防センター(CDC)が同菌の薬剤耐性化を潜在的脅威として注意を喚起していることもあり、百日咳に対する原因療法の開発は急務の課題とされている。

百日咳の咳発作を再現するマウス咳発症モデルを確立

百日咳の咳発作に関する研究が進まない原因として、百日咳菌がヒトのみを宿主とするために、百日咳の咳発作を再現する汎用性の高い動物モデルが確立できていない点が挙げられる。そこで今回、研究グループは、百日咳の咳発作を再現する実験小動物モデルの確立に着手し、C57BL/6マウスに大量の百日咳菌を感染させることで、再現よく咳発作を起こすことを発見した。さらに、百日咳菌の感染だけでなく、菌体破砕液の経鼻投与によってもマウスの咳発作が誘発されたことから、このモデルを用いることで、菌の感染効率とは独立して百日咳の咳発作を解析することが可能となった。

3種の病原因子が宿主のブラジキニン-TRPV1経路を活性化し咳発作を誘発

このマウス咳発症モデルを用いて、百日咳菌の菌体破砕液中に含まれる咳誘発因子の同定を試みた結果、同菌の産生するリポオリゴサッカライド(LOS)、Vag8、百日咳毒素が協調して咳発作を引き起こすことを突き止めた。

上記3種類の病原因子がどのようにして咳発作を引き起こすか解析したところ、LOSはtoll様受容体4(TLR4)を介して炎症性メディエーターであるブラジキニンの感染局所での濃度を増加させ、Vag8はブラジキニンの生成系路の抑制因子であるC1インヒビターを阻害することによりブラジキニンの生成レベルを高めていた。ブラジキニンは咳発作を誘発するTRPV1の興奮感受性を増大させることが知られているが、百日咳毒素は、TRPV1の感受性を負に制御するGiタンパク質の機能を遮断することでTRPV1の興奮性をさらに高め、咳発作が容易に起こる状態を作り出していることがわかった。また、咳発症メカニズムを明らかにする過程で、ブラジキニンの受容体とTRPV1のアンタゴニスト(拮抗薬)が百日咳の咳発作を抑制することがわかったため、−TRPV1経路の阻害が咳発作の治療につながることも示された。

これまで百日咳の咳発作発症メカニズムが不明だったために、同症の病状の緩和には対症療法で処置せざるを得ない状態が続いており、原因療法の開発が望まれていた。研究グループは、「今回、百日咳における咳発症メカニズムが解明されたことで、その知見に基づいた咳発作抑制法の開発につながることが期待される」と、述べている。

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