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微小な脳領域「前障」の抑制が、マウスの不安やうつ様行動を改善-阪大

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2022年03月28日 AM11:00

どの神経細胞の活動がストレス応答に重要なのか?

大阪大学は3月19日、精神的なストレスを受けた直後のマウスの脳全体の神経細胞の活性化を機械学習によって判別分析し、「」という微小な脳領域の活性化が最も特徴的であることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科の大学院生の丹生光咲氏、笠井淳司准教授、橋本均教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ストレスに対する脳の反応は、安全や生存のための適切な行動選択にとても重要だ。しかし、過度なストレスや繰り返されるストレスは、不安障害やうつ病などこころの病気を引き起こす場合がある。特定の神経回路や脳領域に絞った研究により、例えば扁桃体などの脳領域が負の感情を生み出す中心的な役割を担うと考えられている。一方、ヒトの脳画像研究などから、ストレスは脳全体の扁桃体を含む、さまざまな領域の神経活動を変化させることが知られていたが、脳には多数の細胞(マウス脳は約1億個、ヒト脳では約1,000億個)があり、どの神経細胞の活動がストレス応答に重要なのかを理解することは困難だった。また、扁桃体の情報がどこに伝わり、感情などの変化を生み出すのかも不明だった。

ストレスを負荷した直後のマウス脳を解析し、不安を制御する少数の細胞集団を発見

これまでに笠井准教授、橋本教授らの研究グループは、脳を構成する全ての細胞を高速にイメージングする顕微鏡システム「FAST」を開発し、神経細胞の活性化の指標となる最初期遺伝子レポーターマウスと組み合わせることにより、脳にある全ての神経細胞の活性化を検出する方法を構築していた。この方法により、ストレス応答に重要な神経細胞を特定できると考えていたという。

研究グループは今回、活性化した神経細胞が蛍光タンパク質で標識される最初期遺伝子レポーターマウスと脳の全ての細胞を観察できるFASTシステムを組み合わせて、ストレス直後の脳を詳細に観察した。

その結果、ストレスに応答して活性化するのは前障の一部の細胞だけであり、この細胞集団を化学遺伝学的や光遺伝学の技術を用いて活性化させると不安様行動が生じること、反対に、抑制するとストレス後の不安様行動が抑制されることを見出した。

前障の「活性化」で不安様行動が生じ、「抑制」で不安やうつ様行動が改善

さらに前障は、扁桃体の一部(扁桃体基底外側核)にあるストレスに応答して活性化する神経細胞から神経投射を受けていることも明らかにした。この扁桃体基底外側核―前障の神経回路だけを光遺伝学的に活性化することでも不安様行動が生じることを見出した。これは、扁桃体から前障に伝わる情報が、不安などの負の情動に重要であることを示している。さらに、ストレスを繰り返して受けるときに前障の神経活動を抑制すると、その後のうつ様行動の発現も抑えられることが明らかになった。

ストレス関連精神疾患の発症機序解明や治療法開発につながることに期待

今回の研究成果により、ストレスによる不安応答を制御する細胞集団が明らかにされた。この特定の細胞集団の活動を標的にする新たな治療法の開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。

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