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日本人の家族性脳動脈瘤、同一家系でも影響する遺伝要因は複数と判明-東京女子医大

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2022年03月25日 AM11:15

くも膜下出血の主な原因「」、遺伝的要因の関与は明らかでない

東京女子医科大学は3月18日、脳動脈瘤の発生メカニズムに迫る遺伝要因の解明に成功したと発表した。この研究は、同大附属足立医療センター脳神経外科の前川達哉助教(同大総合医科学研究所 兼務)、赤川浩之准教授(兼・総合医科学研究所 准教授)、恩田英明非常勤講師(甲府脳神経外科病院脳神経外科部長)、糟谷英俊教授の研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近年の厚生労働省発表資料等によれば、脳卒中は年間死亡者数の上位第4 位以内に位置している。中でも特に死亡率が高いのがくも膜下出血で、そのおよそ8割は脳動脈瘤の破裂に起因し、出血により半数以上の患者が死亡あるいは重篤な後遺症を残す結果となる。さらにくも膜下出血の発生頻度には明確な国別地域間格差が存在し、世界的にも日本人は最も発症頻度が高いと報告されている(人口10万人当たり20人/年:脳卒中治療ガイドライン調べ)。脳動脈瘤の成因には、高血圧症や喫煙などの環境因子が関連していることはよく知られているが、しばしば家族集積性を示すことがあり、遺伝要因の関与も認識されている。このように環境要因と遺伝要因が相互作用して発症に至るものが多因子疾患とされるが、要因となる遺伝子(感受性遺伝子)が特定できれば疾患の分子生物学的な成因が解明でき、新たな治療法や予防法の開発に結びつくと期待される。

多因子疾患においてはゲノムワイド関連解析(Genome wide association study、GWAS)が標準的な遺伝解析手法であり、研究グループも脳動脈瘤における世界初の他施設国際共同によるGWASに参画し、いくつかの感受性遺伝子を報告している。特に複数の日本人集団での解析で再現性があるものにANRIL (9p21.3)やEDNRA (4q31.23)遺伝子座がある。いずれも脳動脈瘤の成因に動脈硬化の機序が関連することを示していた。

しかし一方で、GWASで特定される感受性遺伝子座単独での効果サイズは小さいこと(脳動脈瘤ではオッズ比にして1.2〜1.3程度)、GWASのような頻度の高い多型の解析では捉えられない遺伝要因(いわゆるmissing heritability)が存在することが問題点として認識されるようになった。そのため、最近では次世代シーケンサーを駆使して集団での頻度が低く効果サイズの高いレア・バリアントの解析も行われるようになってきている。欧米の研究班からは、もやもや病の感受性遺伝子として知られるRNF213 遺伝子や循環血管新生誘導因子をコードするANGPTL6 遺伝子のレア・バリアントとの関連が報告され始めている。

日本人家族性脳動脈瘤の家系から、新規疾患感受性遺伝子NPNT、CBY2を同定

研究グループはこれまで家族性脳動脈瘤の家系を収集してきたが、このうち3世代にわたって7人の患者を生じた大家系に注目した。今回の研究では、まず網羅的に次世代シーケンシング(Next-Generation Sequencing、NGS)を行い、検出された候補遺伝子をリシーケンシングで詳細に解析し、脳動脈瘤の病態解明のための新たな感受性遺伝子の発見を目指した。

この家系(F2054)から罹患者4人・非罹患者3人にNGSを実施したところ、有害な変異が罹患者で共有される候補遺伝子が7個検出されたが、そのうち特に変異の有害度の指標が最も高かったNPNT(Nephronectin)とCBY2(Chibby family member 2)に着目した。NPNTは細胞外マトリクスのタンパク質ネフロネクチンをコードし、インテグリンα8/β1の機能的なリガンドで腎臓の発達に欠かせないほか、いくつかのインテグリンを結びつけて細胞接着などに関与するとされている。NPNTの異常は血管内皮機能に影響し、正常な血管新生が阻害されることが報告されており、まず機能解析を実施した。

今回検出されたNPNTのスプライスドナー部位の変異c.1515+1G>Aをminigene assayで詳細に解析したところ、この変異は異常なスプライシングを引き起こして第10エクソン全体をskippingさせることが確認された。第10エクソン欠失では下流で早期に終止コドンとなり、ハプロ不全をきたすことが確認され、明らかな機能喪失型変異であることがわかった。

一方、CBY2はcDNAライブラリーを確認すると主に精巣に分布しているとされているが、脳でも少し見られると記されている。しかしこれまでに脳動脈瘤や血管疾患との関わりが報告されておらず、病態との関連が不明なため、より詳細に解析を行った。免疫組織学的検討では脳血管平滑筋に発現しており、CBY2のisoform 2に特異的だった。CBY2で検出されたミスセンス変異p.Pro83Thrについて生細胞イメージングによる機能解析を行ったところ、赤色蛍光タンパク質発現では変異により細胞質内での異常凝集が引き起こされた。

対象を広げCBY2全域をリシーケンシングし、3つの有害なレア・バリアントを確認

さらにCBY2の変異は他の動脈瘤家系や孤発症例からも検出されていたため、追加脳動脈瘤患者500例、対照323例を用いてCBY2全域のリシーケンシングを実施。そこで3つの有害なレア・バリアント(p.Arg46His、p.Pro83Thr、p.Leu183Arg)が確認され、対照(0/323)と比較して脳動脈瘤患者群(8/501)で有意に多く検出された(P=0.026)。

結論としてNPNTとCBY2の変異が、それぞれ脳血管内皮および平滑筋細胞の機能障害を惹起して脳動脈瘤の発生に寄与すると考えられ、NPNTとCBY2は脳動脈瘤の新しい感受性遺伝子であることが示唆された。以上より、家族性脳動脈瘤は同一家系であっても複数の遺伝要因で発症し、その遺伝背景は多彩で家系によっても異なることが明らかになった。研究グループは、「今回の研究のように脳動脈瘤発生率が高い家系を中心に精緻な分析を行い、脳動脈瘤の高度な遺伝的異質性や多因子要因を明らかにし、今後脳動脈瘤に対する新たな治療法や予防法が開発されることが期待される」と、述べている。

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