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脊髄小脳失調症、従来指標より鋭敏に重症度評価できる手法を開発-名大ほか

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2022年03月16日 AM10:45

緩徐進行性の神経難病SCA、重症度を鋭敏に捉えるバイオマーカーが重要

名古屋大学は3月14日、神経難病の遺伝性脊髄小脳失調症(SCA)について、独自のデバイスを用いて上肢の運動失調を評価する新規の手法を開発し、従来の指標より鋭敏に病気の重症度を評価できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科神経内科学の勝野雅央教授、岸本祥之客員研究者、同ヘルスケア情報科学実社会情報健康医療学の中杤昌弘准教授、愛知工科大学工学部電子ロボット工学科の永野佳孝教授、名古屋工業大学大学院の藤本英雄名誉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Clinical and Translational Neurology」電子版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

SCAは、運動失調が緩徐に進行する遺伝性の神経難病。現在SCAの進行を抑制する治療法はない。SCAの治療法開発が難航している背景には、SCAにおける病状の進行や、治療法の効果を見定めるための指標が未確立であることが挙げられる。現在SCAの重症度の評価はSARA、ICARSといった半定量的な評価スケールが用いられているが、これらの指標は病気の進行に伴う軽微な変化を捉えるのには不十分であり、また評価者によって評価が異なる場合もある。そのため、SCAの臨床試験を行ううえで、信頼性が高く、重症度を鋭敏に捉えることができるバイオマーカーの重要性が高まっている。

独自のデバイスでSCAの重症度を定量評価するDistortion Indexを開発

今回、研究グループは、独自のデバイスを用いて上肢の運動を測定・解析し、新規の指標としてDistortion Index(ゆがみを評価するスコア)を開発した。具体的には、10m秒毎にペンの先端の位置座標が測定可能である市販の機器と、4つのボタンから成る独自の失調評価デバイスを作成し、異なる2つのボタン間を出来る限り素早く9.5往復する際のペンの先端の位置座標を測定・解析した。得られた位置座標を利用して近似曲線を作成し、実際の軌跡と近似曲線との間のずれを、平均二乗誤差を用いて算出し、Distortion Indexと定義した。

SCA患者では健常者と比較して、Distortion Indexの数値が明らかに高い値を示した。Distortion Indexが上肢の運動失調を評価する上で妥当な検査かどうかを調べるために、Distortion Indexと従来の評価指標であるSARA上肢スコアとの関係を調べたところ、Distortion IndexはSARA上肢スコアと強い相関を認めた。

従来の評価指標では捉えられない、軽微な悪化を捉えられると判明

次に、Distortion Indexの検査の信頼性の確認目的に再検査法を実施したところ、検者内信頼性を示す級内相関係数は、非常に高い値を示し、Distortion Indexは再現性の高い検査であることが判明した。さらに、Distortion Indexが病状の進行を鋭敏に反映するかを評価するため、初回と12か月後にDistortion Index、SARA、ICARSを同時に評価したところ、Distortion Indexは従来の指標と比較して12か月で明確な悪化を示した。これは臨床試験を実施する際に必要となる患者数(サンプルサイズ)を、Distortion Indexでは従来の指標よりも少なくできることを意味する結果だ。

以上の結果から、Distortion Indexは信頼性が高く、SCA患者の上肢の運動失調の重症度を鋭敏に反映するバイオマーカーである可能性が示唆された。研究グループは、「今後Distortion IndexがSCAの臨床試験の評価項目として応用可能であるかを検証していきたい」と、述べている。

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