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SGLT2阻害薬で心不全治療は新たなステージに 治療満足度向上は疾患啓発が鍵-ベーリンガーほか

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2022年02月28日 AM10:00

日本ベーリンガーインゲルハイムと日本イーライリリーは1月27日、「慢性心不全治療におけるアンメットニーズと最新治療法」をテーマにプレスセミナーを開催した。
同セミナーでは、九州大学大学院医学研究院循環器内科学教授の筒井裕之氏が心不全の疫学や治療について、かわぐち心臓呼吸器病院副院長の佐藤直樹氏が慢性心不全発症後の生活満足度に関する患者・患者家族調査について講演。昨年11月に慢性心不全に対する適応を取得したエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス錠)をはじめとするSGLT2阻害薬の慢性心不全治療薬としての位置づけのほか、心不全治療についての新たな課題が提示された。

がん全体と比べ悪い予後、1年死亡率・再入院率は上昇傾向

現在、国内の心不全による入院患者数はおよそ30万人。高齢化の進展によって、今後もさらなる増加が予測されている。
全国レジストリにおける心不全入院患者の予後に関するデータ(JROADHF研究)1)より、「院内死亡率は7.7%である一方で、退院後1年以内での総死亡率は16%、再入院率31%、退院後4年以内での総死亡率は44%、再入院率は48%とされ、心不全という単一の疾患であるものの、5年生存率が7割ほどあるがん全体と比べても予後が悪い」と筒井氏は指摘する。さらに、2007~2015年に行われたATTEND研究について、院内死亡率こそ低下しているものの、治療の進歩にもかかわらず1年死亡率・再入院率は上昇傾向にあるという結果を紹介した。

標準療法での効果が不十分なHFrEFに対するSGLT2阻害薬の投与は推奨クラス1

心不全の治療薬は1950年代からさまざまな変遷を遂げてきたものの、死亡や再入院の回避に対しての効果は十分とはいえず、新たな治療薬の開発が行われてきた。近年、糖尿病治療薬として使用されてきたSGLT2阻害薬による心不全の入院に対する抑制効果が注目され、左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)を対象に行われたDAPA-HF試験とEMPEROR Reduced試験では、心不全による入院や死亡に対する有意な抑制効果が認められた2)3)。中でも心不全による入院を糖尿病の有無を問わず抑制したEMPEROR Reduced試験は、今回の慢性心不全に対する適応申請の根拠となっている。

2021年に出された急性・慢性心不全診療ガイドラインのアップデート版4)では、HFrEFの治療法として、従来の標準治療であるACE阻害薬/ARB+β遮断薬+MRAに加えACE阻害薬/ARBからARNI(サクビトリルバルサルタン)への切り替え、さらにSGLT2阻害薬を追加するという選択肢が示された。標準療法での効果が不十分なHFrEFに対し、心不全の悪化および心血管死のリスクの低減を考慮してのSGLT2阻害薬の投与は推奨クラス1(行うべき治療)、エビデンスレベルAとなっている。
なお、SGLT2阻害薬投与においては、投与早期の腎機能低下、利尿作用を有することからループ利尿薬の用量には注意すべきである。

心不全治療薬の選択肢が増え、使用する組み合わせや順番は日常の診療において重要な課題となっている。現在は、患者ごとに血圧や心拍数、腎機能などをプロファイリングし薬剤の優先順位を決めていくが、その中でSGLT2阻害薬は心拍数やカリウムに影響せず、容量調節・漸増が不要でどのような患者にも使用できるというメリットがある。筒井氏は「将来的には患者さんごとに個別化医療を目指していく時代が訪れるのではないか」と述べた。

心不全の症状の理解・把握に課題

かわぐち心臓呼吸器病院副院長の佐藤直樹氏は、医療費などの面からも心不全は国の課題であることを指摘。心不全の患者さんがどんな悩みを抱えているかを医療者サイドが把握することの重要性を提示したうえで、日本ベーリンガーインゲルハイムと日本イーライリリーが2021年6月に実施した「慢性心不全患者さんおよび患者さんご家族の実態調査」の結果を紹介した。この調査は慢性心不全で薬剤療法を受けている患者203名、慢性心不全患者の介護またはサポートをしている家族104名を対象にインターネットで行われた。

症状自覚時と診断時の年齢差は、患者本人による回答では約1年だった一方、患者家族では約2年半という結果となり、症状を家族が把握することの難しさが浮き彫りになった。またHFrEFと左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)の分類について、患者本人・患者家族ともに4割が自身の分類を把握しておらず、NYHA分類についても、患者本人・患者家族の多くが認識していなかった。
 
また、医療受診のきっかけについて健康診断で指摘された、という回答が少ないことに言及。理由のひとつとして、現在一般的な健康診断では心電図と胸のレントゲン以外に心不全を同定する検査項目がないことを挙げた。今後は脳卒中・循環器病対策基本法(以下、基本法)にも准じた形で、循環器疾患を的確にとらえられる検査項目を検討する必要性を指摘した。

平均66点にとどまる患者の生活満足度

慢性心不全と診断されてから自身に起きたこと、対応したこととして、全体のおよそ6割が何らかの活動性の制限を経験しており、中には仕事内容を変えるなど、かなりの制限を行った人もいる。また、およそ9割の患者は何らかのストレス、半数以上が強いストレスを感じている。患者本人の生活満足度としては100点満点中平均65.9点という結果になった。佐藤氏はまだ改善の余地があること、低満足度群では考え方もネガティブになり、それに伴い活動性も少なくなっていることに触れ、「心不全だから決して動いてはいけないわけではなく、適切な介入によって動けるようになるということを十分理解できていない患者もいる。そういったことも含めお互い情報共有をしながらその患者さんにとっての適切な治療を受けられるような環境や状況を整えることが必要」だと訴えた。

患者自身または患者家族が期待するサポートとして、「情報共有がしたい」という声に対しては「気軽な相談窓口を増やす取り組みの強化が必要」とし、一方で、「あてはまるものはない」という回答も多いことから、「どういったことを求めているのか明らかにしていく必要がある」と述べた。

心不全による入院はくり返すほど予後が悪くなり、心機能や活動性も落ちることが知られている。そのため、今後は再入院を減らす、より早く悪化に気づく状況・環境を整えていくことが求められる。
「患者さんとそのご家族にとって、日常生活に影響を与え、負担となっていることがこの実態調査で明らかになった。心不全の早期診断・治療、予後改善を達成するために、最新治療と日常生活動作の改善の可能性も含めた啓発活動の強化が必要だ」と締めくくった。

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