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加齢性ドライアイの原因疾患MGD、画期的な局所治療アプローチ法を発見-京大ほか

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2022年02月15日 AM11:30

ステロイドホルモンが合成したその場で作用する「イントラクライン機構」

京都大学は2月14日、加齢によって生じるドライアイの原因疾患に対し、眼局所のホルモンを制御するイントラクライン機構の発見という独自の新所見に基づいた、新たな作用機序の治療アプローチを見出すことに成功したと発表した。この研究は、同大薬学研究科の土居雅夫教授、佐々木玲奈修士課程学生(研究当時)、濵田悠貴修士課程学生(研究当時)、鑓水大介博士課程学生(研究当時)らの研究グループが、京都府立医科大学、京都市立病院、、千葉大学、昭和大学、、千寿製薬、理化学研究所と共同で行ったもの。研究成果は、「Nature Aging」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

」とは、英語で内分泌を表す「エンドクライン」に対比される言葉。内分泌の場合、ホルモンは内分泌腺で作られ、血流に乗って標的臓器へ届けられる。これに対し、イントラクラインは、作られたホルモンは血流に放出されることなく、合成されたその場で作用する。このメカニズムは、1990年代に提唱された重要な概念だが、実際の生体における役割や病気への関与はよくわかっていなかった。

イントラクライン機構がマイボーム腺に存在、加齢で減弱

(Meibomian Gland Dysfunction:MGD)は、ドライアイ発症の主な要因であり、シェーグレン症候群や抗緑内障点眼長期使用患者、重症オキュラーサーフェイス疾患にも高頻度に併発する疾患。MGDは典型的な加齢性疾患であり、高齢者に発症する割合が高いため、超高齢化社会に向け患者の増加が予測されている。しかし、なぜ加齢にともなってMGDの発症率が高くなるのか、その根本的な原理を説明する分子機構が全くわかっていなかった。そのため、現在のMGDの治療はいまだ満足度の低い対症療法にとどまっており、科学的有効性の実証された治療薬は世界的にみても開発が進んでいなかった。

マイボーム腺は、眼のまぶた(瞼)にある生体最大の皮脂腺で、涙液の最表層を形成する脂質を産生する器官。今回、研究グループは、まず、ヒトおよびマウスにおいてマイボーム腺の組織形態が加齢により萎縮や脱落をすること、さらには、ステロイドホルモンを局所で産生するイントラクライン機構がマイボーム腺に存在することをマウスの実験で明らかにし、その活性が加齢により弱まることを示した。

マイボーム腺の酵素3β-HSD活性低下で加齢性ドライアイに

続いて研究グループは、マイボーム腺のイントラクライン活性の要となる酵素として、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(+)要求性の3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(3β-HSD)を同定。遺伝学的に眼局所の3β-HSDを欠損させると、組織局所のステロイド合成能がなくなり、組織増生に必要な遺伝子群の発現低下とともにマイボーム腺の萎縮とドライアイが発症した。つまり、この酵素の活性をうまく取り戻すことがMGDの治療につながると考えられた。

研究グループはさらに、マイボーム腺の3β-HSD活性には昼夜の顕著なリズムがあること、そして、そのリズムや加齢による活性低下の原因が、酵素自身の発現量の変化ではなく、酵素が触媒反応に用いるNAD+の細胞内濃度変化に依存することを突き止めた。実際、ヒトのステロイド産生細胞において、細胞内のNAD+合成を阻害あるいは活性化すると酵素活性が変化すること、さらには、試験管内での精製酵素タンパク質を用いた実験においても、生理的濃度のNAD+変化に応じて酵素活性が劇的に変化することが判明。マウスの生体においても、酵素の発現量はあまり変わらないのに対し、マイボーム腺内のNAD+濃度は加齢により減少した。

3β-HSDの酵素活性ピーク時刻にNMN点眼投与でドライアイ緩和

以上の知見をもとに、研究グループは、NAD+のマイボーム腺内濃度を効率よく上げる方法によってMGDの抑制が可能になることを初めて明らかにした。具体的には、NAD+の生体内前駆物質であるニコチンアミドモノヌクレオチド()を用いて、3β-HSDの酵素活性ピーク時刻をねらった点眼投与を行うことで、マイボーム腺のイントラクライン機構が効率よく再活性化され、それによって、腺細胞の増生とともにドライアイが緩和されることを明らかにした。

ヒトのマイボーム腺の細胞にもマウスと同一のNAD+要求性3β-HSDが強く発現するため、今後、ヒトへの臨床応用が期待される。今のところ、ステロイドを直接用いる方法は、副作用や用量用法の問題でまだ成功には至っていない。これに対し、今回のイントラクライン活性化法は、非ステロイドのNMNの投与によって、マイボーム腺の本来あるべき場所で生来のステロイドホルモンを活性化することができるため、副作用などの問題を回避できること、さらには、生体内物質であるNMNの眼局所への時間特異的な投与法であるため、さまざまな影響を他の臓器に与えるリスクも低いと考えられる。

イントラクライン機構を利用するという新たな治療概念

MGDのみならず加齢性疾患の解明と制御は、高齢化社会において喫緊の医療課題となっている。なかでも血中のステロイドホルモンの低下は加齢において不可避な特徴だ。「今回の研究では、従来の血中を流れるホルモンではなく、組織局所のイントラクライン機構を利用するという、これまでにはない発想に立った新しい治療概念による加齢性疾患へのアプローチ法を世界に先駆け示すことができたと言える」と、研究グループは述べている。

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