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結核菌がマクロファージに寄生して免疫を抑えるメカニズムの一端を解明-琉球大ほか

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2022年02月01日 AM11:15

多剤耐性結核菌にも対処可能な新たな結核治療薬の開発が課題

琉球大学は1月28日、結核菌が宿主の免疫応答を抑制するメカニズムの一端を解明したと発表した。この研究は、(分子感染防御学分野)および大学院医学研究科(生体防御学講座)藏根友美(大学院博士課程)・澤田和子研究員・福井雅之研究員・梅村正幸准教授・松﨑吾朗教授・高江洲義一准教授、東北大学大学院医学系研究科(環境医学分野)松永哲郎助教・井田智章助教・西村明助教・赤池孝章教授、岡山大学学術研究院医歯薬学域(口腔微生物学分野)中山真彰助教・大原直也教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科(細菌学分野)松本壮吉教授の共同研究として行われたもの。研究成果は、「The FASEB Journal」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

結核は結核菌の感染によって引き起こされ、今なお世界で毎年100万人以上の命を奪う重大な感染症であり、世界保健機関(WHO)が世界三大感染症の一つとして重点的な対策を求めている疾患。結核の治療には結核菌に対する複数の抗生物質を一定期間投与する多剤併用療法が適用されるが、投与の条件が厳格に守られない状況下などで抗生物質に耐性を持つ多剤耐性菌の出現が大きな脅威となっている。このような多剤耐性結核菌にも対処可能な新たな結核治療薬の開発が世界的な課題となっている。

マクロファージへの寄生阻害という発想で、Zmp1とIL-1β産生抑制について解析

結核菌は、免疫細胞の一つであるマクロファージの細胞内に寄生して増殖する特徴を持っている。通常の細菌はマクロファージに取り込まれると殺菌されるが、結核菌はマクロファージが殺菌作用を発揮するのに必要な分子の機能を抑えるさまざまな病原因子を持っているため、マクロファージ内で殺菌されず、結核菌の細胞内への寄生が成立する(以降、寄生された細胞を宿主と呼ぶ)。結核菌が細胞内に寄生すると、体液中の抗菌分子(抗体など)による攻撃も受けることがなくなり、その結果、マクロファージが結核菌を守り増殖する場を提供することになってしまう。これが、免疫系がなかなか結核菌を排除できない理由の一つだ。したがって、結核菌の細胞内寄生に必要な病原因子の働きを阻害する方法を開発すれば、マクロファージの殺菌作用を強化でき、宿主の免疫応答を増強することで結核菌を排除できる可能性が考えられる。

これまでに、結核菌の持つタンパク質分解酵素の一種である亜鉛メタロプロテアーゼ1()が、細胞内寄生に必須であることが知られていた。Zmp1はマクロファージから産生され宿主の殺菌活性を増強する炎症性サイトカイン、インターロイキン-1β()の生成を抑制することが知られていたが、宿主の何に働きかけ、どの様な過程で細胞内寄生を成立させているかは不明だった。そこで、今回の研究では宿主側でZmp1の標的となっている分子の同定とその分子の機能解析を通じて、Zmp1によるIL-1βの産生阻害の分子機序の解明に取り組んだ。

結核菌Zmp1とマクロファージGRIM-19の会合が感染によるIL-1β産生に必須

まず、酵母ツーハイブリッドスクリーニング法を用いて、Zmp1と会合する宿主タンパク質を探索し、その候補の一つとしてミトコンドリア呼吸鎖複合体Iを構成するサブユニットの一つであるタンパク質のGRIM-19を特定した。これまでに、GRIM-19がIL-1βの産生制御に関わるという報告はない。そこで、マクロファージにおけるGRIM-19の役割を明らかにするために、ゲノム編集技術を用いてGrim-19遺伝子を欠損したマウスマクロファージ細胞株を樹立し、その細胞の応答を調べた。

結核菌の弱毒ワクチン株であるBCGを正常なマクロファージに感染させる実験を行ったところ、野生型BCGを感染させた正常マクロファージからはIL-1βの産生がほとんど見られないのに対して、Zmp1欠損BCG(∆zmp1-BCG)を感染させたマクロファージからはIL-1βの産生が認められた。つまり、Zmp1は確かにIL-1βの産生を阻害することが確認できた。一方、Grim-19欠損マクロファージに∆zmp1-BCGを感染させた場合は、IL-1βの産生が完全に抑制された。このことから、GRIM-19がBCG感染によって誘導されるIL-1βの産生に必須であることが明らかとなった。

GRIM-19はNLRP3インフラマソーム活性化に必須

次に、GRIM-19がどのようにIL-1βの産生を制御するのか、その分子メカニズムの解明に取り組んだ。IL-1βの産生にはインフラマソームと呼ばれるタンパク質複合体が重要な役割を果たす。インフラマソームはセンサータンパク質・アダプタータンパク質・タンパク質分解酵素(カスパーゼ1)から構成される。インフラマソームはセンサータンパク質の違いによっていくつかの種類に分けられるが、中でもNLRP3というタンパク質をセンサーとするインフラマソームは結核菌に感染したマクロファージからのIL-1βの産生に重要な役割を果たすことが知られている。

そこで、GRIM-19がNLRP3インフラマソームの活性化を制御するとの仮説を立て、Grim-19欠損マクロファージを用いてそれを検証した。その結果、Grim-19欠損マクロファージではNLRP3インフラマソーム活性化刺激に応答したIL-1βの産生もカスパーゼ1の活性化も起こらないことがわかった。すなわち、GRIM-19はNLRP3インフラマソーム活性化に必須であることが明らかとなった。

Zmp1はGRIM-19を標的としてミトコンドリア機能を阻害しIL-1β産生を阻害

NLRP3インフラマソームの活性化にはミトコンドリアに由来する活性酸素種(mtROS)が重要な役割を果たすことが知られている。また、mtROSの産生にはミトコンドリア呼吸鎖複合体Iが大きく寄与することも知られている。そこで、GRIM-19がmtROSの産生を介してNLRP3インフラマソームの活性化を制御する可能性を検証した。

正常マクロファージとGrim-19欠損マクロファージで、NLRP3活性化刺激で誘導されるmtROSの量を測定したところ、Grim-19欠損マクロファージではmtROSの産生が誘導されないことがわかった。さらに、呼吸鎖複合体Iの活性化の一つの指標として、ミトコンドリア内膜の膜電位を解析したところ、Grim-19欠損マクロファージでは正常マクロファージと比べて、膜電位が有意に低下することもわかった。また、一過的な遺伝子導入によりZmp1を強制的に発現させた細胞(結核菌感染によって細胞内にZmp1タンパク質が発現する状況を擬似的に再現)でも膜電位が有意に低下すること、その低下の度合いは呼吸鎖複合体Iの阻害剤を添加した場合と同程度であることがわかった。これらの結果から、GRIM-19は呼吸鎖複合体IからのmtROSの産生に必須の役割を果たしており、mtROSを介してNLRP3の活性化を制御することが示唆された。

Zmp1とGRIM-19の相互作用をブロックする新たな結核治療薬の開発に期待

今回の研究では、結核菌がマクロファージ内に寄生するために重要な役割を果たす病原因子の一つZmp1が宿主のGRIM-19と会合すること、および、GRIM-19がNLRP3インフラマソームの活性化に必須の役割を果たすことを見出した。Zmp1の標的が具体的に明らかになったことにより、今後はZmp1とGRIM-19の相互作用を阻害する薬剤を探索・開発することで、Zmp1によるIL-1βの産生阻害を解除し、マクロファージの正常な免疫応答を引き出せるようになる可能性がある。そのような薬剤は結核菌に直接作用する従来の抗菌薬とは異なり、宿主免疫の増強によって菌の排除を促進することから、多剤耐性結核菌に対しても有効な治療薬となるものと期待される。研究グループは今後、Zmp1によるGRIM-19の機能阻害の詳細なメカニズムを解明し、Zmp1の作用を阻害する方法の開発を進めていくとしている。

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