手足の発達に関与する遺伝子が指紋の形状にも関連
指紋は個人の特定に役立つだけのものではないようだ。中国科学院上海栄養・健康研究所のSijia Wang氏らが、手足の発達に関与するEVI1と呼ばれる遺伝子が指紋の形状に関連しているとする研究結果を発表した。この研究結果は、「Cell」1月6日号に掲載された。

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Wang氏は、「われわれがなぜ指紋について研究しているのか、不思議に思う人もいるかもしれない。われわれは、純粋な好奇心からこの研究を始めたが、その後、胎児の四肢の成長に関わる遺伝子が、指紋の形状に関連していることを突き止めた」と話す。
Wang氏らによると、胎児の手足の指の指紋は妊娠3カ月以降に形成される。今回、同氏らは、漢民族系の中国人9,909人を対象としたゲノムワイド関連解析(GWAS)と、2万3,000人以上のさまざまな民族からなるコホートを対象にメタアナリシスを実施し、指紋のパターンに関連する遺伝子領域について調べた。その結果、前者では18カ所、後者では43カ所の遺伝子座が指紋のパターンに関連していることを突き止めた。その中には、EVI1と呼ばれる遺伝子の発現調節に関与していることがうかがわれる領域が含まれていた。EVI1遺伝子は、胎児期の手足の発達に関与する遺伝子として知られている。
またWang氏らは、EVI1遺伝子が発現しないようにDNAを操作したマウスを用いて実験を行った。その結果、DNAを操作したマウスでは、操作を加えなかったマウスと比べて、指の表面の皮膚の模様に異常が生じることが判明した。
さらに、指紋の形状と指の長さが遺伝的に相関することも明らかになった。例えば、両手の小指に渦巻きのような形をした指紋(渦状紋)を持つ人では、それ以外のパターンの指紋を持つ人と比べて小指の長さが長い傾向が認められた。こうした相関関係には、手足の発達に関与する遺伝子が強く関連していることも分かった。
論文の筆頭著者であり、復旦大学のJinxi Li氏は、「これらの遺伝子がどのように指紋のパターンの形成に関わっているのかは明確になっていない。ただ、さまざまな指紋パターンの形成に深く関与する、ボーラーパッド(volar pads)と呼ばれる手や足に見られる隆起した組織に対し、成長に伴い加わってくる力の強さが指紋のパターンを決定付けている可能性がある」と説明する。同氏によると、胎児期には手の成長に伴い手のひらや指が伸長し、その際に、例えば渦状から蹄状に変化するなど指紋のパターンが変化する可能性があるという。
一方、Wang氏は、先行研究ではEVI1は白血病リスクと関連していることが示唆されているほか、渦状紋を持つ人は血液がんを発症しやすいことを明らかにした研究報告もあることを指摘。「多くの先天的な遺伝性疾患は、指紋などのさまざまな皮膚紋理(皮紋)と関連付けられている」と説明している。その一例として同氏は、ダウン症候群の子どもには、手のひらを横切る1本のしわがよく見られることを挙げている。その上で同氏は、「われわれの研究から、皮紋は重要な発達に関連する遺伝子の影響を受けていることが示唆された」と述べている。
この研究は復旦大学が主導する国際ヒトフェノーム・プロジェクトの一環で実施された。Wang氏らは指紋のパターンがさまざまな疾患にどのように関連しているのかについて検討するため、さらなる研究を計画している。
▼外部リンク
・Limb development genes underlie variation in human fingerprint patterns

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