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HBV/HCVキャリアに対する新規フォローアップシステムは有用-東京医歯大ほか

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2022年01月17日 AM11:00

国内HBV/HCVキャリアは推定209~284万人、陽性で未受診は推定約50~125万人

東京医科歯科大学は1月14日、)、肝疾患診療連携拠点病院(藤田医科大学病院)、(岡崎市保健所)の連携により構築された、肝炎ウイルス陽性者への受診受療勧奨とフォローアップシステムの有用性について検討し、同システムが肝炎ウイルス陽性者の受診受療率向上に有用であることが示されたと発表した。この研究は、同大大学院分子病理検査学分野の沢辺元司教授と菊池みなみ大学院生、国立感染症研究所、同大大学院医歯学総合研究科生体検査科学専攻分子病理検査学分野、広島大学大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学研究室、藤田医科大学医学部医学科消化器内科学、名城病院肝臓病センターらの研究グループによって行われた。研究成果は、「Hepatology International」に掲載されている。


画像はリリースより

WHOによると、全世界におけるB型肝炎ウイルス(HBV)キャリア、(HCV)キャリアは、それぞれ約2億5700万人、約7100万人存在すると推定されている(2015年時点)。HBVまたはHCVに感染すると高率に肝硬変や肝細胞がんを合併し、予後不良であることが知られているが、2015年時点で肝炎ウイルス検査を受けたキャリアはそれぞれ約9%と約20%であり、治療を受けたのはさらにそのうちの約8%と約7%にしか満たないと推定されている。

この現状に対し、WHOは2030年までにウイルス性肝炎撲滅を達成するには高い効果のある介入が必要であり、肝炎ウイルス検査と、肝炎ウイルス陽性者の受診、治療、長期慢性期医療受療の一連の流れを確立した上で、全肝炎ウイルスキャリアの90%を検査により検出し、そのうち80%に受診受療させなければならないと提唱した。

日本において、約209万~284万人存在すると推定されているHBV、HCVキャリアのうち、肝炎ウイルス検査を受検し、検査陽性であると知りながら医療機関を受診していない肝炎ウイルス陽性者は約50~125万人も存在すると推定されており(2011年時点)、陽性者を医療機関に結びつけることが課題となっている。

感染研、肝疾患診療連携拠点病院、保健所の連携でフォローアップするシステム

そこで、感染研、肝疾患診療連携拠点病院(藤田医科大学病院)、保健所(岡崎市保健所)の連携により、肝炎ウイルス陽性者への受診受療勧奨・フォローアップシステムが構築された。保健所による健診で検出された肝炎ウイルス陽性者に対し、年一回の医療機関受診の呼びかけ、調査票による受療状況の確認が開始された。

受診受療勧奨・フォローアップシステムでは、初めに、国立感染症研究所と肝疾患診療連携拠点病院が肝炎ウイルス検査陽性である旨の通知文やウイルス性肝炎に関するパンフレット、受診受療状況に関する調査票を作成して保健所に郵送し、次に保健所が陽性者にそれらの書類を発送した。陽性者はパンフレットにより医療機関を受診するよう呼びかけられ、調査票に回答し受療状況を感染研に返送することでフォロ-アップを受けた。最後に、国立感染症研究所と東京医科歯科大学大学院で回答済み調査票の解析を行い、解析結果を拠点病院と保健所と共有した。

受診率、通院率、治療率が向上した一方、70歳以上の陽性者に対する課題も

同システムを2012~2019年まで継続した結果、2012年に陽性者に受診受療の呼びかけを行わない状態で行った事前調査ではHBV陽性者:35%、HCV陽性者:34%であった受診率が、HBV陽性者:80%、HCV陽性者:91%と2019年まで継続的に増加した。また、2012~2019年の間に約60%のHBV、HCV陽性者が少なくとも一度は受診を達成した。通院率も事前調査と2019年を比較すると、HBV陽性者で約20%、HCV陽性者で約10%増加し、治療率もそれぞれ約10%、約30%増加した。

また、それぞれの陽性者の性別、年齢、居住地域と調査票回答率、受診率、通院率、治療率の関連を解析すると、HBV陽性者、HCV陽性者のいずれも70歳以上の高齢の陽性者が調査票への回答、受診、通院、治療をしていなかったことがわかった。保健所による健診で検出される肝炎ウイルス陽性者のうち、高齢者の割合が経年的に増えてきているので、今後は高齢の陽性者へのアプローチに関する検討が必要であると考えられた。

システムの拡大と、肝炎ウイルス陽性者の社会的背景を考慮した対策を

研究により、パンフレットと調査票といった紙媒体を用いた方法によって、肝炎ウイルス陽性者の受診受療率の向上と毎年の受療状況の確認ができ、長期的にシステムが実施可能であることが明らかになった。

今回は、国立感染症研究所と、愛知県内の保健所および肝疾患診療連携拠点病院の岡崎市保健所、藤田医科大学病院が連携してシステムを実施したが、国内の他の市町村でも同様の活動が行えると考えられる。より多くの市町村で同システムを実施することにより、国内で検査陽性であると知りながら医療機関を受診していないと推定されている肝炎ウイルス陽性者約50~125万人(2011年時点)を、一人でも多く医療機関に結びつけることができると期待される。

昨今は社会的に少子高齢化が問題視されているが、今回の研究から肝炎ウイルス陽性者に関しても高齢者へのアプローチに関する検討の必要性が示された。「システムの拡大と、肝炎ウイルス陽性者の社会的背景を考慮しつつ、引き続き対策を講じていく重要性が示唆される」と、研究グループは述べている。

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