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造血幹細胞移植時の集中的口腔ケアで好中球生着後の「血流感染症」軽減-新潟大

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2021年12月10日 AM11:10

集中的口腔ケアによる移植後の「血流感染症」減少効果は不明だった

新潟大学は12月8日、歯科専門チームによる集中的口腔ケアが同種造血幹細胞移植時の血流感染を減少させる効果があることを示したと発表した。この研究は、同大医学部血液・内分泌・代謝内科学教室(曽根博仁教授)の諏訪部達也医師、布施香子助教、増子正義病院教授らの研究グループと、歯学部顎顔面放射線学分野の勝良剛詞病院准教授との共同研究によるもの。研究成果は、「Supportive Care in Cancer」に掲載されている。


画像はリリースより

医療技術の進歩により過去20年で同種造血幹細胞移植の安全性は高まったものの、時に命の危険を生じる合併症が複数ある。移植後の非再発死亡は約20%とされ、その半分は感染症であり、解決されるべき課題となっている。中でも血流感染は生命を脅かす重篤な感染症で、血液の中に細菌が入り、血中で増殖している状態だ。移植時の中心静脈カテーテル留置や口腔粘膜障害が原因になりやすく、皮膚や口腔粘膜から細菌(最多はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌:CoNS)が血液の中に入り込み、血流感染を引き起こす。血流感染は好中球減少期のみならず、好中球回復後にも発生するがそのリスク要因はよくわかっていなかった。

口腔粘膜障害によって食事摂取が不十分であると、中心静脈カテーテルの使用期間も長期化し、血流感染のリスクを上げることがある。同種造血幹細胞移植時の中心静脈カテーテル挿入は治療継続のために必要な処置であり、また、口腔粘膜障害は、軽症を含めれば、ほぼすべての移植患者に起こるありふれた合併症だ。つまり、同種造血幹細胞移植は元々血流感染のリスクが高い治療といえる。これまで、集中的口腔ケアによって化学療法や移植時の口腔粘膜障害が軽減できることは知られていたが、移植後の血流感染の減少効果はよくわかっていなかった。そこで研究グループは今回、集中的口腔ケアと血流感染発生率の因果関係を明らかにするために、同大医歯学総合病院で行われた同種造血幹細胞移植患者の診療経過をさかのぼって調べる後方視的解析を行った。

集中的口腔ケアを受けた患者では、好中球回復後の血流感染発生率は約3分の1に

研究では、2006~2017年に移植を受けた患者を対象とした。全ての患者は移植前に歯科検診と必要な治療とブラッシング指導を受けており、セルフケア群は1日2回以上の歯磨き、消毒薬による含嗽を1日3~5回行い、歯科チームによる集中ケア群では、これらに加えて移植の7日前から週1~3回、1回あたり15分の歯科専門チームによる口腔内の診察と洗浄を行った。

解析可能だった同種造血幹細胞移植206件に対し、移植後180日までの全期間および好中球生着の前と後に分けた場合の血流感染の発生率、起因菌の種類を解析した。全体の血流感染の発生率は44.3%、好中球生着の前が30.7%、後が21.1%だった。最多の起因菌はいずれもCoNSで、それぞれ43.3%、35.7%、54.0%だった。口腔ケアの違いとして、歯科専門チームによる集中ケア群と、自分で行うセルフケア群を比較したところ、好中球生着前の血流感染に違いはなかったが、集中的口腔ケアを受けた患者では、好中球生着後の血流感染、特にCoNS感染が著減(8.3% 対 21.5%、セルフケア群)していた。中心静脈カテーテルの留置期間や病気の状態、移植方法の違いなどを考慮した場合でも、集中的ケアは好中球生着後の血流感染を低下させる因子だったという。

多職種連携で、より安全性が高く身体的負担の少ない移植療法の実現を目指す

今回の解析により、同種造血幹細胞移植における集中的口腔ケアの具体的な効果が明らかにされた。研究グループは、「新潟大学医歯学総合病院のグランドデザインにある「患者さんにやさしい高度医療の実践」に則り、より安全性が高く、患者の身体的負担を軽減する移植療法を多職種連携により実現していく」と、述べている。

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