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「作為の嘘」「不作為の嘘」に対する大人・子どもの道徳的判断の傾向を調査-神戸大

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2021年12月08日 PM12:00

「あえて言わない嘘」は「作為の嘘」より気にならない?

神戸大学は12月7日、大人だけでなく、小学生においても、あえて何も言わない「不作為の嘘」は、偽の情報を伝える「作為の嘘」よりも道徳的に甘く判断してしまう傾向が強いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院人間発達環境学研究科の林 創教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Experimental Child Psychology」に掲載されている。


画像はリリースより

人は誰でも嘘をついたことがあり、嘘は身近な社会的行動である。子どもにおいても、親や先生に怒られるのを避けるために、悪事を隠そうとして嘘をつくことは頻繁に見られる。嘘は行為の形態によって、2つのタイプに分けられる。1つは、「事実と違うことを相手に伝える」ことで欺くものだ。「」という言葉を聞いた時に通常思い浮かべるのはこのタイプであり、積極的な発言を伴っていることから、「作為による嘘(lies of commission)」とみなされる。一方で、事実を知っているのに「あえて何も言わない」ことで欺くこともある。これは「不作為の嘘(lies of omission)」と呼ばれる。

人間は物事を判断するとき、常に客観的であったり、合理的であったりするわけではなく、認知バイアスによって歪みが生じる場合があることが知られている。作為と不作為についても同様で、作為による悪いことを、不作為による悪いことよりもネガティブに判断する(不作為の方が気にならない)傾向がある。これを「不作為バイアス」と呼ぶ。これは、「他者の大切なものを突き落として壊す/落下しそうな他者の大切なものに気づきながら支えない(その結果、落下して壊れる)」というように、「何かをする/何もしない」という「行動の有無」に主として焦点を当てられた研究から明らかになったことである。

今回研究グループは、「発言の有無」に焦点を絞り、作為の嘘と不作為の嘘の道徳的判断においても不作為バイアスが生じるのかどうか、さらに年齢や状況によって、バイアスの程度に差があるのかを検討した。

大人と小学生が、4つの異なる嘘の場面を見て善悪を評価

研究対象は、小学3年生(8~9歳)78人、6年生(11~12歳)76人、大人80人。2つの類似した話で構成された4場面を用意し、そのうち2場面は「利己的状況」で、主人公が自分を守るために先生を欺く場面、残りの2場面は「他者をかばう状況」で、主人公が同級生を守るために先生を欺く場面だった。

さらに、利己的状況の2場面のうち一方は、主人公がわざわざ悪いことをする「意図的悪事」(例:ゴミ箱に投げ入れて遊んで、ゴミを散らかした)、もう一方は、主人公がうっかり悪いことをしてしまう「偶発的悪事」(例:うっかりゴミ箱をひっくり返して、ゴミを散らかした)とした。

他者をかばう状況の2場面も同様で、一方は、同級生がわざわざ悪いことをする「意図的悪事」で、それを主人公が目撃した内容(例:壁に落書きをしている同級生と目が合った)。もう一方は、同級生がうっかり悪いことをしてしまう「偶発的悪事」で、それを主人公が目撃した内容(例:うっかり壁を汚してしまった同級生と目が合った)とした。なお、各状況内の2場面で、主人公(および同級生)の性別を入れ替える設定だった。

各場面の2つの話で、主人公の「意図」(例:先生に聞かれたら、「わたしではない」と言おうとした)と、「結果」(例:主人公はホッとして喜んだ)は完全に同じ。唯一の違いは、主人公の嘘が「作為」によるもの(偽の情報を伝える)か、それとも「不作為」によるもの(何も言わない)かであった。参加者に対し、各場面で事実確認の質問をした後、2つの話それぞれについて「善悪の評価」を、7段階(3:とても良い、-3:とても悪い、など)で回答してもらった。

年齢や状況の違いを問わず、嘘の道徳的判断において不作為バイアスが生じる

その結果、全学年の4場面全てで、作為による嘘を不作為による嘘よりも悪いと判断していた。大人だけでなく子どもでも、嘘の道徳的判断において不作為バイアスが見られた。

次に、バイアスの強さを明確にするために、バイアス値を算出した。これは、作為による嘘の話での善悪評定値から、不作為による嘘の話での善悪評定値を引き算し、符号を逆転させたものだ。2つの話で主人公の意図や生じた結果は完全に同一だったことから、もし嘘に対する道徳的判断が論理的であれば、バイアス値は0になるはずだった。しかし、結果はすべてで統計的に有意に0より大きかったため、年齢や状況の違いを問わず、不作為バイアスが生じることが確認された。

大人は、意図的悪事を隠す方が偶発的悪事を隠す場合よりバイアス「大」

また、バイアスの強さは年齢によって違いがあることがわかった。小学3年生と6年生では4場面の間で差はなかったのに対して、大人では統計的に有意な差があり、利己的状況の方が他者をかばう状況よりもバイアスが大きく、また意図的悪事を隠す方が偶発的悪事を隠す場合よりバイアスが大きくなった。

事実確認質問から、悪事が意図的であったか偶発的であったかを区別できなかった参加者は分析から除外したため、子どもは大人と違って、状況に左右されず不作為バイアスが同程度に生起することがわかった。

さらに、不作為の嘘に対して、どの状況でも大人の方が小学3年生や6年生よりも寛容であることがうかがえ、このことが大人における不作為バイアスの強さを生み出していました。さらに、3年生から既に他者をかばう嘘に対して寛容な傾向が見られます。しかし、3年生では隠蔽する悪事の意図性の違いは評価に影響せず、6年生と大人では、他者をかばう状況において、他者の悪事が偶発的だった場合は、寛容に判断していることがわかった。

バイアスの影響を大人が認識し、嘘に対する子どもの道徳性向上へ

子どもは誰しも「嘘は悪いことだ」と教えられて育つが、これらの知見を総合すると、子どもの嘘に対する道徳的判断は、幼い頃から長い時間をかけて変化していくことが示唆された。

また、今回の研究結果は、教育にも重要な意味を持つと考えられる。たとえば、子どもが自分や友達の犯した罪を報告しなかった場合、不作為バイアスが無意識に働くことで、「嘘をついていないから問題ない」と考えてしまうこともあるだろう。この場合、親や教師など大人が、「真実を何も言わない」(不作為の嘘)ことは、「虚偽の情報を提供する」(作為の嘘)ことと同じ結果を生み出すことがあり、そうであれば、どちらも同じように悪いことであると指導すべき場合もあると考えられる。

しかし、研究結果は、大人でも嘘の道徳的判断において不作為バイアスが生起するだけでなく、むしろ子どもよりもバイアスが強く働くことを示している。このことは、大人自身も「不作為による嘘に対して、甘く判断しがちになる傾向」に気づきにくいことを意味する。子どもの道徳性を向上させる機会を逸している可能性もある。

「バイアスによる影響を大人が知っておくことで、子どもの嘘にかかわる道徳性を高めていくことができると考えられる」と、研究グループは述べている。

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