医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 新生骨への置換を増大させるOCP骨補填材を開発-東北大ほか

新生骨への置換を増大させるOCP骨補填材を開発-東北大ほか

読了時間:約 3分56秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年12月07日 PM12:00

自家骨やHA素材等に代わる、骨欠損を補う人工素材の開発へ

東北大学は12月3日、有用な骨補填材として世界的に期待される「リン酸八カルシウム()」に、第3成分として生体由来高分子であるゼラチンの共存下で化学合成することで、高い自己溶解性と新生骨置換性を兼ね備えた高活性OCP骨補填材の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科顎口腔機能創建学分野の鈴木治教授、濱井瞭助教、酒井進氏(博士課程学生)らと、大阪大学大学院工学研究科生体材料学領域の中野貴由教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Applied Materials Today」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

疾病や外傷で失われ、自己修復することが難しい骨欠損を修復するために、整形外科や口腔外科をはじめとした医療の領域では骨欠損部への人工材料を用いた補填治療が広く行われている。骨の細胞や成長因子、また細胞の足場となるコラーゲンや無機のリン酸カルシウムである骨アパタイト結晶を元来含む自家骨は、高い生体親和性と骨再生能を持つことから、骨補填材として第一選択されている。しかし、自家骨は、患者自身の正常な骨組織から採取され、その採取には二次侵襲を伴い、量的な制限もあることから、自家骨に代わり安定供給が可能な人工材料の開発が求められてきた。

骨アパタイト結晶に類似した組成と構造を有し、新生骨と直接結合できる骨伝導を示すハイドロキシアパタイト(HA)や、生体内で吸収性を示すβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)といったリン酸カルシウム系材料は、広く臨床応用されている人工合成の骨補填材である。しかし、これらは優れた生体材料であるものの、自家骨のように自身で骨再生能を示さないため、より高い骨形成能を持つ人工材料の登場が期待されてきた。

骨補填材開発において注目される無機の生体材料OCP

OCPは、骨や歯のアパタイト結晶の前駆体として位置づけられる物質であり、実際に歯の象牙質形成や骨アパタイト結晶の成長開始部位でその存在が確認された無機の生体材料である。研究グループはこれまでに、OCPのベンチスケール合成方法を確立してバイオマテリアルとして使えるようにし、OCPがHA材料と比較してより早い骨形成を引き起こすこと、また骨芽細胞の分化を促進して骨形成を促進すること、さらには破骨細胞の形成を誘導して材料の生体内吸収を促進することを解明している。これらの成果は、近年、東北大学発として実用化された生体由来高分子コラーゲンとOCPとの複合体による口腔外科領域の骨補填材開発における基本的な科学上の知見のひとつとなっている。以上の背景から、OCPは現在、世界の生体材料研究者が注目する素材であり、細胞の活性化機能を持つことから、OCPを活用して自家骨に匹敵する高活性骨補填材の開発が期待されている。

ゼラチン共存下の合成でOCP結晶に多くの転位導入、OCPの溶解性を高める効果を示唆

今回、研究グループは、コラーゲンの熱変性産物であるゼラチン分子が結晶成長中のOCPと特異的に相互作用して転位が導入されることで、OCPが高い骨形成能を獲得できることを解明した。転位は構造欠陥の一種であり、転位の存在が工業材料の性質を低下させる原因となることも知られているが、骨補填材としては逆に高い性能を発揮することを見出した。

ゼラチン存在下、もしくは非存在下で合成したOCP結晶には、転位の一種である刃状転位が欠陥として含まれることが高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)で観察された。また、特定の結晶面をフィルタリングすることで、得られたHRTEM像を解析することにより、ゼラチン共存下で合成したOCPには、非共存下で合成したものよりも、約6倍の密度で刃状転位が導入されていることが見出された。

なぜ、ゼラチン共存下での合成でOCP結晶に多くの転位が導入されるのか考察するため、結晶成長の異方性や、優先的に転位が導入される結晶面などを解析。その結果から、研究では、ゼラチン分子がある特定の結晶面と強く相互作用することで、OCPの結晶成長中に刃状転位が導入されるというモデルを提案した。このモデルを基に、その結晶面と相互作用すると予想されるゼラチンとは異なる有機分子共存下でOCPを合成すると、多くの転位が導入されることがHRTEM観察により確認された。

さらに、生理的環境を模倣した水溶液に転位密度の異なるOCPを浸漬し、結晶から溶出するカルシウムイオンやリン酸イオンの量を測定するとともに、結晶表面の化学状態を分析した。その結果、低転位密度OCPと比較して、高転位密度OCPでは、生理的環境下での加水分解反応(溶解を伴う反応)の速度が増大することが明らかとなった。これらOCPの加水分解反応の活性化エネルギーの差と、転位密度から推定された内部エネルギーの増加の対応関係から、高密度での転位の導入は、OCPの溶解性を高める効果があることが示唆された。

高転位密度OCPを骨欠損動物モデルへ埋入、新生骨との置換が促進

転位の導入がOCPの骨再生能に与える影響を検討するため、動物実験および細胞培養実験を実施した。細胞実験では、高転位密度OCPは、多量のカルシウムイオンやリン酸イオンの溶出によって間葉系幹細胞に刺激を与え、骨芽細胞(骨を造る細胞)への分化を促進させることが示された。

動物実験では、臨界径骨欠損(自己修復が困難なサイズの骨欠損)にOCP顆粒とスポンジ状のゼラチンとの複合体を埋入。得られた組織染色像では、低転位密度OCPと比較して、高転位密度OCPを埋入した欠損では多くの骨組織が再生されるとともに、OCP顆粒がほぼ吸収され、新生骨と置換していることが観察された。さらに、骨アパタイト結晶の配向性を解析した結果、高転位密度OCPは、より質の高い骨を再生していることがわかった。

転位導入OCP材料の工業スケールにおける合成の試みを検討

今回の研究から、高密度の刃状転位の導入が、結晶の自己溶解性を高めると共に、骨補填材の基材であるOCPの新生骨置換性を増大することを新たに見出した。「今後は転位導入OCP材料の工業スケールにおける合成を試み、また、生体吸収性高分子材料との組み合わせなど、骨再生材料としての応用検討を進めたい」と、研究グループは述べている。

なお、研究グループは、OCPへの転位導入は、ゼラチンと同様の分子相互作用が期待できるいくつかの他の有機分子でも可能となることも見出し、新たに特許出願し、骨補填材の新しい設計指針を提示したという。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 平均身長の男女差、軟骨の成長遺伝子発現量の違いが関連-成育医療センターほか
  • 授乳婦のリバーロキサバン内服は、安全性が高いと判明-京大
  • 薬疹の発生、HLAを介したケラチノサイトでの小胞体ストレスが原因と判明-千葉大
  • 「心血管疾患」患者のいる家族は、うつ病リスクが増加する可能性-京大ほか
  • 早期大腸がん、発がん予測につながる免疫寛容の仕組みを同定-九大ほか