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脳動脈解離診療の国際ガイドラインを作成-国循ほか

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2021年12月03日 AM11:00

頭蓋外および頭蓋内の脳動脈解離治療のエビデンスレベル・推奨度示す世界初のガイドライン

国立循環器病研究センターは11月30日、「欧州脳卒中機構の頭蓋外および頭蓋内脳動脈解離診療ガイドライン(ESO Guideline for the management of extracranial and intracranial artery dissection)」を作成したことを発表した。同ガイドライン(GL)は、同センターの古賀政利脳血管内科部長、脳血管内科の三輪佳織医師と、フランス・ボルドー大学神経内科のStéphanie Debette教授をはじめ欧米の神経内科医、脳神経血管内治療医、脳神経外科医、GL作成専門家と共同で作成されたもの。同GLは「European Stroke Journal」電子版に掲載されている。

同GLは、頭蓋外脳動脈解離や頭蓋内脳動脈解離の両方を包括的なアプローチで、Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation(GRADE)システムを使用し、全ての関連文献を調査し、エビデンスレベルや推奨度を示した世界初のGLである。臨床医に向けて、PICO(Population、Intervention、Comparator、Outcome)手順を使用して、頭蓋外脳動脈解離や頭蓋内脳動脈解離治療の推奨事項を示している。また、脳梗塞などの脳虚血、くも膜下出血または頭痛など何らかの症候が出現した頭蓋外脳動脈解離と頭蓋内脳動脈解離が対象(Population)となっている。

頭蓋外および頭蓋内脳動脈解離は若年性脳血管障害の主要な原因であるが、一般の脳卒中の原因として必ずしも患者数は多くない。患者数が少ないため、臨床試験を行うことが比較的難しく、現在までに行われた本格的な無作為割付試験は頭蓋外脳動脈解離に対する抗血小板薬と抗凝固薬を比較した2つのみだ。このような背景から同GLでは観察研究やエキスパートオピニオンが多く取り入れられた。欧州では頭蓋外脳動脈解離の報告が多く、日本を含む東アジアでは頭蓋内脳動脈解離の報告が多く、人種差が指摘されている。そこで、頭蓋内脳動脈解離の臨床経験が豊富な国立循環器病研究センターがGL作成に参加した。

CQは全6問、くも膜下出血を伴わない脳動脈解離に対する抗血栓療法など

クリニカルクエスチョン(CQ)は全6問設定。「虚血性脳卒中を発症した頭蓋外脳動脈解離や頭蓋内脳動脈解離に対する静注血栓溶解療法(PICO1)」「虚血性脳卒中を発症した頭蓋外脳動脈解離や頭蓋内脳動脈解離に対する血管内治療(PICO2)」「くも膜下出血を発症した頭蓋内脳動脈解離に対する血管内治療や外科治療(PICO3)」「頭痛のみの頭蓋内解離性動脈瘤に対する血管内治療や外科治療(PICO4)」「くも膜下出血を伴わない頭蓋外脳動脈解離や頭蓋内脳動脈解離に対する抗血栓療法(抗凝固療法vs.抗血小板療法)(PICO5)」「急性期以降に解離血管狭窄や解離性動脈瘤を認める場合の血管内治療や外科治療(PICO6)」。

頭蓋外脳動脈解離は50例以上、頭蓋内脳動脈解離は20例以上を文献レビューの対象とした。調査した関連文献のうち、前述した2つの無作為割付試験はPICO5に含まれ、その他は全て観察研究とケースシリーズ。CQに対して関連文献のメタ解析を行った。

「推奨」は1つ、データ不十分の治療にはエキスパートオピニオンを提示

推奨事項については次の通りである。頭蓋外脳動脈解離に関しては、虚血性脳卒中を伴った頭蓋外脳動脈解離において、静注血栓溶解療法と血管内治療がいずれも「弱い推奨」となった(PICO1、2)。急性期の頭蓋外脳動脈解離に対して、抗凝固薬または抗血小板薬のいずれかを使用することを「推奨」とした(PICO5)。急性期以降の頭蓋外脳動脈解離で解離血管狭窄や解離性動脈瘤を認める場合の血管内治療や外科治療は、推奨事項を検討するための十分なデータがなかったという(PICO6)。

一方、頭蓋内脳動脈解離に関しては、くも膜下出血を発症した頭蓋内脳動脈解離に対する血管内治療や外科治療を「弱い推奨」とした(PICO3)。それ以外、頭蓋内脳動脈解離に対して推奨事項を検討するための十分なデータはなかったとしている(PICO1、2、4)。

同GLの作成から、頭蓋外および頭蓋内脳動脈解離ではPICOのCQに対する推奨を決めるためのエビデンスレベルが概ね低いことがわかった。特に頭蓋内脳動脈解離では推奨事項を作成するためのデータの不足もわかった。データが不足している治療に対してはエキスパートオピニオンが示されており、GLで確認するよう周知している。

頭蓋内脳動脈解離の治療法確立への寄与に期待

同GLは脳神経内科医、脳神経外科医、脳神経血管内治療医が治療方針を決定するときの道標となるのみでなく、データが不足している脳動脈解離の臨床研究を行う上で既存文献のまとめになっている。日本をはじめとした東アジアでは頭蓋外脳動脈解離よりも頭蓋内脳動脈解離の報告が多く、日本の臨床研究と情報発信が頭蓋内脳動脈解離の治療法の確立に寄与することが期待される。

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