小児期の逆境体験は生涯にわたり健康に悪影響を及ぼす
小児期に逆境を体験した人では、体験しなかった人に比べて、後に心身の健康を損なうリスクの高いことが、ニュージーランドで実施された研究で明らかにされた。オークランド大学(ニュージーランド)のJanet Fanslow氏らによるこの研究結果は、「Child Abuse & Neglect」に10月28日報告された。

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この研究は、2019年に実施されたNew Zealand Family Violence Survey(ニュージーランド家庭内暴力調査)への参加者2,887人を対象に、逆境的小児期体験(ACE)が後の身体的健康およびメンタルヘルスに及ぼす影響を調べたもの。ACEの種類は、虐待として感情的・身体的・性的虐待の3種類、また、育った家庭環境に伴うものとして、パートナーに対する暴力(IPV)、家族の物質使用障害、家族の精神障害、両親の離婚、家族に服役中の人がいる、の全8種類とした。
対象者のうち、ACEがなかったのは半数以下(45.1%)で、21.7%は1種類、33.1%は複数のACEを持っていた。抑うつや不安などのメンタルヘルス問題を抱えている人の割合は、ACEのない人では17.3%だったのに対して、ACEが4種類以上の人では47%と前者の3倍近くであることが明らかになった。多変量解析の結果、ACEのない人に比べると、たとえ1種類でもACEを持つ人では、メンタルヘルスに問題を抱えるリスクが有意に上昇し(調整オッズ比1.52)、4種類以上のACEを持つ人の同リスクは約3倍高かった(同3.03)。
一方、身体的健康に関しては、4種類以上のACEと、心疾患、喘息、関節炎との間に有意な関連が認められた(調整オッズ比は順に、1.78、1.63、1.71)。関節炎では、2〜3種類のACEであっても有意な関連が認められた(同1.40)。また、ACEの種類により関連する身体的健康も異なり、心疾患リスクは、感情的虐待(同1.49)、性的虐待(同1.91)、IPVの目撃(同1.61)、家族の物質使用障害(同1.53)と、喘息は、家族の物質使用障害(同1.37)、家族の精神障害(同1.54)、両親の離婚(同1.47)と有意な関連を示した。
こうした結果を受けてFanslow氏は、「小児期の有害なストレッサーは、生涯にわたり、その人の心身のさまざまな健康に悪影響を与える可能性がある」と指摘。さらに、「その影響は社会全体に波及し、家族とその家族に関わる人々、さらには医療サービスと経済に大きな負担をかけることになる」と指摘する。
過去の研究でも、小児期のトラウマは、神経系やホルモンの発達、炎症経路、認知的・社会的・情緒的能力(コンピテンシー)、喫煙や物質使用障害などのリスクを伴う行動に影響を与えることが明らかにされている。しかし、社会経済的要因だけで、こうした結果を説明することはできていないのだという。
Fanslow氏らは、「子どもの貧困に対処するための政策とプログラムは、それ自体重要ではあるが、ACEの影響を十分に軽減することにはつながらない」と述べ、「この研究結果は、より広範な予防と介入に対するイニシアチブを確立するための推進力となるはずだ」と期待を示している。

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