医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > B細胞が分泌するGABA、新たな抗腫瘍免疫療法の標的候補に-理研ほか

B細胞が分泌するGABA、新たな抗腫瘍免疫療法の標的候補に-理研ほか

読了時間:約 3分25秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年11月11日 PM12:00

免疫細胞の代謝産物が抗腫瘍免疫反応に及ぼす影響は?

(理研)は11月10日、B細胞由来の「ガンマ-アミノ酪酸()」を標的とする抗腫瘍免疫機構を発見したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター粘膜免疫研究チームのシドニア・ファガラサンチームリーダー(京都大学大学院医学研究科附属がん免疫総合研究センター教授)、章白浩基礎科学特別研究員らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

生命を維持するには、エネルギーの獲得や生体成分の合成または分解に関わる代謝が必要だ。代謝経路のバランスは組織や細胞の正常な機能を保つために重要であり、その異常が原因となって糖尿病や腫瘍などの病気が生じる。

免疫細胞は、自然免疫細胞(単球やマクロファージなど)と獲得免疫細胞(T細胞とB細胞)に分けられるが、それぞれの代謝経路の特徴はまだはっきりと解明されていない。近年、代謝経路における代謝産物は、単なる化学反応に使われる中間体というだけでなく、特異的な生理活性を持ち、細胞の機能を制御することが明らかになってきた。しかし、その分子メカニズムにはまだ不明な点が多く残されている。

今回、研究グループは、代謝産物を介した免疫細胞間の機能制御に着目し、免疫細胞における代謝経路の特徴が抗腫瘍免疫反応に及ぼす影響について検討した。

マウスに炎症を起こすと末梢B細胞活性化でGABA合成促進

研究グループはまず、免疫細胞における代謝経路の特徴を見出すため、フットパッド接種モデルを導入し、野生型マウス、T細胞欠損マウス、B細胞欠損マウス、成熟T細胞と成熟B細胞両方の欠損マウスについて、接種リンパ節と非接種リンパ節のメタボローム解析を実施。その結果、野生型マウスの接種リンパ節では、非接種と比較してアラニン、アスパラギン酸、グルタミンの代謝経路における代謝産物の濃度が大きく変化し、グルタミン代謝経路に関与する「ガンマ-アミノ酪酸(GABA)」が明らかに増大することがわかった。

また、接種後の野生型マウスと免疫細胞欠損マウスを比較したところ、B細胞が欠損するとGABAが著しく減少すると判明。さらに、関節リウマチ患者の血漿中GABA濃度が疾患活動性評価スコアおよび血漿自己抗体(抗環状シトルリン化ペプチド)濃度と正の相関を持つことから、B細胞の活性化により末梢でGABA合成が促進されることがわかった。

B細胞はグルタミンからGABAを合成して細胞外に分泌

次に、異なる組織から単離したT細胞およびB細胞のGABA濃度を測定したところ、B細胞系統、特に小腸のIgA陽性形質細胞に高濃度のGABAが含まれることがわかった。また、B細胞におけるGABA合成機構を解明するために、グルタミン同位体(13C-グルタミン)トレーサー法を用いて、培養プレート内で刺激した生体T細胞およびB細胞の培養液の上澄みを解析。その結果、ヒトおよびマウスのB細胞がグルタミンからGABAを細胞内で合成し、細胞外に分泌することが判明した。

B細胞欠損マウスにGABA投与で腫瘍増大、GABA-A受容体拮抗薬で腫瘍抑制

これまでにB細胞欠損マウスが強い抗腫瘍免疫反応を示すことが分かっていたことから、GABAがどのように関与するかを検証。B細胞欠損マウスにGABAを徐々に放出できるペレットを投与し、マウス大腸がんMC38の成長進度や、腫瘍内浸潤CD8陽性T細胞(TICD8)、腫瘍関連マクロファージ(TAM)をそれぞれ解析した。その結果、B細胞欠損マウスではGABAの投与により、腫瘍組織の増大、TICD8の殺傷機能力の減少、TAMの抗炎症表現型への分化が認められた。

また、腫瘍を移植した野生型マウスにGABA-A受容体拮抗薬(ピクロトキシン)を投与すると、腫瘍増殖が一部抑制され、TICD8とTAMが抗炎症性の表現型を示したことから、GABAは抗腫瘍免疫反応を抑制し、その一部はGABA-A受容体を介すると考えられた。

「B細胞由来の」GABA合成を抑えるとTICD8増強で腫瘍サイズ抑制

次に、TAMは主に単球から分化するマクロファージであることから、単球からマクロファージへの分化過程において、GABAが直接影響を与えるかどうかを検証した。試験管内で単離したヒトまたはマウスの単球をGABA存在下にてマクロファージへ分化させたところ、細胞の増殖力および生存率が上がり、抗炎症性マーカーである葉酸受容体βの発現が増強されることがわかった。また、インターロイキン-10(IL-10)で刺激すると、マクロファージの抗炎症表現型がGABAにより増強された。このマクロファージをCD8陽性T細胞と共培養したところ、T細胞の殺傷能力および機能が抑制された。

最後に、B細胞由来のGABAが抗腫瘍免疫反応に及ぼす影響を調べるために、B細胞特異的にGABA合成酵素GAD67を欠損したマウスを作製し、腫瘍接種実験を行った。その結果、GAD67欠損マウスでは、腫瘍サイズが著しく抑制され、TICD8の腫瘍殺傷能力が増強されることが明らかになった。

GABA制御によるがんや自己免疫疾患等の新たな治療に期待

以上の結果から、B細胞由来のGABAは単球から抗炎症性マクロファージへの分化を誘導することで、抗腫瘍免疫反応を抑制することが示された。

今回の研究により、低分子代謝産物を中心とした抗腫瘍免疫のメカニズムの一端が明らかになった。研究グループは今後、GABAまたは類似の代謝産物を制御し、腫瘍、自己免疫疾患や感染症時の免疫応答制御を可能にする医薬品の開発を目指すとしている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 子の食物アレルギーは親の育児ストレスを増加させる-成育医療センター
  • 認知症のリスク、歯の喪失だけでなく咀嚼困難・口腔乾燥でも上昇-東北大
  • AI合成画像による高精度な「網膜疾患」の画像診断トレーニング法を開発-広島大ほか
  • 腹部鏡視下手術の合併症「皮下気腫」、発生率・危険因子を特定-兵庫医大
  • 自閉スペクトラム症モデルのKmt2c変異マウス、LSD1阻害剤で一部回復-理研ほか