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インスリンによる糖と脂質代謝制御の違いを全ゲノムレベルで解明-コロンビア大ほか

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2021年11月09日 AM11:15

FoxO1を欠損させると高血糖状態を改善できるが、そのメカニズムは未解明だった

千葉大学は11月8日、健康状態および糖尿病状態での糖代謝制御において重要な役割を持つ転写因子「」がゲノムに働きかける全体像を、特に糖・脂質代謝の観点から明らかにしたと発表した。この研究は、米コロンビア大学医学部 北本匠研究員(千葉大学大学院医学研究院特任助教:現在留学中)、Domenico Accili教授、千葉大学大学院医学研究院 金田篤志教授、岡部篤史助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要」にオンライン公開されている。


画像はリリースより

血糖値は膵臓から出るインスリンが全身に作用し維持されるが、中でも肝臓への作用は最も重要であると認識されている。インスリンが肝臓の細胞表面に到達すると、その信号は細胞内に伝わり、転写因子を通じて核内に入り、全遺伝情報が描かれているゲノムへと渡される。健康な状態では、インスリンは転写因子であるFoxO1を核内から追い出すことで機能するが、インスリンの信号伝達が障害され、高血糖の状態に至る際、FoxO1は核内に留まり続けることが観察されていた。

2008~2012年の間には、複数の研究室から肝臓のFoxO1を欠損させると高血糖状態を改善できることが報告され、インスリンによる肝臓での糖代謝制御はFoxO1により決定されていることがわかった。しかし技術的な問題から、FoxO1がどのようにゲノム上の遺伝子群へ働きかけているのかは未解明であり、これまでの重要な発見を糖尿病患者の治療へとつなげる上での大きな障壁となっていた。

PPARαはFoxO1の糖代謝制御を補っていることが判明

研究グループは今回、以下の成果をもとに、肝臓のFoxO1がゲノムに働きかける様子を明らかにした。

(1)作成した動物モデルにより、FoxO1は摂食、絶食といった栄養状態の変化に応じ、約6,000か所のゲノムへの結合を鋭敏に切り替えることがわかった。
(2)インスリンが担う主な機能には、糖・脂質代謝以外に細胞の生命維持という重要なものもある。FoxO1の標的となる遺伝子群の全体像が明かされる中で、こうした機能がプロモーターやエンハンサーなど、ゲノム上の異なる領域を通して制御されていることが判明した。
(3)FoxO1と同じ条件で核内に存在する複数の転写因子を同じ技術により比較解析したところ、半数以上の標的遺伝子をPPARαと共有していることがわかった。共有部位は糖代謝に関わる遺伝子によく見られ、両者の共通標的が糖代謝を制御する上で重要な遺伝子群であると考えられた。

糖尿病の状態では、FoxO1の糖・脂質代謝に関わる遺伝子群への働きかけが強まる

(4)インスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性という状態が、FoxO1にどのような変化をもたらすか観察したところ、FoxO1は、健康な状態で確認された栄養状態の変化への鋭敏な反応を失うことが判明。さらに、FoxO1はその絶対量を増やし、(2)で確認された糖と脂質代謝特異的なエンハンサー領域へ特に集まっていることが明らかになった。この領域が糖尿病による代謝障害の原因と想定される場所であり、糖尿病治療薬の開発につなげる上で重要な標的になると考えられる。

」の開発に期待

インスリン治療はこれまで、数えきれない糖尿病患者の命を救ってきた。しかし、インスリンには血糖値を下げる一方、脂肪を溜め込む作用がある。この作用は特に糖尿病患者で強く、時に治療により肥満を助長してしまうという問題点を抱えている。この解決には、インスリンが糖代謝と脂肪合成に作用する仕組みの違いを解き明かすべく、生命の設計図であるゲノムに目を向け、両者の違いを明らかにする必要があった。そして、その知見をもとに糖代謝にのみ作用する「選択的インスリン感受性改善薬」の開発が求められている。

「約20年前に発見されたFoxO1の研究成果により、インスリン研究の焦点は細胞表面から核内へと移った。本研究は、これを治療応用へと進める足掛かりとなるもの。この成果が、選択的インスリン感受性改善薬の実現に貢献することを願い、引き続き、多くの患者の命を守る治療法の開発を目指し研究を継続する」と、研究グループは述べている。

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