医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 急性白血病治療での臍帯血移植後GVHD、予後への影響は日欧で異なる-京大ほか

急性白血病治療での臍帯血移植後GVHD、予後への影響は日欧で異なる-京大ほか

読了時間:約 3分29秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年10月20日 AM11:00

国際共同研究で臍帯血移植の移植片対腫瘍効果とGVHD関連死を解析

京都大学は10月19日、日欧における臍帯血移植後のGVHDが予後に及ぼす影響を明らかにしたと発表した。この研究は、同大学医学部附属病院の諫田淳也病院講師、日本造血細胞移植データセンターの熱田由子センター長、ユーロコードのÉliane Gluckman教授、欧州血液骨髄移植学会急性白血病ワーキングパーティ―のArnon Nagler教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Bone Marrow Transplantation」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

抗がん剤治療に抵抗性を示す、あるいは再発する可能性が高い急性白血病に対して、同種造血幹細胞移植は、移植された細胞による抗腫瘍効果(移植片対腫瘍効果)により根治が期待できる確立した免疫療法だ。HLAを適合させることがGVHDなどの免疫学的な合併症リスクを低下させるため、HLA適合血縁・非血縁者が最も良いドナーと考えられているが、HLA適合ドナーが適切な時期に得られないこともしばしば経験する。

臍帯血は、HLA一致ドナーに代わる代替移植ソースとして確立された。特に日本において、臍帯血移植件数は増加傾向を示し、2020年度には1,496件(日本で実施された非血縁者間同種移植全体の58%)実施された。臍帯血移植件数は世界中で最も多く、日本が世界をリードしている。HLA適合非血縁者間骨髄移植とほぼ同等の成績であることも示されている。

一方、海外においては、臍帯血移植は、生着不全や早期の移植関連合併症の頻度が他の移植ソースと比較しやや高いことが問題となり、移植件数が減少している。臍帯血移植の成績をさらに改善するためには、国際共同研究が非常に重要と考えられる。

この問題に取り組むために研究グループは、日本造血・免疫細胞療法学会、、欧州臍帯血研究施設であるユーロコード、欧州血液骨髄移植学会の急性白血病ワーキングパーティ―による国際共同研究を行い、共同研究基盤を確立した。その基盤に基づき、今回の研究では、今後の治療戦略に生かすことを目的として、臍帯血移植における移植片対腫瘍効果、およびGVHDが移植関連死亡に及ぼす影響の解析が行われた。

成人急性白血病患者を日欧で比較、抗胸腺細胞Ig投与は日本2%で欧州70%

解析の対象としたのは、2000年から2014年の間に、初回の単一臍帯血移植を受け、生着が得られた、成人急性白血病患者。日本からは206の移植施設から2,886例、欧州からはフランスやドイツ、イギリスをはじめ25か国、135移植施設から804例の患者が対象となった。日本と欧州の患者の年齢中央値はそれぞれ50歳、38歳と日本の方が高齢であり、HLA-A、-B抗原、HLA-DRB1アリルでカウントされるHLA適合度に関しては日本のほうが欧州よりもHLA不適合数が多く認められた。移植時病期に関しては、再発高リスク群が日本54%、欧州30%と、日本では半数以上の患者が高リスク群に含まれた。また、臍帯血の有核細胞数は日本2.6×107/kg、欧州3.5×107/kgと欧州において有意に有核細胞数の多い臍帯血が使用されていた。最も重要な点として、抗胸腺細胞免疫グロブリンは日本では2%の患者でしか用いられていないが、欧州では70%の患者に用いられていた。

日本のみ軽症GVHD発症が移植関連死亡リスクの上昇なしに抗腫瘍効果を発揮

生存に関する多変量解析において、グレード2の急性GVHDは、GVHDなしあるいはグレード1のGVHDと比較して、日本のコホートでは死亡リスクを減少させ(ハザード比0.81;P=0.001)、欧州のコホートでは死亡リスクを上昇させた(ハザード比1.37;P=0.007)。グレード3・4の重症急性GVHDが死亡リスクおよび非再発死亡リスクを上昇させる影響は、日欧ともに観察された。再発の解析では、日本のコホートではGVHDなしあるいはグレード1のGVHDと比較してグレード2の急性GVHDの発症は疾患リスクを有意に減少させたが、欧州のコホートではこの影響は認めなかった。限局型慢性GVHDによる死亡リスクの減少は、日本のコホートでのみ観察された。

結論として、日本人のコホートにおいてのみ、軽症のGVHD発症により、移植関連死亡リスクを上昇させることなく、抗腫瘍効果が発揮されることが観察された。これは、現在、日本で臍帯血が好んで使用されていることの一因となっている可能性がある。日欧でその差が観察されたことには、複数の理由が考えられる。その一つとして、日本人では重症のGVHD発症リスクが海外より低いことが過去に報告されており、人種間でGVHDが及ぼす影響にも差がある可能性がある。日本から臍帯血移植後のGVHDの治療反応性は良いことが報告されている。また、欧州では臍帯血移植にGVHD予防目的で抗胸腺細胞免疫グロブリンが多く使用されているが、日本ではほとんど使用されていない。抗胸腺細胞免疫グロブリンの使用がGVHDと関連する移植片対腫瘍効果や移植関連死亡率に大きな影響を及ぼしている可能性がある。

今回の研究では、日本における臍帯血移植の良好な成績を説明する一つのエビデンスが示されると同時に、臍帯血は重要な代替移植ソースであることが確認された。欧州においても、GVHD予防法など工夫することで成績が改善する可能性が示唆された。このデータをもとに、研究グループは、国際共同介入試験を計画できればと考えているという。また、今回の研究では急性白血病を対象に解析したが、リンパ腫等、他の疾患における影響は明らかとなっておらず、研究グループは今後も研究を進めていきたいと考えているとしている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 平均身長の男女差、軟骨の成長遺伝子発現量の違いが関連-成育医療センターほか
  • 授乳婦のリバーロキサバン内服は、安全性が高いと判明-京大
  • 薬疹の発生、HLAを介したケラチノサイトでの小胞体ストレスが原因と判明-千葉大
  • 「心血管疾患」患者のいる家族は、うつ病リスクが増加する可能性-京大ほか
  • 早期大腸がん、発がん予測につながる免疫寛容の仕組みを同定-九大ほか