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兵庫県の新型コロナ大規模疫学調査、2021年8月時点の抗体保有率明らかに-神戸大ほか

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2021年10月05日 AM11:45

健診受診者1,000人の血清を解析

神戸大学は9月30日、兵庫県健康財団から提供を受けた1,000人の血清中における抗新型コロナウイルス()抗体の有無を解析し、その結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科附属感染症センター臨床ウイルス学分野の森康子教授らの研究グループによるもの。研究成果はpreprintとして「medRxiv」に掲載されている。


画像はリリースより

2021年7月19日から8月6日にかけて、兵庫県健康財団において健康診断を行った1,000人から提供を受けた血清を解析し、新型コロナウイルスに対する抗体量を測定した。検体提供者の居住情報は把握していないが、ほとんどは阪神間に居住していると考えられる。また、試料のワクチン接種歴やCOVID-19罹患歴は不明だった。同研究は、兵庫県阪神間における新型コロナウイルス感染状況を、2020年10月に続いて二度目に示した報告である。

抗N抗体保有率2.1%、抗S抗体保有率38.7%

研究グループはまず、電気化学発光免疫測定法(Roche社)によって、新型コロナウイルスNタンパク質に対する抗体の有無を解析。1,000人中21人(2.1%)が陽性だった。特に、30歳代(3.4%)および40歳代(4.1%)の陽性率は顕著に高く認められた。また、男性の陽性率は2.7%であり、女性の陽性率は1.2%であった。

次に、酵素結合免疫吸着法(ELISA法)によって新型コロナウイルスSタンパク質に対する抗体の有無を解析し、38.7%が陽性であることがわかった。Sタンパク質は、現在国内で用いられている新型コロナウイルスに対するワクチンの抗原として用いられている。すなわち、抗S抗体の保有率は、ワクチンの接種率を反映していると考えられる。Sタンパク質に対する抗体を保持する割合は、60歳以上のグループ(74.4%)において高く認められた。逆に、29歳以下(18.9%)、30歳代(31.3%)、40歳代(27.6%)、50歳代(33.9%)では比較的低いままであった。

さらに、得られた血清におけるSタンパク質に対する抗体価を詳細に解析。ほとんどの例において、新型コロナウイルス感染者から得られた血清と同程度の抗体価を保持していることが明らかになった。

実際には2.5倍の人が感染していた可能性

血清中の抗体価測定は、集団内における病原体の広がりを把握するために、最も信頼できる方法と考えられている。特に新型コロナウイルス感染者の40%以上は無症候(不顕性感染)であると考えられており、PCRや抗原検査だけでは、実際のウイルスの広がりを見誤る可能性がある。

同研究は、日本における第五波開始時点における新型コロナウイルスの広がりを大規模に示した初めての報告。解析した時点でのPCRに基づいた新型コロナウイルスの感染率は、0.85%、全国0.80%であったことから、今回の調査結果からはその2.5倍の人が実際には感染しており、これは不顕性感染者や検出されていない軽症者を示していると考えられた。

高齢者のワクチン優先接種が、ウイルスの広がりをある程度抑制したことを示唆

また、同研究は、新型コロナウイルスの広がりとワクチン接種との関係を示した、貴重なデータといえる。

2020年10月に同じ兵庫県健康財団において健康診断を行った1,000人では、Nタンパク質に対する抗体保有割合は0.4%であった。今回の結果は2.1%であり、2020年10月と比較して5倍に上昇していた。

兵庫県における2021年8月6日時点のワクチン接種率は、一回目42.10%、二回目32.85%と公表されている。研究グループが測定したSタンパク質に対する抗体保有率38.7%は、このワクチン接種率を概ね反映していると考えられる。特に、60歳以上のグループにおいて認められた、高い抗Sタンパク質抗体の保有率は、高齢者に対して行われたワクチンの優先接種の結果であると考えられる。Nタンパク質に対する抗体保有率に基づいて算出した感染率は、高齢者において比較的低くなっていた。この事実は、ワクチンの優先接種が、高齢者における新型コロナウイルスの広がりをある程度抑制していることを示していると考えられる。

現在も伝播力の上昇や宿主免疫への抵抗性が認められる変異株が次々と発生している。一方で、全世代へのワクチン接種が近いうちに完了することが期待され、さらにはワクチンの追加接種が検討されている。「新型コロナウイルスと社会との関係性は、依然流動的といえ、実際のウイルスの広がりを、今後も注意深く解析する必要があると考えられる」と、研究グループは述べている。

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