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勤務日数少なめの医師の治療で入院患者死亡率が高い傾向、米国データから-慶大ほか

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2021年09月16日 AM11:15

米国でパートタイム医師が全医師の25%、フルタイム医師と「」に差は?

慶應義塾大学は9月14日、米国の65歳以上の高齢者を対象とした大規模な医療データを用いて、年間臨床勤務日数の少ない医師が治療した患者の死亡率は、年間臨床勤務日数の多い医師が治療した患者の死亡率よりも高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院健康マネジメント研究科の加藤弘陸特任助教、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の津川友介助教授、ハーバード大学のAnupam B.Jena准教授、Jose F.Figueroa助教授の共同研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Internal Medicine」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

子育てなど家族のケア、研究、管理職業務を行うためなど、さまざまな理由から、パートタイムで臨床を行う医師(以下、パートタイム医師)は増加傾向にある。米国では1993年には全医師の11%だったパートタイム医師が、現在では25%まで増加したという研究結果がある。このようにパートタイム医師は増加傾向にあるものの、提供する医療の質がフルタイムで臨床を行う医師(以下、フルタイム医師)の提供する医療の質と比べて同じか否かは、これまでほとんど検証されていなかった。

先行研究では、パートタイム医師の方がフルタイム医師よりも、患者の満足度やプロセス指標で測った医療の質の観点で優れていることが示されていた。しかし、先行研究はサンプルサイズが小さく、外来医療を対象としており、外来を受診した患者がすぐに死亡することは珍しいことから、患者死亡率という最も重要な医療の質への影響が検証されていない。

加えて、外来では深刻な病気を抱えている患者がフルタイム医師を主治医とすることを選んだり、パートタイム医師が重症な患者をフルタイム医師に紹介したりする可能性があり、外来患者を対象にフルタイム医師とパートタイム医師で患者のアウトカムを比較すると、患者の重症度の違いによるバイアスの恐れが大きいと考えられる。

入院治療専門の内科医に治療された患者を対象に検証

研究グループは今回、病院に緊急入院し、ホスピタリスト(入院治療を専門にしている内科医)に治療された患者を対象に、医師の年間臨床勤務日数と患者死亡率の関係を検証した。ホスピタリストは通常シフト勤務をしているため、患者がどのホスピタリストに治療されるのかは、患者が緊急入院するタイミングとホスピタリストのシフトによって決まり、ホスピタリストが患者を重症度で選んでいる可能性は小さくなる。ホスピタリストが治療した患者に注目することで、患者の重症度が結果を歪めることを防ぐことができると考えられた。

米国の大規模医療データであるメディケアデータ(米国の高齢者を対象とした診療報酬明細データ)を用いて、各医師の年間臨床勤務日数を推定した。メディケア患者を治療した医師は診療報酬を得るため、レセプトを提出するが、そのレセプトには各治療をいつ行ったかという情報が記載されている。そこで、レセプトに何らかの医療行為を行ったと記録されている日数を年ごとにカウントし、それを各医師の年間臨床勤務日数と定義した。年間勤務日数を推定する際は、緊急入院患者に限定せず、すべての患者を対象に治療を行った日をカウントした。また、年間臨床勤務日数が非常に多い、もしくは非常に少ない医師の存在が結果を歪めることを防ぐため、年間臨床勤務日数の上位10%・下位10%の医師は分析から除外した。

次に、メディケアデータを用いて、病院に緊急入院し、ホスピタリストに治療された患者を対象に、上記のように定義した年間臨床勤務日数と患者死亡率の関係を検証した。医師を年間臨床勤務日数で四分位群に分け、それぞれの群の医師に治療された患者の死亡率を比較した。この比較を行う際、さまざまな患者の要因(年齢、性別、主傷病、併存疾患など)、医師の要因(性別、年齢)、および病院の固定効果を回帰モデルに投入し(病院の固定効果をモデルに投入することで、同じ病院内で治療された患者を実質的に比較)、それらの影響を統計的に補正した。

医師の勤務日数の多さにより、患者の死亡率に0.9%の差

この研究手法を用いて、2011~2016年に1万9,170人のホスピタリストが治療を担当した39万2,797件の緊急入院を分析したところ、最も年間臨床勤務日数の少ない群の医師が治療した患者の死亡率は10.5%である一方、最も年間臨床勤務日数の多い群の医師が治療した患者の死亡率は9.6%であり、この2つの群には0.9%の死亡率の差がみられた。

さらに、四分位より細かく10日ごとに年間臨床勤務日数でグループを作り、各グループの患者死亡率を求めた。その結果、年間130日勤務まではほぼ単調に死亡率が減少し、それより勤務日数を増やしてもはっきりとした死亡率減少が見られないことも明らかになった。

パートタイム医師に対する追加的な支援の必要性を示唆

今回の研究から、パートタイムで臨床を行うことは、患者の死亡率増加をもたらす可能性が示唆された。しかし、パートタイムで臨床を行うという勤務形態は、医師のバーンアウトを回避したり、医師がワークライフバランスを実現したりするために有効だと考えられる。そのため、パートタイム勤務のメリットを残しつつ、意図せぬ患者のアウトカム悪化を防ぐために、パートタイム医師に対する追加的な支援が必要である可能性がある。「今後さらなる研究が蓄積されることで、医師の多様な働き方をサポートしつつ、医療の質をさらに改善する方法が明らかになることが期待される」と、研究グループは述べている。

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