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精子形成促進分子GDNFの制御機構を解明、男性不妊の新たな治療に期待-京大ほか

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2021年08月23日 AM11:30

精子幹細胞の自己複製分裂が行われる環境の構築に関係する「CDC42」に着目

京都大学は8月19日、精子形成の促進分子であるサイトカインのグリア細胞株由来神経栄養因子()の発現制御メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の森圭史客員研究員と篠原隆司同教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

現在6組に1組の夫婦が不妊であり、その原因の半分は男性側にあることが知られている。男性の場合、女性とは異なり生殖細胞が分裂を継続し続ける。その源になっているのが精子幹細胞だ。精子幹細胞が自己複製分裂という特殊な細胞分裂を行うことで一生に渡り精子形成が行われる。近年の顕微受精技術の開発により少量の精子からでも受精を行うことが可能となり、多くの男性不妊症の治療が可能となった。

しかし、不妊症の10%程度とされる「セルトリ細胞遺残症候群(Sertoli cell only syndrome)」については、ほとんど精子形成細胞が見当たらず依然として治療困難な状態だ。2000年にマウスの精子幹細胞が自己複製分裂するためにはGDNFと呼ばれる液性サイトカインが必須であるということが報告された。その後の研究で、GDNFは精巣内のセルトリ細胞で主に作られることは明らかになったが、その産生メカニズムについてはあまり明確になっていなかった。GDNFの精子形成における重要性はヒトにおいても確認されており、ヒトのセルトリ細胞遺残症候群においてGDNFの生産量が低いことがわかっている。研究グループはこれまで、精子幹細胞の自己複製分裂が行われる環境に興味を持っており、今回、その特殊環境の構築に関係する分子として「CDC42」に着目し研究を行った。

精子幹細胞の自己複製分裂に必要なGDNFが、CDC42欠損マウスの精巣ではほとんど生産されていなかった

RHOファミリー低分子量Gタンパク質の一つであるCDC42は、管腔臓器での細胞構築の形成に重要であることが知られている。精巣でもセルトリ細胞同士が結合し合うことで管腔構造を作っていることから、研究グループは、セルトリ細胞におけるCDC42欠損の役割を調べるためにCDC42欠損マウスを作成した。ところが予想に反してこのマウスの精巣の構造には大きな変化が見当たらず、セルトリ細胞による管腔構造は正常に保たれたままだったという。

ところが、マウスが成長するとともに精子形成が減弱し、生殖細胞の数が著しく減少することが判明。GDNFが精子幹細胞の自己複製分裂に必須な分子であることからGDNFの発現を調べると、GDNFはCDC42欠損マウスの精巣では、ほとんど生産されていないことが明らかになった。

セルトリ細胞内における精子形成促進分子GDNFの産生経路を解明

GDNFの生産に直接関わる候補分子はほとんど未知の状態だった。これまでにいくつかGDNFの制御に関わるとされる候補遺伝子が報告されていたが、実際に遺伝子欠損マウスの解析やタンパク質レベルでの解析ではGDNFへの関与が確認できていなかった。GDNFは卵巣では発現されていないため、研究グループは性決定に関わるとされる遺伝子欠損マウスの表現型から、GDNFの発現制御に関わり得るいくつかの転写因子に注目した。

Western Blotting法と免疫染色法を用いて、CDC42欠損マウスのセルトリ細胞におけるこれら候補遺伝子の発現を確認したところ、核に移行すべきシグナル伝達タンパク質のERK1,2が細胞質にとどまっており、その下流分子とみられるDMRT1とSOX9という転写因子の発現量が低下していることが判明した。CDC42はERK1,2を刺激することが予想されたため、セルトリ細胞にてレンチウイルスを用いてCDC42の活性化を引き起こす分子とERK1,2をつなぐ分子のスクリーニングを行った。すると、PAFAH1Bという分子がCDC42を活性化し、PAK1やPEA15Aという分子を介してERK1,2が活性化され、DMRT1/SOX9という転写因子へとつながり、GDNFが生産されることが明らかになった。

男性不妊症の原因遺伝子の同定や新規治療法の開発につながる可能性

今回の研究成果により、セルトリ細胞内における精子形成促進分子GDNFの産生経路が明らかにされた。これにより、セルトリ細胞遺残症候群などの男性不妊症に対する理解も深まるともに、このシグナル伝達経路を刺激することで男性不妊症の新たな治療法の可能性が生じると予想される。

「PAFAH1B1-CDC42→PAK1→ERK1,2/PEA15A→DMRT1/SOX9経路を活性化すれば、セルトリ細胞でのGDNF生産量を高める可能性があるため、本研究結果は男性不妊症の原因遺伝子の同定や、新規治療法の開発につながる可能性がある」と、研究グループは述べている。

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