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日本人の中心性漿液性脈絡網膜症、NDB活用で発症率等を明らかに-京大ほか

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2021年07月20日 AM11:15

NDBは全国民のレセプト情報が含まれる大規模リアルワールドデータベース

京都大学は7月19日、厚生労働大臣の許可のもと、同大に設置されたナショナルデータベース(NDB)のオンサイトリサーチセンターを利用してNDBの全データを解析することにより、日本人の中心性漿液性脈絡網膜症の発症率や性別・年齢による発症傾向を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学研究科眼科学の三宅正裕特定講師、木戸愛博士課程学生、辻川明孝教授、同国際高等教育院の田村寛教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Ophthalmology」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

近年、日々行われている実際の診療実態を反映したデータ(いわゆる、リアルワールドデータ)の大規模データベースを研究題材とした臨床研究が注目を集めている。診療報酬請求情報(レセプト)データは、このリアルワールドデータの代表的なものだ。その中でも、ナショナルデータベース(NDB)は厚生労働省が管理しているレセプトデータベースで、日本全国民のレセプト情報が含まれている。こういった全国民規模のデータベースがある国は、台湾・韓国と日本のみで、世界的にも有数の貴重なレセプトデータベースであるといえる。

NDBを研究に利用するためには厚生労働大臣の許可が必要だ。NDBの提供形式には、サンプリングデータ・集計表情報・特別抽出・オンサイトリサーチセンターの現在4種類の形式があるが、NDBに含まれる全データを直接解析することができるのはオンサイトリサーチセンターのみ。現在、オンサイトリサーチセンターは東京大学、、厚生労働省内部にのみ設置されている。厚生労働大臣の許可を受けた範囲で自由な解析が可能な反面、申請の手続きが煩雑で、かつ、扱うデータ量が膨大であるため、オンサイトリサーチセンターの活用事例は限られているのが現状だった。

中心性漿液性脈絡網膜症は加齢黄斑変性と区別が難しく病態解明が重要課題

中心性漿液性脈絡網膜症は、ものを見るための中心部分(黄斑部)に網膜剥離が起こる疾患。網膜剥離が自然に軽快する急性型と、網膜剥離が遷延したり再発を繰り返したりする慢性型がある。急性型は自然に軽快するため、かつて中心性漿液性脈絡網膜症は良性の疾患と考えられていたが、近年、慢性型は悪い血管(パキコロイド新生血管)を併発することなどにより、長期経過で想像以上に視力障害を引き起こすことがわかってきた。これらは、先進国の主要失明原因の一つである加齢黄斑変性と類似する所見を示し区別が難しいため、これまで加齢黄斑変性と診断されてきたもののうちの一部は中心性漿液性脈絡網膜症由来のパキコロイド新生血管であったのではないかと考えられ始めているほか、パイロット・運転手・医師など社会安全に影響がある職種に多いことも知られており、その病態解明は重要な課題の一つとなっている。

8年分を解析、年間10万人あたり34人発症

今回、研究グループは、厚生労働大臣の許可を得て、京都大学医学部附属病院内にあるNDBオンサイトリサーチセンターを利用しNDBに含まれる全データを解析した。2011年1月から2018年12月の間に新規発症した中心性漿液性脈絡網膜症を同定し、その発症率、性別や年齢による発症の傾向、治療実態について調査した。

その結果、2011~2018年までの8年間で中心性漿液性脈絡網膜症(急性型または慢性型)を新規発症したのは24万7,930人で、平均して年間に10万人あたり34人(約3,000人に1人)が発症していることがわかった。

男性発症率は女性の3.5倍、発症ピーク年齢は女性がやや高い

中心性漿液性脈絡網膜症はもともと男性に多く見られる疾患として知られているが、今回の研究でも新規発症患者のうち75.9%は男性で、発症率は男性が女性の約3.5倍高いことが確認された。発症の年齢ピークは男性では40~44歳、女性は50~54歳と、女性の方がやや高年齢で発症しやすいことがわかった。好発年齢の正確な発症ピークを同定したのは、今回の研究が世界初となる。

今回の研究は、京都大学に設置されたNDBオンサイトリサーチセンターを活用した初の成果。また、そもそも、NDBオンサイトリサーチセンターを活用した研究自体もまだほとんどないため、今後のNDB活用に向けた大きな一歩であると考えられる。NDBは世界でも有数の大規模リアルワールドデータベース。中でもオンサイトリサーチセンターは、いくつかの面で使用するハードルは高いものの、全データを実際に解析可能で、活用が進むことで非常に多くの臨床的疑問の解決につながる可能性がある。

中心性漿液性脈絡網膜症の疫学研究として世界最大の報告

また、今回の研究は、中心性漿液性脈絡網膜症の疫学研究として世界最大の報告であり、中心性漿液性脈絡網膜症の発症率や性別・年齢による発症傾向を明らかにすることに成功した。この研究結果は、基礎研究ならびに臨床研究の発展の基盤となる重要な知見。研究グループは、「今後もNDBをはじめとしたレセプトデータベースを用いて、中心性漿液性脈絡網膜症のみならず種々の眼科疾患の疫学や発症リスクを解明し、病態解明や新たな治療法の発展につなげていきたいと考えている」と、述べている。(QLifePro編集部)

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