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先天性巨大色素性母斑、皮膚再生臨床試験で皮膚再生と母斑再発なしを確認-京大ほか

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2021年07月02日 AM11:45

悪性腫瘍発生と整容面の問題から早期の母斑組織完全切除が望ましい

京都大学は7月1日、先天性巨大色素性母斑に対する世界初の皮膚再生治療を実施し、皮膚の再生が可能で、母斑の再発もないことを確認したと発表した。この研究は、同大医学研究科の森本尚樹教授、国立循環器病研究センター研究所の山岡哲二部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Plastic and Reconstructive Surgery」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

色素性母斑は、小さいものは一般に「ほくろ」と呼ばれる黒褐色のあざであり、母斑真皮中に存在する母斑細胞がメラニン色素を産生して黒褐色となっている。先天性巨大色素性母斑は、成人になったときに直径20cm以上(新生児では体部で直径6cm以上、頭部で9cm以上)の母斑で出生2万人に1人程度の発生があるとされている。先天性巨大色素性母斑は、母斑から悪性黒色腫が数%程度で発生すると報告されており、外観上の問題とともに生命予後に関しても問題となる。悪性黒色腫の発症は若年者に多く、発症する患者の70%が思春期までに発症するとも報告されており、悪性腫瘍の発生、および整容面の問題からも乳児期も含めたできるだけ早期に母斑組織を完全に切除することが望ましいと考えられている。

面積が大きいため植皮は困難、自家培養表皮は真皮がないと生着率不良

巨大色素性母斑の治療上の問題は、母斑を切除した際に生じる大きな皮膚欠損の再建方法になる。巨大な皮膚欠損の再建は、患者自身から採取した自家皮膚移植(植皮)で行われるのが一般的だ。しかし、巨大色素性母斑の治療では、母斑が巨大であるほど植皮に利用できる健常な皮膚が少なく、母斑が完全には切除できないことが多く経験される。

この先天性巨大色素性母斑の治療成績を向上させる目的で、自家培養表皮(ジェイス(R):株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)が2016年より保険適用となり、日本全国で先天性巨大色素性母斑の治療に使用できるようになった。自家培養表皮は2009年に重症熱傷に保険適用となった日本初の細胞使用製品(当時は医療機器として承認)で、患者の皮膚を1~2cm2採取すると、1か月程度で患者の全身を覆うことができる大きさの自家培養表皮が作製可能。ただし、自家培養表皮のみで治療が可能となったわけではない。皮膚は100〜200μm程度の厚さの表皮と1〜2mm程度の厚みのある真皮から構成される。自家培養表皮は真皮の上には良好に生着するが、真皮が欠損した創、つまり脂肪や筋膜、肉芽とよばれる結合組織の上にはほとんど生着しない。これは熱傷治療においても同じであり、真皮の再建のためにスキンバンクから提供される同種皮膚(屍体より採取した皮膚)や人工真皮(コラーゲンスポンジを主成分、国内に5製品あり)を用いた真皮の再構築が試みられているが、いまだに真皮再構築方法は確立されていない。

高圧処理で全細胞を死滅させた母斑組織そのもので真皮を再建

そこで、研究グループは、母斑組織の細胞成分を不活化(殺細胞処理)し、残された真皮成分を再移植することで患者自身の真皮を再構築する新規治療方法の開発を行ってきた。母斑組織を用いて真皮再構築ができれば母斑切除部に移植するための皮膚を採取する必要がなくなり、より大きな母斑でも切除できるようになると考えられる。

現在、ある組織の細胞をすべて取り除く「脱細胞化処理」という概念があり、海外では脱細胞化皮膚が医療機器として市販されている。脱細胞化をする代表的な方法として、界面活性剤を用いて洗浄し、組織中の細胞成分をすべて取り除く方法がある。ただし、脱細胞化組織は毛細血管網がなくなっており、移植した場合の生着が悪くなってしまうこと、また他人の組織であるため、一旦生着しても徐々に吸収されてしまうという課題があり、いままで熱傷治療や母斑治療に広く用いられていなかった。

そこで、研究グループが注目したのは高圧処理による殺細胞処理だ。高圧処理は食品加工分野で応用されており、食品のもつ風味や食感等を失うことなく殺菌、加工する方法として使われている。高圧処理は「加熱処理や薬剤処理と異なり、組織の深部まで均一に処理でき、また組織の構造を破壊しないやさしい処理」という特徴がある。研究グループは基礎検討の結果、200MPa(2000気圧)で10分間高圧処理を行えば、母斑組織中の全細胞が死滅するものの、真皮の構造は保たれることを確認した。また、母斑のメラニン色素も母斑細胞が死滅すれば徐々に吸収されることも確認した。今回の研究で実施のした高圧処理による殺細胞処理は脱細胞化処理と異なり、細胞そのものは除去しない。

9例全員で移植1年後に母斑細胞の残存なし、黒い色は徐々に消失

これらの基礎研究の結果を受けて、関西医科大学附属病院で2016年2月~2018年8月までに10例の患者で同治療法を用いた世界初の臨床試験が実施された。この試験では、1回目の手術で対象部位の母斑を切除し、手術室の中で高圧処理による殺細胞処理を行い、再移植した。2~3週間後に2回目の手術を行い、自家培養表皮を生着した高圧処理母斑の上に移植。その後、最初の手術から1年後まで経過を観察した。1例の患者は試験途中で脱落となったが、残り9例全員で、移植1年後の組織生検の結果、母斑細胞の残存がないこと、黒い色は徐々に消えていくことが確認された。

課題としては、不活化した母斑組織の生着が一定ではないこと、再建した皮膚が拘縮あるいは肥厚性瘢痕を生じることがあり、術後半年くらいまでは強くみられることが観察された。このような課題はあるものの、この治療法を行えば、母斑組織と自家培養表皮を用いて母斑切除後の皮膚欠損を治療できることが明らかになった。これは、いままでの同種皮膚や人工真皮を用いた治療では得られなかった結果だ。

高圧殺細胞装置の医師主導治験へ

この治療法は腫瘍組織である母斑組織を圧力という物理的な方法を用いて殺細胞処理を行った後に自家皮膚の再建に用いる画期的な方法。同じ考えの治療法として、整形外科分野では、悪性腫瘍のために切除した骨を液体窒素に20分つける殺細胞処理を行った後に自分の骨の再建に用いる手技があり、2019年度から保険適用されている。高圧処理は10分間というさらに短時間で処理が可能で、硬い組織である骨でも組織の内部まで均一に殺細胞処理できるという特徴がある。同治療法を保険適用された治療法とするためには、まずは、高圧処理装置が医療機器として承認を取得する必要がある。現在、研究グループは2021年度に京都大学医学部附属病院で承認取得のための医師主導治験を開始することを目標に、準備を行っているという。また、さらに基礎研究を行い、母斑だけではなく、皮膚の悪性腫瘍、あるいは骨や軟骨、神経などの悪性腫瘍の組織に対しても同治療法が有効であることを確認する予定だとしている。

同治療法を用いた「腫瘍組織の再利用」が広く行われるようになれば、今までのように再建手術のために健康な自家組織を採取する必要がなくなり、手術を受ける患者のQOL向上に寄与すると予想される。ただし、細胞を死滅させた組織の移植になり、生きている組織と比べると生着が悪いため、今後は移植方法の検討、あるいは細胞を組み込む工夫などが必要になると考えられるという。

近年、再生医療が注目されているが、ほとんどの再生医療は細胞治療にとどまっており、ある程度の大きさの組織や臓器の再生は実現されていない。動物実験レベルの基礎研究では皮膚の再生が確認されているものもあるが、ヒトのきれいな皮膚を再生させることはまだまだ不可能だ。研究グループは、「われわれの成果がさらに発展し、完全な皮膚再生ができる日まで研究を続けたいと考えている」と、述べている。

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