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百日咳の1か月児、CAMを8日間投与後に症状再燃・菌再分離を認めた症例-感染研

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2021年07月01日 AM11:15

無呼吸発作等で入院、CAM8日投与で発作消失、10病日に退院

国立感染症研究所は6月29日、クラリスロマイシン投与後に症状再燃と菌再分離を認めた百日咳の乳児について、臨床経過報告を公表した。この報告は、江南厚生病院こども医療センターの伊藤卓冬氏、西村直子氏、尾崎隆男氏、同院臨床検査室の河内誠氏によるもの。百日咳の治療は、小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017において、マクロライド系抗菌薬であるエリスロマイシン(erythromycin:EM)14日間、(clarithromycin:CAM)7日間、またはアジスロマイシン(azithromycin:AZM)5日間の投与が推奨されている。今回の報告の対象は、2019年11月に経験された、百日咳症例に対するCAM8日間投与後に症状再燃と菌再分離を呈した1か月児だ。

患児は日齢31の女児で、日齢28(第1病日)からの咳嗽を主訴に受診し、チアノーゼを伴う痙咳と無呼吸発作のため入院した。体温36.6℃、酸素飽和度99%(室内気)、その他理学所見に異常なし。入院当日、後鼻腔ぬぐい液から百日咳菌(Bordetella pertussis)DNAが検出され、CAM 15mg/kg/日の経口投与を開始した。後日、同検体から百日咳菌も分離された。入院中、呼吸補助は要さなかった。無呼吸発作の消失をみて第10病日に退院し、CAMは計8日間投与した。

無呼吸発作再燃で19病日に再入院、百日咳菌検出、EMに変更で27病日に退院

しかし、退院後に無呼吸発作の再燃を認め、第19病日に再入院となった。再入院時も百日咳菌DNA陽性で、百日咳菌も分離された。CAM再投与で治療を開始したが、菌分離が報告された第22病日にEM30mg/kg/日の14日間経口投与に変更した。第27病日に痙咳と無呼吸発作の消失をみて退院とした。

初回入院時に百日咳菌分離とDNA検出は陽性であったが、退院前には菌分離とDNA検出の再検査を行っていない。再入院時にも陽性であった菌分離とDNA検出は、第22病日に菌分離は陰性、DNA検出は陽性、第27病日にはDNA検出も陰性化した。初回入院中のPT-IgG抗体は陰性で推移したが、再入院時に陽転し、第35病日には50 EU/mLに達した。百日咳IgM抗体とIgA抗体は、観察期間を通して陰性であった。

父と祖母は児の発症前に近医で咳ぜんそくと診断されていた

家族の臨床経過について、父は児の発症3週間前から、祖母は2週間前から咳嗽が持続し、近医で咳ぜんそくと診断されていた。母と祖父は無症状であった。百日咳の症状があった父と祖母は、児の診断翌日からCAMが投与された。

初回および再入院時に分離された百日咳菌2株について、E-test(ビオメリュー・ジャパン株式会社)を用いて抗菌薬感受性が検討された。その結果、両株はCAMとEMに感受性であった。また、分離株の遺伝子解析を国立感染症研究所に依頼し(協力:同研究所 蒲地一氏、大塚菜緒氏)、初回および再入院時ともに反復配列多型解析(multiple-locus variable-number tandem repeat analysis:MLVA)型はMT32、SNP(single nucleotide polymorphism)型はSG3であり、両株は遺伝子型が同一であった。

低月齢乳児ではCAM投与期間が7日間では不十分な可能性

百日咳菌の除菌には、マクロライド系抗菌薬投与5日間で十分とされており、百日咳菌の培養検査が陰性化するまでのEM投与期間が平均3.6日間(範囲2~7日)であったという報告がある。また、EM14日間とCAM7日間の比較では、両者の除菌効果は同等とされている。今回の症例はガイドラインに準じてCAMで治療したが、症状の再燃と菌再分離を認めた。同様のCAM投与後再感染乳児例の報告もあり、低月齢乳児ではCAM投与期間が7日間では不十分な可能性がある。

PT-IgG抗体価が第9病日においても10 EU/mL未満であり、百日咳IgMとIgA抗体価が上昇しなかったことは、免疫発達の未熟性を反映するものと考えられた。このような抗体産生の遅延を伴う低月齢乳児に対しては、治療期間が長いエビデンスのある抗菌薬を選択することで、除菌確率を上昇させるとともに再感染リスクを軽減できる可能性がある。

母親と同居家族へのワクチン接種が、児の発症予防につながる可能性

百日咳は、その毒素によって抗菌薬治療開始後も症状が持続あるいは重症化することがあり、その対策としてワクチンによる予防戦略が有効である。乳児百日咳を予防する手段として、欧米では妊婦への百日咳ワクチン接種が推奨されており、さらに同居家族など乳児に接する人に対するワクチン接種(コクーン戦略)も勧められている。今回の症例では、母親と同居家族へのワクチン接種により、児の発症を予防できた可能性がある。

「今回の症例では、症状再燃と菌再分離の原因が除菌不完全か再感染によるかは不明だが、低月齢乳児の百日咳ではガイドラインで推奨されているCAM投与期間の7日間では不十分である可能性がある」として、同報告は締めくくられている。

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