医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 10の免疫疾患で日本人免疫細胞28種の遺伝子多型の機能をカタログ化-東大病院ほか

10の免疫疾患で日本人免疫細胞28種の遺伝子多型の機能をカタログ化-東大病院ほか

読了時間:約 3分20秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年05月06日 AM11:45

免疫疾患の病態解明には遺伝子多型の機能について詳細な理解が重要

東京大学医学部附属病院は4月30日、日本人の免疫疾患患者および健常人の末梢血から分取した28種類の免疫細胞の遺伝子発現を定量化し、遺伝子多型が遺伝子発現に与える影響をカタログ化、さらに、このカタログを用いて、さまざまな免疫疾患発症に関わる細胞種や遺伝子を明らかにしたと発表した。この研究は、東京大学の太田峰人特任助教、藤尾圭志教授、理化学研究所の山本一彦センター長、中外製薬株式会社の角田浩行創薬基盤研究部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell」(オンライン版)に掲載されている。


画像はリリースより

これまで、さまざまな疾患に対してゲノムワイド関連解析()が行われ、疾患発症に関わる多くの遺伝子多型(疾患感受性多型)が同定されてきたが、特に成人で発症する多因子疾患では、疾患感受性多型の多くがタンパク質を直接コードする領域ではなく、遺伝子の発現量を制御する領域に位置することわかってきた。この遺伝子発現制御領域は、細胞種や環境によってその役割や活性の強さが大きく異なる。そのため、疾患と関連した細胞種や環境において、これらの遺伝子多型が遺伝子発現にどのような影響を及ぼすかを理解することは、疾患発症のメカニズムを解明する上で非常に重要となる。

そこで、研究グループは、免疫疾患の病態解明のためには、免疫細胞における遺伝子多型の機能を詳細に理解することが重要と考え、大規模な免疫細胞のeQTL(expression quantitative trait loci:遺伝子の発現量の個人差と関連するゲノム領域)データベースを作成した。eQTL解析は遺伝子多型と遺伝子発現の関連解析で、ある遺伝子多型があった時に、どの細胞種における、どの遺伝子の発現量を上げるのか、または下げるのか、という情報(eQTL効果量)が得られる。さらに、eQTLデータをGWASデータと組み合わせて解析することで、疾患の発症に重要な細胞や遺伝子を同定することができる。

大規模な免疫細胞のeQTLデータベース「」を作成、公開

今回の研究では、免疫疾患のうち、代表的な10疾患の患者および健常人、計416例の末梢血から、28種類におよぶ免疫細胞9,852サンプルをセルソーターで分取し、RNAシーケンスで遺伝子発現量を解析。さらに、全ゲノムシーケンスで得られたゲノム情報と遺伝子発現量の関連解析を行うことで、28種類の免疫細胞のeQTLカタログ「ImmuNexUT」(Immune cell gene expression atlas from the University of Tokyo)を作成し、ウェブ上で公開した。

ImmuNexUTは、これまで報告のあった免疫細胞のeQTLデータを細胞の種類や症例数において大きく上回り、詳細な遺伝子多型の機能(ゲノムの個人差が免疫の個人差に与える影響)についての解析を可能とした。実際にImmuNexUTのeQTLデータを、これまでに報告されている免疫細胞のオープンクロマチン領域やエンハンサー領域といったエピゲノムデータと比較すると、対応する細胞種同士において遺伝子発現制御領域が良く一致することがわかった。このことから、28種類に細かく分けた免疫細胞がそれぞれ異なる遺伝子発現制御メカニズムを持っていて、ImmuNexUTはその違いを反映できていることが示唆された。また、免疫細胞は外部からの刺激やシグナルに応じて、遺伝子発現が精緻に制御されているが、今回の研究では、さまざまな炎症状態にある患者の検体を解析することで、生体内の環境に応じてeQTL効果量が変化する様子が、各免疫細胞単位で初めて明らかとなった。

日本人SLEで、免疫細胞腫によるeQTLカタログの有用性を確認

GWASとImmuNexUTを組み合わせた解析では、まずLDスコア回帰法を用いて全ゲノムの遺伝情報と細胞種に特異的なeQTLの関連を解析することで、さまざまな免疫疾患の発症に、それぞれ異なる免疫細胞が関わる様子が明らかとなった。詳細にGWASとeQTLのシグナルの一致を評価し、疾患発症に関与する遺伝子を同定するには、ゲノム構造が類似したデータ同士を比較することが有効だ。そこで、これまで報告された日本人の全身性エリテマトーデス(SLE)のGWASデータとImmuNexUTのeQTLデータの一致について解析することで全身性エリテマトーデス発症に関わる多くの候補遺伝子と、それに関わる免疫細胞をリスト化した。これらの中には、細胞種に特異的な 効果を持つものや、細胞種によって逆向きのeQTL効果を持つものがあり、細胞種を精密に分けたeQTLカタログが病態の理解に役立つことが示唆された。

免疫細胞が関わる病態は免疫疾患、感染症、がんや動脈硬化など多岐にわたる。研究グループが作成したeQTLカタログをさまざまな疾患・形質のゲノム研究と組み合わせることで、病態に関わる細胞種や遺伝子の同定に役立つことが期待される。また、これまでゲノム機能のデータベースの多くは欧米人主体に作成されてきたが、アジア人と欧米人ではゲノムの構造などが異なるため、アジア人のゲノム研究にはアジア人のゲノム機能のデータがより適している。今回の研究成果である日本発のeQTLカタログ「ImmuNexUT」は、アジア人のゲノム研究の発展や、欧米人のデータとの統合解析によるゲノム機能の詳細な解明に役立つことが期待される。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 3つの免疫チェックポイント分子を用いた腎細胞がんの新規分類を開発-慶大
  • 膠原病に伴う肺疾患に関する患者意識調査、間質性肺疾患の認知度58%-ベーリンガー
  • パーキンソン病患者皮脂RNA情報に、病態と関連する情報が含まれると判明-順大ほか
  • 肝芽腫、予後予測に有用なメチル化マーカー「DLX6-AS1」を同定-広島大ほか
  • とるべき行動が未確定のとき、脳では前頭前野と後頭側頭皮質が機能を補完-慶大ほか