医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 内耳蝸牛での活性酸素発生源細胞を特定、難聴治療薬開発に一歩前進-神戸大ほか

内耳蝸牛での活性酸素発生源細胞を特定、難聴治療薬開発に一歩前進-神戸大ほか

読了時間:約 3分57秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年04月16日 AM11:30

内耳でNox3はどの細胞にいつどのように発現するのか?

神戸大学は4月14日、独自に開発した遺伝子改変マウスを用いて、内耳蝸牛(ないじかぎゅう)での活性酸素の発生源細胞(Nox3発現細胞)を特定したと発表した。この研究は、同大バイオシグナル総合研究センターの上山健彦教授と京都府立医科大学の内耳研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Neuroscience」にEarly Releaseとして掲載されている。


画像はリリースより

(難聴)は、感覚神経障害の中で最も多い疾患であり、世界人口の約5%が何らかの聴覚障害を抱えているが、根本的薬物治療法がない難病だ。加齢(老人)性難聴は、65歳以上の25~40%に発症すると言われており、日本国内のみでも約1000万人が罹患している。騒音性難聴は、依然退役軍人にとっての重大な後遺症の1つだが、さらにスマートフォンなどの携帯メディアプレーヤーの普及による大音量の過剰な音響暴露によって、12~35歳の若者の約半数(11億人)が将来的な騒音性難聴のリスクに晒されているとの提言が2019年、WHOによりなされた。薬剤性難聴は、抗がん剤、抗生物質、利尿剤や鎮痛解熱剤の使用により起こる。このように現代社会において難聴の患者数は増加しており、治療薬開発が喫緊の課題になっている。

難聴発症に活性酸素が関与し、その発生源が、ヒトで7種類存在する活性酸素産生酵素(NADPH oxidase:Nox)のうち内耳特異的に発現するNox3との報告はこれまでにあったが、Nox3が聴覚を司る内耳蝸牛のどの細胞に、いつ・どのように発現し、どのようなメカニズムで難聴を引き起こすのかは、不明だった。

Nox3発現細胞は加齢に伴い徐々に、騒音や聴毒性薬剤により急激に増加

研究グループは、疾患の原因を追究し治療法を開発するため、種々の遺伝子操作マウスを作製している。今回、Nox3を発現する細胞が赤色蛍光を発するタンパク質(tdTomato)を発現するマウス(-Cre;tdTomato)、およびNox3を発現できないNox3ノックアウト(-KO)マウスを作製。これらのマウスを用いて、聴覚を司る内耳蝸牛におけるNox3発現細胞、すなわち活性酸素の産生源細胞を同定した。さらに、Nox3は、主な後天性感音難聴である加齢性難聴、、薬剤性難聴の発症すべてに関与することを明らかにした。

まず、Nox3を発現する細胞が赤色蛍光を発するマウスと蛍光顕微鏡を用いて、生後、経時的に赤色蛍光細胞の発現を追って行き、聴覚を司る蝸牛の中で、赤色蛍光を発する有毛細胞、それを解剖的に支える種々の支持細胞、聴覚の第1ニューロンであるラセン神経節細胞が増加することを突きとめた。

2種存在する有毛細胞中、外有毛細胞の方が内有毛細胞より、種々の外的刺激に脆弱であるため、多くの難聴では外有毛細胞の脱落が顕在化することが知られている。そこで、Nox3による活性酸素産生能が残存するマウス(ヘテロNox3-Cre+/-;tdTomato)と消失するマウス(ホモNox3-Cre+/+;tdTomato)の2種の遺伝子改変マウスを用いて、詳細を調べた。前者の活性酸素産生能が残存する遺伝子改変マウスでは、赤色蛍光細胞、つまりNox3の発現は、内有毛細胞には観察されるものの、外有毛細胞では、加齢、騒音、薬剤(難聴の副作用で有名な抗がん剤であるシスプラチン)投与のどの条件・刺激においても観察されなかった。後者の活性酸素産生能が消失するが、赤色蛍光によりNox3発現は同定できるマウスを用いて調べたところ、赤色蛍光細胞、つまりNox3を発現する能力を元来持っていた細胞は、加齢、騒音、薬物により増加した。これらの結果は、Nox3を発現(活性酸素を産生)する外有毛細胞は、活性酸素毒性により脱落(細胞死)するということを意味する。さらに、外有毛細胞自身がNox3を発現しなくても、周囲の支持細胞がNox3を発現すれば、周囲からのNox3由来の活性酸素により、外有毛細胞が脱落することも明らかとなった。

Nox3-KOマウスは難聴発症を抑制、特に加齢性と薬剤性で著明

Nox3-KOマウスを用いて、、騒音性難聴、薬剤性難聴への影響を調べたところ、これら全てのタイプの難聴において、Nox3-KOマウスでは野生型マウスに比べ、難聴の発症や程度が抑制された。抑制の程度に関しては、加齢性難聴と薬剤性難聴で強く、騒音性難聴で減弱することがわかった。

また、抗がん剤(シスプラチン)投与によるNox3発現細胞の増加や難聴の発症は、加齢に伴い減少することを発見。これらの結果は、シスプラチン投与による難聴の発症が、15歳以下の小児では成人に比べ明らかに高頻度との臨床報告と一致するものだった。

主要な後天性難聴の全てに効果的な治療薬開発につながる可能性

今回の研究により、内耳蝸牛におけるNox3発現細胞(つまり、活性酸素産生源)が特定され、蝸牛でのNox3の発現誘導が外有毛細胞死(脱落)をもたらし、難聴(加齢性、騒音性、薬剤性)に至ることが見出された。このことから、Nox3の発現誘導やNox3の機能を抑制することが、難聴の発症抑制に繋がることが明らかとなった。

難聴は、感覚障害中最多の障害であり、今後も増加し続けると予測される一種の現代病であるため、治療法開発は喫緊の課題。今回の研究により、内耳蝸牛内でのNox3由来の活性酸素が外有毛細胞死(脱落)を引き起こすことにより、後天性難聴の中で、少なくとも加齢性、騒音性、薬剤性難聴を引き起こすことがわかった。すなわち、蝸牛内でのNox3の発現や機能阻害により、後天性難聴の主要タイプの発症を抑制できる可能性がある。Nox3の発現は内耳特異的と報告されており、Nox3の発現や機能を阻害するNox3阻害薬を開発できれば、全身投与による副作用は非常に軽いことが予測されるという。

遺伝性難聴については、個々の疾患に対して個別の治療法開発が進められているが、治療対象となる患者数は、後天性難聴に比べて桁違いに少数だ。今回の研究の延長線上で、上記の後天性難聴の主要な3タイプの発症を幅広く抑制できる治療薬の開発が出来れば、難聴に対する世界初の治療薬であるのみでなく、遺伝性難聴を含めた難聴治療薬開発にもつながる可能性がある。研究グループは、今回の研究成果について、「難聴治療薬開発にブレークスルーを提供する、現代社会にとって重要で有益なものと確信している」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 脊髄損傷、HGF遺伝子発現制御による神経再生の仕組みを解明-藤田医科大ほか
  • 抗がん剤耐性の大腸がんにTEAD/TNF阻害剤が有効な可能性-東京医歯大ほか
  • 養育者の食事リテラシーが低いほど、子は朝食抜きの傾向-成育医療センターほか
  • 急速進行性糸球体腎炎による透析導入率、70歳以上で上昇傾向-新潟大
  • 大腿骨頭壊死症、骨粗しょう症薬が新規治療薬になる可能性-名大