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バンコマイシン耐性腸球菌感染症、2020年の届出数は過去最多-感染研

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2021年03月31日 AM11:40

院内感染の代表的な薬剤耐性菌VRE、26都道府県から計135例の届出

国立感染症研究所は3月30日、2020年におけるバンコマイシン耐性腸球菌感染症届出患者の増加について、病原微生物検出情報(IASR)の速報として発表した。


画像はIASR速報より

)感染症は、感染症法上の5類全数把握対象疾患であり、感染症発生動向調査における届出患者数は2011~2019年まで年間100例未満で推移してきた。しかし、2020年は135例(2021年1月25日現在)と、これまで最多であった2010年の120例を超えた。届出都道府県の数で比較しても、過去10年間で届出数が55と最も少なかった2013年が15都道府県からであったのに対し、2020年は26都道府県からと、約1.7倍に増加している。特定の地域ではなく、全国的に届出が増加していることが懸念される。

近年のVRE感染症の増加は欧州においても警戒されている。欧州疾病予防管理センター(European Centre for Disease Prevention and Control: ECDC)の薬剤耐性サーベイランスレポートでは、VREの代表的な菌種であるEnterococcus faeciumのバンコマイシン耐性率は2010年までは横ばいもしくは減少傾向と報告されていたが、その後、複数の国での増加が始まり、2017年以降は欧州全体での有意な増加を報告している。増加の要因は不明ながら、複数の医療機関を巻き込んだ地域的なVREの広がりが指摘されている。

VREは院内感染の原因となる代表的な薬剤耐性菌の1つであり、その対策には感染症法の届出対象となる発症者だけではなく、保菌者の把握も重要である。また、地域医療の中核を担う基幹病院において大規模な院内感染が発生した場合は、入院患者受け入れの一部制限など、医療体制に影響が及ぶだけでなく、転院などを介して地域内の他の病院等にVREが拡散する可能性が高くなる。また、転院先の医療機関は、療養型病床を持つ中小規模病院であることが多く、このような施設では感染管理の専門家が常在していないことが多い。このため基幹病院と同等の感染対策を実施することが困難であり、このような施設を介してさらに地域内の他の基幹病院にVREが拡散しうる。

拡散は地域医療に大きく影響、自治体間で積極的に情報共有を

2000年代前半に発生した、保菌者も含めたVRE検出患者数が50例未満であった院内感染事例では、その後の地域における追跡調査で他医療機関への広がりは確認されなかった。しかし、2005年に発生した、保菌者を含めると100例以上のVRE検出患者が確認された事例では、その後の追跡調査で地域内の他医療機関への拡散が確認されている。さらに、2019年には国内最大規模のVRE による院内感染・地域内拡散事例が発生し、一時的に基幹病院における救急患者受け入れの一部制限措置が講じられ、地域医療に大きな影響を及ぼした。

日本のVRE分離率は諸外国と比較すると極めて低く、VREは依然としてまれな耐性菌である。そのような状況下で複数のVRE感染症の届出がなされている医療機関では、VREの院内感染が発生している可能性がある。VRE感染症の届出があった際には、隔離やスクリーニングといった病院における感染対策の実施状況の確認とともに、地域的な感染拡大の可能性も念頭に置き、分離菌株の確保と地方衛生研究所での試験解析を確実に行う必要がある。特に地域内の複数の医療機関でVRE感染症が発生している場合は、保健所や地方衛生研究所などが感染対策を主導的に進めるとともに、異なる自治体間においても情報共有を積極的に行うことが求められる。

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