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運動を行うことで、質の良い睡眠を効率的に獲得できる可能性-筑波大

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2021年03月25日 PM12:45

エンベロープ解析によるδ波の安定性評価を行い、運動が睡眠におよぼす効果を検討

筑波大学は3月24日、運動を行うことにより、質の良い睡眠がとれ、より短時間で効率よく睡眠要求を満たすことができる可能性が示唆されたと発表した。この研究は、同大国際統合睡眠医科学研究機構()のVOGT Kaspar E.准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

覚醒時における行動のうち、睡眠に影響するものの一つに運動がある。実際に、ヒトや動物を用いた従来の研究では、運動後に睡眠の量が増加することが報告されている。一方で、ヒトにおいて、運動負荷や運動時間の違いによる睡眠の量や質への影響を明らかにした研究成果が蓄積することに伴い、運動が睡眠の質に対して否定的あるいは負の効果を示すという報告が散見されるようになった。

睡眠の質については、これまで、睡眠脳波を目視によって、30秒毎にN1(浅睡眠)、N2、N3(深睡眠)、REM(レム睡眠)という4つの睡眠ステージで判定し、各ステージの時間の長さで評価されてきた。この方法は50年以上にわたって睡眠判定の標準として用いられているが、目視という半定量的な手法を用いるため、睡眠の質を十分に評価できているとは限らず、再現性にも問題がある。このため、睡眠の質を評価する新たな解析手法を導入する必要があると考えられる。

その一つとして、近年、脳波波形のエンベロープ(包絡線)を用いた、新しい脳波解析の手法が提案された。脳波の特定の周波数成分におけるエンベロープの変動係数(Coefficient of variation of envelope;CVE)を求めることで、その周波数域での振動の経時的な変化や安定性を評価することができる。より振動が安定している場合はCVEが低値を、不安定な場合は高い値を示す。良い睡眠(睡眠の深さ)の指標として、深睡眠時に特徴的なδ波がある。エンベロープ解析により、δ波の安定性や持続性を指標化することで、運動が睡眠に及ぼす効果を定量的にかつ多角的に評価することができる。そこで研究グループは、従来の睡眠ステージや睡眠脳波の周波分析に加え、新しいツールとしてエンベロープ解析によるδ波の安定性評価を行い、運動が睡眠におよぼす効果を検討した。

激しい運動は主観的な睡眠の質を改善させないが、より安定した深い睡眠を誘導

研究では、覚醒時の運動が睡眠時脳波におよぼす影響について、今まで行われていなかった詳細な脳波解析をもとに、世界で初めて深睡眠の安定性の評価を試みた。睡眠に問題がない健常な成人男性9人を対象に、単発性の高強度運動がその後の睡眠におよぼす急性効果を、ランダム化クロスオーバー試験で調べた。睡眠への影響は、「エネルギー代謝」「深部体温」「睡眠質問票による主観的な睡眠の質」「睡眠段階スコアリング」「脳波のスペクトラム分析」「δ波のエンベロープ解析による客観的な睡眠の質」の6項目で評価した。

その結果、運動によって睡眠中のエネルギー消費は増加したが、深部体温には差がないことがわかった。また、運動によって睡眠の質の主観的評価が改善することはなく、客観的な評価においても深い睡眠時間は減少していた。しかし、睡眠脳波の詳細な分析では、深睡眠のδ波強度が大幅に増加していた。また、δ波のエンベロープ解析により、睡眠前半において深睡眠の安定性が向上していることを見出した。これらのことから、激しい運動は睡眠の質の主観的な改善および客観的な深い睡眠時間の増加にはつながらないものの、より安定した深い睡眠が誘導されている、つまり、運動を行うことで、質の良い睡眠を効率的に獲得できる可能性が示唆された。

δ波のエンベロープ解析を既存データに適用することで、眠りの謎解明を目指す

今回、運動生理学や睡眠医学との連携により、新たな手法を用いて多角的に脳波活動を評価した結果、これまで解明されていなかった運動後の快眠、つまり主観的な睡眠評価の改善の仕組みが明らかにされた。

運動が睡眠にもたらす効果が明らかになれば、睡眠の改善に向けた運動方法を提案することが可能となる。また、運動が睡眠を促進する仕組みがわかれば、運動の効果を最大化するためのさまざまな介入方法や、運動に代わるサプリメントなどの開発にもつながり、健康増進への貢献が期待される。「本研究によりその有効性が示された、δ波のエンベロープ解析という新しい手法を、今後、既存のデータも含めたさまざまなデータに適用することにより、さらに眠りの謎が解明されると考えられる」と、研究グループは述べている。

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