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幼少期の情緒的虐待が注意バイアス変動性に関連、健常成人女性で-NCNPほか

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2021年03月16日 AM11:15

注意バイアスに影響を与えるメカニズムに、炎症やBDNF遺伝子が関与する可能性

(NCNP)は3月15日、子ども時代の情緒的虐待(暴言などの心理的虐待)が成人後の注意バイアス変動性に関連することを明らかにするとともに、そのメカニズムに炎症やBDNF遺伝子が関与する可能性を見出したと発表した。この研究は、NCNP精神保健研究所の金吉晴所長、行動医学研究部の堀弘明室長、伊藤真利子研究員(現・北海道大学環境健康科学研究教育センター特任助教)、林明明研究員らの研究グループと、NCNP神経研究所疾病研究第三部の功刀浩前部長(現・帝京大学医学部精神神経科学講座教授)ら、金沢大学国際基幹教育院(臨床認知科学研究室)の松井三枝教授との共同研究グループによるもの。研究成果は、「Translational Psychiatry」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

幼少期に虐待やトラウマ体験を経験すると、ネガティブな情報に対して過度に注意を向けるという注意バイアスが強くなりやすいと一時期考えられていた。しかしその後、ネガティブな情報に対して逆に注意を過度に逸らしやすくなるという報告もなされ、見解が分かれていた。これに対し研究グループは、幼少期に虐待体験を受けると、ネガティブな情報に対し、ある時には注意を過度に向け、またある時には注意を過度に逸らすといったような、ネガティブな情報への注意の向け方が不安定で一貫性がなくなる「注意バイアス変動性」を呈するのではないかと考えた。実際に、生命を脅かすような恐怖体験を経たのちに発症することのある心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者では、そうした注意バイアス変動性が大きいことが知られており、そのような注意の不安定な向け方によってトラウマに関連した症状が強まることが想定されている。

そこで今回、ドット・プローブ課題という注意バイアスを捉える実験課題を用いて、健常成人における幼少期被虐待体験と注意バイアスおよびその変動性の関連について、先の仮説を検証した。さらに、この関連の生物学的メカニズムを調べるために、炎症とBDNF遺伝子(記憶・学習に重要な働きをする)に着目。これは、幼少期トラウマによって身体の軽度慢性炎症が惹起されることや、炎症とBDNF遺伝子はいずれも認知機能に関連することが示されているためだ。同研究グループの先行研究でも、PTSD患者においてBDNF遺伝子の一塩基多型(SNP)のVal66Met多型が記憶バイアスに関連することが示されている。

BDNF遺伝子Val66Met多型のMet対立遺伝子を多く有するほど注意バイアス変動性大

研究は、NCNPが主幹研究機関となり、共同研究機関とともに実施しているゲノム・バイオマーカー・心理臨床指標を包含したトラウマ/PTSD研究プロジェクトにおいて収集中のデータおよびサンプルの一部を用いて実施。また、128人の健常成人女性ボランティアを対象とした。平均年齢は36.4歳(範囲:20~64歳)で、全員が日本語を母国語とする被験者だった。各被験者に対して簡易的な構造化面接を行い、精神疾患にり患していないことを確認。幼少期被虐待体験は、自記式質問紙である幼少期トラウマ質問票(Childhood Trauma Questionnaire)によって評価した。注意バイアスとその変動性はドット・プローブ課題によって測定。さらに採血を行い、血液中の炎症性物質である腫瘍壊死因子-α()、インターロイキン-6(IL-6)、高感度C-reactive protein(CRP)濃度を測定するとともに、血液からDNAを抽出してPCR法により、BDNF遺伝子Val66Met多型を解析した。

主要な結果として、幼少期情緒的虐待と注意バイアス変動性の間に有意な正の相関が認められ(p=0.002)、研究グループの当初の仮説を支持する結果となった。

また、血中TNF-α濃度は、注意バイアス変動性と有意な正の相関を示した(Spearman’s ρ=0.302, p<0.001)。血中IL-6濃度と高感度CRP濃度については、注意バイアスや注意バイアス変動性とは有意な相関を示さなかった。さらに、BDNF遺伝子Val66Met多型のMet対立遺伝子を多く有するほど注意バイアス変動性が有意に大きくなること、Met多型を有する人が幼少期情緒的虐待を経験することで注意バイアス変動性がさらに大きくなることが示された。

男性例での検討も予定、注意バイアス変動性の治療法の研究進展に期待

今回の研究成果により、健常成人女性において幼少期の情緒的虐待体験が注意バイアス変動性に関連することが初めて見出された。また、そのメカニズムに炎症やBDNF遺伝子多型が関与する可能性についても示された。BDNF遺伝子多型のMet対立遺伝子はVal対立遺伝子に比べて注意バイアス変動性が大きいという結果が得られたが、これはValに比べMetは細胞からのBDNF分泌低下を呈するためだと考えられるという。「今後、男性例での検討、さらには注意バイアス変動性の治療法についての研究が進むことが期待される」と、研究グループは述べている。

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