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交通死傷を減らすには「交通手段のシフト」が有効である可能性-筑波大ほか

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2021年03月03日 AM11:30

豪雪時、通学中の交通死傷の頻度はどのくらい変化するのか?

筑波大学は3月2日、豪雪時(月間100cm以上の降雪時)には交通死亡・重傷率が68%減少しており、交通手段のシフトが、交通死傷を減らす重要な方策となりうることが明らかにと発表した。この研究は、同大医学医療系の市川政雄教授と米国ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院の稲田晴彦研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology」に掲載されている。

交通事故により、毎年世界で130万人以上が死亡し、5400万人以上がけがをしているといわれている。交通死傷を減らす方策の一つとして、人々が利用する交通手段のシフトが注目されている。例えば、一般に公共交通機関は自家用車よりも死傷のリスクが低いので、人々の主要な交通手段を自家用車から公共交通機関に誘導することにより、交通死傷を減らせる可能性が考えられる。しかし、このことを具体的に示すための、国や地域レベルといった大きな人口集団を対象とした研究は、これまで行われていなかった。

日本の中学生は、徒歩、、公共交通機関等の交通手段により通学しているが、自転車通学の交通死傷リスクが高いことが知られている。一方、冬季に多量の降雪があった場合には、自転車の利用が困難になり、通学手段が徒歩、公共交通機関、自家用車などの自転車以外の自転車よりも安全な交通手段にシフトすると考えられる。そこで、研究グループは今回、豪雪時に、通学中の交通死傷の頻度がどのくらい変化したか明らかにすることを目的とした分析を行った。

豪雪時の自転車と歩行者を合わせた交通死亡・重傷率は68%減

研究には、公益財団法人交通事故総合分析センターが保有する2004年1月~2013年12月の月ごとの全国の中学生の通学中の交通死傷データを用いた。このデータは、都道府県、死者または受傷者を性別、交通手段(自転車、徒歩)および重傷度(死亡、重傷)で層別し、死傷数を集計したもの。この交通死傷データと、同期間の都道府県別の降雪量データ、および中学生数データを組み合わせて、自転車通学が実質的に不可能になると思われる豪雪時(月間100cm以上の降雪時)に、通学中の交通死亡・重傷率(中学生数当たりの死亡・重傷数)がどのくらい変化したかを分析した。

その結果、豪雪時には自転車の交通死亡・重傷率がほぼゼロとなり、自転車と歩行者を合わせた交通死亡・重傷率が68%(95%信頼区間:43, 82)減少していた。

通学手段を自転車からそれ以外のより安全な交通手段にシフトさせることが、通学中の交通死傷予防につながる可能性

このことから、中学生の通学手段を自転車からそれ以外のより安全な交通手段に可能な限りシフトさせることで、通学中の交通死傷予防に大きな効果をもたらし得ることが示唆された。同研究は、交通手段のシフトが、都道府県別の中学生のような、地域レベルの人口集団で交通死傷を予防できることを実証した初めての研究であり、日本のみならず他国の交通政策にも参考になると考えられる。

今回の研究では、普段、自転車通学をしている中学生が、豪雪時にどのような交通手段にシフトしたのかは、明らかになっていない。「徒歩ではなく、自家用車や公共交通機関にシフトした場合には、通学時の身体活動量が減少することで健康への悪影響があることも考えられるため、死傷の予防による健康への正の効果と比較した研究が望まれる」と、研究グループは述べている。

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