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急性期脳梗塞の炎症増悪、血管内腔の糖衣損傷が関与-東京理科大ほか

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2021年02月24日 PM12:45

脳梗塞の重症度と糖衣の関連性に着目

東京理科大学は2月22日、脳梗塞急性期における脳血管内腔の糖衣の損傷が、炎症増悪に関与することを解明したと発表した。この研究は、同大薬学部薬学科の東恭平講師、理化学研究所環境資源科学研究センターの堂前直ユニットリーダー、鈴木健裕専任技師、東京薬科大学薬学部/大学院薬学研究科の降幡知巳教授、千葉大学予防医学センターの戸井田敏彦特任教授、株式会社アミンファーマ研究所の五十嵐一衛代表取締役社長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Biological Chemistry」に掲載されている。


画像はリリースより

脳梗塞は、脳の血管が閉塞するなどして血流が滞る「虚血」によって発生する。虚血に陥ると、患部の脳細胞は酸欠状態となり壊死する。脳梗塞時には、虚血に続いて起こる炎症により病態が悪化する。この炎症の拡大は、免疫細胞が脳組織内へ侵入することで始まると考えられている。

脳毛細血管では、血管最内層を構成する内皮細胞が密着結合によって互いに強固に結合し、「血液脳関門」と呼ばれるバリアを構成している。これにより、血液中に存在する免疫細胞は、通常は脳内に侵入できないが、虚血により壊死した細胞から損傷関連分子パターン(DAMPs)と呼ばれる物質が放出されると、このバリアが破壊されて侵入が可能になる(超急性期:発症後数時間以内)。脳内に侵入した免疫細胞は、DAMPsによりさらに活性化され、脳内に炎症を広げる(急性期および亜急性期:12〜72時間)。このように、脳梗塞では血液脳関門の破壊を発端に、炎症が拡大することから、脳血管の損傷を防ぐことが炎症増悪を阻止するうえで重要だ。

脳毛細血管の内皮細胞表面に存在する糖衣は、酸性糖鎖であるグリコサミノグリカンで構成されており、免疫細胞との不要な接着を妨げる役割がある。グリコサミノグリカンには、(HS)、(CS)、およびヒアルロン酸 (HA)などがある。その分解は炎症増悪に関与することがタンパク尿や敗血症で報告されていた。しかし、脳梗塞の重症度と糖衣の関連性についてはほとんど調べられていなかった。そこで研究グループは、脳梗塞モデルマウスとヒト不死化脳血管内皮細胞を用いて、脳梗塞急性期における糖衣の分解とそのメカニズムを調べた。

脳梗塞モデルマウスの梗塞巣でHPSE、HYAL1の活性増加

まず、光増感反応を応用したPhotochemically induced thrombosis (PIT)法により作製した脳梗塞モデルマウスを用いて、脳梗塞とグリコサミノグリカンの構造に関連性があるかどうかを調べた。梗塞誘導24時間後に梗塞巣を摘出し、グリコサミノグリカンであるHS、CS、およびHAの糖鎖構造と発現量を確認したところ、梗塞巣では健常脳組織と比較して、HSおよびCSの発現量が著しく減少していた。HSやCSの糖鎖構造(硫酸化パターン)、およびHAの量に変化は認められなかった。また、このマウスの血漿中HSおよびCS濃度を調べると、発症3〜24時間後まで両者ともにその濃度は増加し続けていた。この結果は、梗塞巣で分解されたHSおよびCSが血液中に遊離したためと考えられ、脳梗塞急性期において、梗塞巣でHSおよびCSの分解が起きていることがわかった。

次に、HS、CS、およびHAに対する糖鎖分解酵素について検討した。HS分解酵素であるHPSE、CSおよびHA分解酵素であるHYAL1、HA分解酵素であるHYAL2について、ウェスタンブロット法を用いて梗塞巣における発現量を確認したところ、梗塞巣では健常組織と比較して、HYAL1の発現量が発症3時間後および24時間後でともに増加していた。HYAL2の発現量に変化は認められなかった。また、HPSEはこの方法では検出できなかったが、HPSEの酵素活性は、梗塞巣では健常組織と比較して発症3時間後および24時間後で上昇。そこで、免疫組織化学染色法によりHPSEの発現を調べたところ、梗塞巣の毛細血管ではHPSEの発現が増加していたことがわかった。

血管内皮細胞のHSとCSが、それぞれHPSE、HYAL1によって分解されることで炎症増悪か

脳梗塞では、虚血に陥り酸素が不足していた組織に血流が再開(虚血再灌流)されるが、その際、酸素の供給によりさまざまな活性酸素種 (過酸化水素:H2O2、スーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル)が産生される。また、脂質過酸化反応やポリアミンの酸化分解から毒性の強い不飽和アルデヒドであるアクロレイン(ACR)も産生される。活性酸素種やACRは細胞を傷害し、細胞死を引き起こす。そのため、酸化ストレス除去剤が脳梗塞時の治療に用いられている。

そこで、血管内皮細胞の糖衣損傷と脳梗塞増悪の関係を調べるための実験を行った。酸化ストレス除去剤としてN-アセチルシステイン(NAC)とともに、HPSE阻害剤(低分子ヘパリン)およびHYAL1阻害剤(低分子コンドロイチン硫酸)を組み合わせてモデルマウスに投与した。すると、各処置による梗塞巣体積の減少量は、(NAC+HPSE阻害剤+HYAL1阻害剤)>(NAC+HPSE阻害剤)>NAC単独(35%減少)>HPSE阻害剤単独(効果なし)となった。これらの結果から、脳梗塞時に血管内皮細胞の糖衣を構成するHSとCSが、それぞれHPSE、HYAL1によって分解されることにより、炎症が増悪することが示唆された。

Pro-HPSEを標的とした糖衣保護剤が開発されれば、酸化ストレス除去剤との併用により脳梗塞の炎症抑制が可能に

さらに、ヒト不死化脳血管内皮細胞を用いて、酸化ストレス(特にアクロレイン)による糖衣の分解機構を詳細に調べた。まず、細胞増殖に対するH2O2、またはACR曝露の影響を調べた。すると、40μMのACRで処理したとき、および80μMのH2O2で処理したとき細胞増殖が強く阻害された。

次に、糖衣に対する酸化ストレスの影響を調べるため、HBMEC/ciβ細胞におけるHSおよびCSの発現量を調べた。その結果、HSの発現量はACR処理により減少したが、CSの発現量は変化しなかった。また、HSおよびCSの発現量はH2O2処理では変化しなかった。一方、虚血再灌流(H/R)処理を施したところ、ACR処理したときと同様にHSのみ発現量が減少した。

さらに、各分解酵素に対する酸化ストレスの影響を検討。HPSEは、HS切断活性がない不活性型の前駆体(pro-HPSE)として生合成され、その後、pro-HPSEはHSプロテオグリカンと結合した状態で細胞膜上に局在する。pro-HPSEはHSプロテオグリカンと共に取り込まれた後にリソソーム内でカテプシンLにより切断を受け、内部の6-kDaリンカーが除かれると活性型のHPSEとなる。通常、HPSEはリソソームに局在。HBMEC/ciβ細胞にACRを曝露するとHS量が低下したため、HPSEおよびpro-HPSEの発現量について、ウェスタンブロット法を用いて調べた。その結果、ACR処理したものでは未処理のものと比較してpro-HPSEの発現量は増加したものの、HPSEの発現量に変化は認められなかった。ACRを曝露した細胞におけるHPSE mRNAの発現量を調べると、未処理のものと比較してmRNA量が増加。また、H/R処理によってもHPSE mRNAの発現量は増加していた。このことから、ACR処理によるpro-HPSEの発現量増加は、mRNAの発現亢進によるものと考えられた。

研究グループはさらに、HPSE遺伝子を形質導入したHEK293細胞にヘパリンを添加して培養し、培養液中に分泌されたpro-HPSEの活性を調べた。その結果、ACRを添加するとその濃度に依存してpro-HPSEの糖鎖切断活性が上昇。このことから、ACRはpro-HPSEを活性化することがわかった。pro-HPSEのどのアミノ酸にACRが付加しているのか、nano LC-MS/MSによりペプチドを解析したところ、pro-HPSEはACRによって15か所のリジン残基が修飾されていた。特に小サブユニットと大サブユニットをつなぐ6-kDaリンカーの両端に位置するリジン残基が修飾されており、その修飾によりリンカーの立体構造が変化し、pro-HPSEの酵素活性が生じたと考えられるという。

研究成果について、東講師は、「pro-HPSEを標的とした有効な糖衣保護薬が開発されれば、酸化ストレス除去剤との併用により、脳梗塞患者のQOL(Quality of Life)向上が期待される」と、述べている。

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