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ヒトiPS細胞から結膜上皮系列細胞への分化誘導法を確立-阪大ほか

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2021年02月09日 AM11:45

結膜上皮はヒト細胞の入手が困難なため角膜上皮より研究が進んでいない

大阪大学は2月3日、ヒトiPS細胞からムチン分泌能を有する機能的な結膜上皮を作製する方法を新たに確立したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の林竜平寄附講座教授(幹細胞応用医学)、西田幸二教授(眼科学、先導的学際研究機構生命医科学融合フロンティア研究部門)、能美君人特任研究員(常勤)(眼科学、幹細胞応用医学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

目の表面は主に結膜上皮と角膜上皮からなり、角膜は黒目の部分を、結膜はまぶたの裏側と眼球の表面から黒目の周囲までを覆っている。良好な視力を得るためにはこれらが相互に関連しあって機能することが必須となる。結膜上皮の重要な役割として涙液中にムチン(MUC5ACなど)を分泌することで、目の表面を保護している。疾患や炎症などにより結膜からのムチン分泌機能が低下すると、目の表面が乾燥し、ドライアイとなる。しかし、結膜上皮については角膜上皮に比べ研究が進んでおらず、その理由として、ヒト結膜細胞の入手が非常に困難であること、結膜細胞の培養法が確立されていないことが挙げられる。

成長因子EGF、KGFを使い分けSEAMから結膜上皮細胞誘導を目指した

これまでに研究グループは、ヒトiPS細胞を用いたさまざまな目の細胞を含むオルガノイドである多帯状コロニー(Self-formed Ectoderm Autonomous Multi-zone:)の誘導法を確立し、SEAMを用いて角膜上皮組織の作製に成功している。一方で、同じ眼表面上皮である結膜上皮の分化誘導法は不明だった。また、過去の報告で、EGFは結膜上皮、KGFは角膜上皮の表現系維持や増殖に関与することが示唆されているが、これらの成長因子が発生過程に与える詳細な影響については明らかにされていなかった。そこで今回、研究グループは、EGFとKGFを適切な条件下で使い分けることでSEAMからの結膜細胞の誘導、単離、成熟を目指した。

結膜上皮前駆細胞への分化はEGF、前駆細胞から結膜上皮への成熟分化はKGFが重要

研究グループはまず、ヒトiPS細胞からSEAM形成後にEGFもしくはKGFを添加した際の変化を比較検討した。EGF添加SEAM(+)とKGF添加SEAM(+)では、分化誘導開始6週時点において、両者ともSEAMのzone 3にp63+/PAX6+の眼表面上皮原基(角結膜上皮の原基)が誘導された。一方、分化誘導後10週の時点では、KGF添加時にはこれまでの報告通り角膜上皮が誘導されたが、EGFを添加した場合では、角膜上皮細胞への分化が強く抑制されることがわかった。これらの結果からEGFの添加により、SEAM中の角膜上皮分化が抑制され、結膜上皮細胞が誘導されることが示唆された。

続いて、EGF添加SEAMを、眼表面上皮細胞の単離・解析で使用する3種類の細胞表面マーカー(CD200, SSEA-4, ITGB4)で染色後、蛍光活性化セルソーティング(FACS)で6つの画分に分離し詳細に解析。その結果、CD200陰性/SSEA-4弱陽性/ITGB4陽性の画分(P2)の細胞は、単離した直後では結膜分化マーカーの発現は認められなかったが、重層化培養することで結膜杯細胞を含む成熟した結膜上皮に分化することが明らかとなった。興味深いことに、この成熟培養の際には、EGFではなくKGFを添加した条件で、結膜杯細胞マーカーMUC5ACの発現上昇が認められた。さらに、作製したヒトiPS細胞由来結膜上皮シートはMUC5AC分泌能も確認され、結膜マーカーの免疫染色やムチン染色でも正常な結膜上皮と同じ特徴が確認された。また、EGFだけでなく他のEGF受容体リガンドであるTGF-αやAmphiregulinでも同様に結膜上皮前駆細胞を分化誘導できることがわかった。

今回、EGFなどによるEGF受容体を介したシグナルがヒトiPS細胞から結膜上皮系細胞(結膜上皮細胞、杯細胞、前駆細胞)の分化に重要であることが示され、SEAM法と組み合わせて結膜上皮細胞を誘導することに成功した。さらに、KGFを用いることで、これまで困難であった杯細胞を有した機能的な結膜上皮の培養に成功した。また、眼表面上皮細胞から結膜上皮前駆細胞への分化にはEGFなどのEGF受容体リガンド、結膜上皮前駆細胞から結膜上皮への成熟にはKGFが重要であることが示唆された。

ドライアイなどの眼疾患に対する創薬や再生医療研究への応用に期待

今回の研究成果により、これまで入手が困難であったヒト結膜細胞をiPS細胞から分化誘導し、結膜や角膜を含む、眼表面上皮の機能解析や発生過程を解明するための研究ツールとして利用することが可能となった。「さらには、結膜細胞をターゲットとしたドライアイなどの眼疾患に対する創薬研究への利用や、眼表面の再生治療法開発のための研究ツールとして提供できることも期待される」と、研究グループは述べている。

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