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レム睡眠とカタプレキシーに共通の筋脱力を駆動する神経回路を初めて同定-筑波大ほか

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2021年01月18日 PM12:00

VMMのグリシン作動性ニューロンに注目し、レム睡眠時の筋脱力とカタプレキシーを制御する神経回路を探索

筑波大学は1月14日、マウスを用いた実験により、レム睡眠とカタプレキシーに共通する、筋脱力を駆動する神経回路を、初めて同定したと発表した。この研究は、同大医学医療系、同大国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)櫻井武教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Neuroscience」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

レム睡眠は、規則的に脳が強く活動する睡眠状態で、急速かつ不規則な眼球運動を伴う。レム睡眠時には大脳皮質ならびに辺縁系が活発に働いているにもかかわらず、全身の抗重力筋が脱力することが知られており、動物実験においても、レム睡眠中は脊髄の運動ニューロンが強力に抑制されていることが示されている。この抑制は、グリシン受容体拮抗薬の投与によって解消されることから、グリシンが体性運動ニューロンを抑制することによって、レム睡眠中の筋脱力が生じると考えられてきた。近年、延髄腹内側(VMM)の抑制性ニューロンがレム睡眠中の筋脱力を担うことが報告されたが、レム睡眠時の筋脱力を制御する神経回路までは明らかにされていなかった。

また、睡眠障害の一つである「ナルコレプシー」には、カタプレキシーと呼ばれる、笑いや喜びなどの情動によって抗重力筋の筋緊張が低下する特徴的な症状がある。これは、覚醒からレム睡眠への病的な移行と考えられてきた。しかし、カタプレキシーを制御する神経回路が、レム睡眠の筋脱力を担う神経回路と同一なのか、異なる回路を介したものであるのかは、明らかにされていなかった。

そこで研究グループは、VMMのグリシン作動性ニューロンに注目し、レム睡眠時の筋脱力およびカタプレキシーを制御する神経回路を同定することを目的として研究を行った。

レム睡眠とカタプレキシーの筋脱力は「SLD→VMM→運動ニューロン」という共通の神経回路により生じる

まず、遺伝子改変マウスを用いて、VMMのグリシン作動性ニューロンの出力先を探索した。腰髄前角の運動ニューロンに出力するグリシン作動性ニューロンのみを蛍光色素で標識し、このニューロンの軸索を探索したところ、三叉神経運動核、顔面神経、副神経、舌下神経、および頚髄から腰髄にかけての脊髄前角へ、軸索が延びていることを認めた。つまり、VMMのグリシン作動性ニューロンでは、体性運動ニューロンに限って信号の出力先を持つニューロン群が存在していることになる。一方で、外眼筋を支配する動眼神経、滑車神経、外転神経には、VMMのグリシン作動性ニューロンの支配が及んでいなかった。

次に、このグリシン作動性ニューロン群への信号の入力源を探索するため、神経回路の標識として、無毒化した狂犬病ウイルスを用いた実験を行った。その結果、このニューロン群は、脳幹を中心に多くの領域から入力を受けていることが判明。その中でも特に、下背外側被蓋核(SLD)という、レム睡眠時に活発に活動することで知られる領域に、多くの入力源が存在していたという。

さらに、VMMのグリシン作動性ニューロンに、破傷風毒素をマウスに導入して神経伝達を強力に阻害したところ、本来筋活動が生じないレム睡眠中に、筋活動と四肢体幹の運動が生じ、レム睡眠行動障害(RBD)様の異常を呈した。同じ方法で、VMMに入力しているSLDの興奮性ニューロンの神経伝達を阻害すると、同様に、レム睡眠中の筋脱力が消失し、RBD様の症状を示すことが明らかになった。つまり、SLD→VMM→運動ニューロンという神経回路が、レム睡眠時の筋脱力を制御することが示唆された。人為的にナルコレプシーを発症させたモデルマウスに破傷風毒を導入して、VMMのグリシン作動性ニューロンや、VMMへ延びるSLDの興奮性ニューロンの神経伝達を阻害したところ、カタプレキシーが顕著に減少することがわかり、レム睡眠時に筋脱力を制御している神経回路が、カタプレキシーの筋脱力時にも共通して働いていることが明らかになった。

パーキンソン病やレビー小体型認知症の新規治療法開発への貢献に期待

ナルコレプシー患者は、カタプレキシーのために、行動が中断されたり、けがをしたりするなど、日常生活に支障をきたすことがある。また、RBD患者は、レム睡眠中に寝言や粗雑な四肢や体幹の運動などを伴うさまざまな行動を取るため、本人やベッドパートナーがけがをすることがある。さらに、RBDはパーキンソン病やレビー小体型認知症に先行して発症することが知られている。今回の研究成果は、これらの疾患の病態解明や治療方法の開発に大きく貢献することが期待される。

「本研究では、レム睡眠時の筋脱力およびカタプレキシーも、脳幹の橋以下のレベルでは共通の神経回路が担っていることがわかった。今回同定した神経回路を基盤として、カタプレキシーとレム睡眠が、より上流でも同じ神経回路を介すのか、今後、さらに研究を進めていく」と、研究グループは述べている。

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