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着床障害による不妊症が起こるメカニズムの一つを明らかに-東大病院

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2021年01月08日 PM12:30

明らかにされていない部分が多い、着床期における子宮内膜の状態

東京大学医学部附属病院は1月5日、子宮内膜において子宮内膜上皮の細胞増殖が停止した状態になることが胚浸潤に必要であることを、遺伝子改変マウスやヒト着床期子宮内膜を用いた研究により明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の廣田泰准教授、赤枝俊特任臨床医、大須賀穣教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「EMBO Reports」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

着床は、子宮内に入ってきた胚が子宮内膜と接着する過程(胚接着)と、その後に胚が子宮内膜に入り込む過程(胚浸潤)を経て成立する。着床期の子宮内膜の細胞増殖の状態はダイナミックに変化し、排卵から着床期に入る前までは子宮内膜上皮は細胞増殖が高まった状態だが、着床期には急にブレーキがかかり、停止状態となる。しかし、着床期の子宮内膜の最適な状態がどのように着床を制御しているか、細胞増殖の状態の急激な変化がどのように着床を支えているかについては、これまで明らかにされていなかった。

着床において、子宮内膜上皮の細胞増殖停止状態が胚浸潤に必要と判明

研究グループは今回、細胞増殖抑制因子である網膜芽細胞腫遺伝子(RB)を子宮特異的に欠損したマウスを用いて、着床期の子宮内膜上皮の細胞増殖が持続する動物モデルを作成して着床に与える影響を検討し、さらに、着床期ヒト子宮内膜を用いてヒト妊娠に必要な細胞増殖の状態を調べた。

子宮のRB欠損マウスは新生仔をほとんど産まず不妊になった。着床を観察したところ、子宮内膜への胚接着は子宮のRB欠損マウスでも正常に起きていたが、胚浸潤はコントロールマウスでは胚と接する部分の子宮内膜上皮が消失し胚浸潤が認められた一方で、RB欠損マウスでは子宮内膜上皮は消失せず、胚が子宮内膜に進入できないことがわかった。着床期子宮の細胞増殖の状態は、正常な子宮機能を有するコントロールマウスでは子宮内膜上皮の細胞増殖が抑制されていた一方で、RB欠損マウスでは子宮内膜上皮の細胞増殖が持続していた。

胚浸潤の時期の着床部位を電子顕微鏡および免疫蛍光染色で観察したところ、コントロールマウスの着床部位では子宮内膜上皮がネクロトーシスというプログラムされた細胞死を起こし胚側の細胞である栄養膜細胞の貪食作用により除去されていること、RB欠損マウスではネクロトーシスや栄養膜細胞による貪食作用を認めず、子宮内膜上皮が除去されないままになっていること、コントロールマウスでは着床部位の胚や子宮内膜にはサイトカインであるTNFαが産生され、子宮内膜上皮のTNFα受容体を刺激してネクロトーシスが起こるが、RB欠損マウスではTNF受容体の発現が低下してネクロトーシスが起こらないことを見出した。

不妊患者の着床期子宮内膜でも、子宮内膜上皮の細胞増殖が持続していた

次に、妊娠の成立に必須の卵巣ホルモンである黄体ホルモン(プロゲステロン)を着床前にのみRB欠損マウスに投与したところ、着床期の子宮内膜上皮の細胞増殖が停止し、その後の子宮内膜上皮のネクロトーシスと栄養膜細胞による貪食作用も正常に認められ、胚浸潤が正常におこり正常な産仔数が得られ、不妊が完全に解消されることがわかった。これらの結果から、黄体ホルモンの作用により、胚浸潤において、子宮側の最初のバリアである子宮内膜上皮が細胞増殖を停止したのち、ネクロトーシスを起こし、死んだ子宮内膜上皮を胚が貪食作用により除去し子宮内に進入するという着床の仕組みが示された。

さらに、不妊患者の着床期子宮内膜において細胞増殖の状態を検討したところ、その後の胚移植で妊娠した群では子宮内膜上皮の細胞増殖が停止している一方で、妊娠しなかった着床障害群では子宮内膜上皮の細胞増殖が持続していることがわかり、子宮内膜上皮の細胞増殖停止がヒト着床においても重要な働きをしていることが明らかになった。

着床期子宮内膜の細胞増殖能の評価を、着床能の指標として利用できる可能性

今回の研究成果により、黄体ホルモン作用により着床期子宮内膜上皮の細胞増殖が停止状態になることが、胚に対する子宮側の最初のバリアとなる子宮内膜上皮の消失に必要な変化であり、胚の子宮内への進入を許可する仕組みになっていることが判明し、黄体ホルモンによる着床誘導機序の詳細が解明された。

研究グループは今後の展開として、「着床期子宮内膜の細胞増殖能の評価が着床能の指標として利用できる可能性や、子宮内膜の細胞増殖の状態を改善させる何らかの治療法を開発することで、不妊症・不育症が克服できる可能性などが期待され、不妊症や不育症における臨床応用に向けてさらに研究を発展・継続していく予定」と、述べている。

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