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「KUS121」の外傷性変形性膝関節症への効果を確認-京大

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2020年12月18日 PM12:15

KUS121はVCPのATPase活性のみを低下させ細胞保護作用を発揮する薬剤

京都大学は12月17日、ラット外傷後変形性膝関節症モデルを用いて、京大で開発された薬剤「」(Kyoto University Substance 121)の投与実験を行ったところ、関節軟骨の細胞死を防ぎ、関節軟骨の損傷の抑制と滑膜炎の抑制をもたらすことにより、変形性膝関節症を抑制する効果があることを解明したと発表した。これは、同大大学院医学研究科の西谷江平特定助教、松田秀一同教授、池田華子同特定准教授、同大学院生命科学研究科の垣塚彰教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

変形性膝関節症は、患者の生活の質を落とす、患者数がとても多い疾患であり、その進行を止める治療薬の開発が難しい疾患である。変形性膝関節症の中でも、骨折や靭帯損傷などの外傷に伴う軟骨の損傷や靭帯の損傷によって生じる変形性関節症を、外傷後変形性関節症と呼ぶ。骨折や靱帯損傷の後に生じる外傷後変形性膝関節症は、たとえ手術を行った場合でも、発症リスクが高いことも知られている。

関節内に外傷を受けた後に、軟骨の内部に存在する軟骨細胞が細胞死を起こし、炎症性の物質が放出されることで軟骨の破壊が引き起こされる。このことが、外傷後変形性関節症の原因となっている。これは外傷という契機が明らかなため、薬で変形性関節症の進行を止める介入が受傷後すぐから行える可能性がある。つまり、軟骨細胞死や炎症性物質の放出を抑制する薬剤があれば、外傷後変形性関節症の発症を抑えることができると考えられる。

薬剤KUS121は、同大生命科学研究科の垣塚彰教授の研究グループが開発したもの。過去に虚血や神経変性疾患に対する細胞保護効果が実証されており、VCPのATPase活性のみを低下させることで、細胞保護作用を発揮する。研究では、このKUS121で受傷後の軟骨細胞死を防ぐことにより軟骨が傷んでいくことを防ぐことができるかを調べた。

モデルラットへの投与で関節軟骨の細胞死を防ぐ

はじめに、KUS121に軟骨細胞保護作用があるかどうかを、細胞実験で検討。変形性関節症患者の軟骨細胞に小胞体ストレスを起こすツニカマイシンを投与することで細胞死を誘導したところ、KUS121はその細胞死を抑制した。また、細胞内のATPレベルや小胞体ストレスの程度を調べたところ、KUS121投与によってATPレベルは有意に維持され、小胞体ストレスも軽減していたことがわかった。KUS121は、軟骨細胞が炎症を起こした時に出す炎症性サイトカインや、軟骨破壊をもたらす物質であるMMP-13そしてADAMTS-5を減らす作用があることも確認された。以上から、KUS121はATPの維持、小胞体ストレスの軽減によってヒト軟骨細胞の細胞死を抑制し、また、軟骨を破壊する酵素を減らすことによって関節軟骨を保護している可能性が示唆された。

次に、生体内でのKUS121の保護効果を検証するため、ラットの軟骨に細胞死を起こしてその後軟骨が傷んでいく膝軟骨損傷(サイクリックコンプレッション)モデルを用いて、KUS121の投与実験を行った。ラットの膝に軟骨損傷を与えたモデルの関節内にKUS121を投与したところ、軟骨損傷の体積が減少し、細胞死の軽減もみられた。さらに、小胞体ストレスのマーカーであるCHOPタンパク質や、軟骨破壊をもたらす物質であるMMP-13そしてADAMTS-5の発現量を測定したところ、KUS121投与群では有意に減少していた。

外傷後変形性関節症発症リスク軽減の可能性、外傷以外の変形性膝関節症にも有効かは今後検討

関節内の骨折や靭帯損傷後にこの薬剤を用いれば、将来の外傷後変形性関節症の発症リスクを軽減できる可能性がある。また、外傷をきっかけとしない変形性膝関節症にも有効であるかはこれからの研究が必要だ。今後、関節内投与での薬物動態試験など安全性を検討し、関節外傷患者さんを対象とした医師主導治験を行うことを目標にしているという。「今回の結果を発展させ、変形性膝関節症の患者の助けになれるよう研究を進めていきたい」と、研究グループは述べている。

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