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レスベラトロール、筋ジス患者対象P2試験で有効性示唆-札幌医科大ほか

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2020年11月27日 PM12:30

SIRT1を活性化するレスベラトロール、マウスでは筋ジスへの効果を確認済み

札幌医科大学は11月26日、同大附属病院において、筋ジストロフィー症患者に対してレスベラトロールを用いた探索的治療研究を実施した結果を論文報告したと発表した。これは、同大医学部小児科学講座の堤裕幸名誉教授、川崎幸彦教授、保健医療学部理学療法学の小塚直樹教授、医学部薬理学講座の堀尾嘉幸教授らを中心とした、筋ジストロフィー症治療研究チームによるもの。同治療研究(第2相a臨床研究)の結果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

筋ジストロフィー症は筋力が次第に衰えていく遺伝性疾患で、さまざまなタイプがある。命に影響するタイプもあり、現在のところよい治療法はない。研究グループはこれまでに、長寿遺伝子産物SIRT1の研究を行ってきた。その中でレスベラトロールがSIRT1の活性化を介して細胞の酸化ストレスを低下させ、細胞死を抑制することを明らかとしてきた。そのメカニズムとして活性酸素を分解するSOD2量を増加させ、活性酸素の発生源となる障害されたミトコンドリアをオートファジーの活性化を介した分解機構で分解し、また、細胞死を起こすp53の働きを抑制して、同時に細胞生存に関与するFOXO転写因子を活性化して細胞生存に働くことを明らかとしてきた。

また、SIRT1を骨格筋で欠損するマウスが弱い筋ジストロフィー症状を示し、SIRT1が骨格筋の細胞膜の膜修復に関与することを明らかとした。レスベラトロールをデュシェンヌ型筋ジストロフィー症モデルマウス(mdxマウス)に投与すると、骨格筋や心筋の酸化ストレス量が低下し、骨格筋量の増加、遅筋量の増加が見られ、骨格筋や心筋の繊維化の抑制や心筋肥大の抑制、血清クレアチンキナーゼの低下、筋力や筋の持久力の増加、心筋機能の低下を抑制することも明らかとしてきた。

筋ジス患者11人に経口投与で有効性と至適投与量を検討

今回、札幌医科大学附属病院で実施した自主臨床研究(第2相a臨床研究)では、レスベラトロールの筋ジストロフィーへの有効性と至適な投与量について検討し、同時に安全性について検討が行われた。対象は、12歳から46歳の筋ジストロフィー症(デュシェンヌ型、ベッカー型、福山型)の患者合計11人。男性10人、女性1人で、多くは症状がかなり進行しており、7人は歩行困難で車いすが必要だった。

対象者は、所定の検査(血液、筋力、心臓、呼吸機能など)後にレスベラトロール1回/1日を8週間連続服用し、その後8週間はレスベラトロールを2回/1日で服用、さらにその後、レスベラトロール投与量を3回/日に増量して8週間連続で服用した。また、投与中は定期的に外来受診をして検査を受けた。

運動機能と筋力の向上、クレアチニンキナーゼ低下を確認

その結果、まず、運動機能スケール(MFM)の測定では、レスベラトロール服用24週間後に10%の向上が見られた。このような向上は通常の治療法ではこれまで観察されたことがないものだったという。

また、2種類の筋力測定項目で有意な増加が観察され、10人の患者で測定できた肩を挙げる力では、投与24週間後で平均して2倍の筋力増加(平均で4kgfが8.3kgfに増加)が観察された。5人の患者で測定できた肩の外転力でも約2倍の筋力増加(平均で4 .4kgfが9.1kgfに増加)が見られた。このような筋力の増加もこれまでの治療法では見ることができないものだったという。

筋の壊れを示すクレアチンキナーゼの量は平均で34%の低下がみられたが、統計的には有意な差ではなく、今回参加した患者の病態が均一ではないことが影響している可能性が考えられた。

副作用は腹痛と下痢

副作用としては、腹痛と下痢が一部の患者で認められた。軽度の下痢は4人の患者で見られた。最大投与量の場合(1日3回投与)は中等度の下痢が2人の患者に観察された。下痢はレスベラトロールの投与量を減らすと回復した。その他に治療期間中に呼吸器系の感染症を発症した患者がいたが、レスベラトロールの投与とは無関係と判断された。

今回の臨床研究では患者の数が少なく、年齢幅が広いこと、筋ジストロフィーが3つの種類にわたっていること、また、各患者の症状がまちまちであることが分析結果を出づらくしたものではあるが、治療により運動機能や筋力の改善が見られたことはレスベラトロールが筋ジストロフィーの治療に有効である可能性が強く示されたと研究グループは考えている。特に、MFMが改善したことは患者のQOL改善に直接つながる重要な知見であるとともに、筋力増加については平均で2倍、患者によっては3倍の増加を示したことはこれまでの既存の治療法では観察されたことがないもので、特筆に値する結果であると考えると、研究グループは述べている。

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