医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 神経再生治療、「末梢神経に直接巻く」新規ナノファイバーシートの治験開始-阪大ほか

神経再生治療、「末梢神経に直接巻く」新規ナノファイバーシートの治験開始-阪大ほか

読了時間:約 2分44秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年10月27日 PM12:00

神経の保護と再生促進の作用を併せ持つ薬剤含有シート

大阪大学は10月22日、末梢神経に直接巻いて神経の再生を促す薬剤含有ナノファイバーシートの商用規模での製造に成功し、ヒトを対象とした治験を2020年11月から開始すると発表した。これは、同大大学院医学系研究科の田中啓之特任教授(運動器スポーツ医科学共同研究講座)、物質・材料研究機構(以下、NIMS)の荏原充宏グループリーダー(機能性材料研究拠点 スマートポリマーグループ)、および日本臓器製薬株式会社からなる研究グループによるもの。


画像はリリースより

このナノファイバーシートはポリ(e-カプロラクトン)(PCL)をエレクトロスピニング(電界紡糸)技術で超極細繊維の不織布様にしたもので、神経再生効果を持つ薬剤を含有している。体液は通すが、神経の瘢痕化の原因となるマクロファージなどの炎症性細胞は通さないという特長があり、手術時に神経に被覆することで、術後の炎症反応から神経を保護し瘢痕形成を抑制することができる。

また、PCLの分子構造を精密に制御することで素材そのものの硬さを調節し、かつ、ナノファイバーからなる薄膜状に加工することで柔軟性が高く、しなやかなさわり心地だという。神経への刺激を最小限に抑えることができ、必要なサイズに切って神経に貼ったり巻き付けたりと、加工性にも優れる。さらに、薬剤はシート表面ではなく、超極細繊維の1本1本に均一に含有されているため、拡散によって長期間にわたり薬剤を一定速度で放出することができる。PCL自身の加水分解によって1年以上かけてゆっくりと生分解されるように設計されており、術後の抜去も不要だ。坐骨神経損傷モデルラットで同シートを検証したところ、術後6週間で神経の軸索が再生され、運動機能と感覚機能の回復が確認された。

手根管開放術および神経縫合術を要する患者対象、2022年6月まで実施予定

実用化に向けて、日本臓器製薬は2020年3月24日付で大阪府より第一種医療機器製造販売業の業許可を取得し、万全の製造販売体制を整備。安全性確認のため、ヒトを対象とした初の探索的治験を実施することになった。今回の治験は、大阪大学をはじめとする多施設共同で、手根管開放術および神経縫合術を要する患者を対象とし、予定被験者は33例、新型コロナウイルス感染症対策を万全にしたうえで、2020年11月から2022年6月まで実施する予定。

手根管症候群の患者は国内に年間で数十万人いるとされ、同シートが実用化されれば、手根管開放術、神経縫合術、神経剥離術、神経移行術、神経交差縫合術、神経再生誘導術、神経移植術に使用でき、「末梢神経の外科的手術が必要な患者」を対象とした、年間約5万件の手術への適用が可能となる。

既存の神経再生治療法における課題を克服できる可能性

現在、しびれや痛みを主訴とする末梢神経障害の治療は、薬物療法や患部の固定などの保存的な治療法が中心で、改善がみられない場合に手術が選択される。末梢神経は再生能力を有しており、多くはこれらの治療によって症状が改善するが、術後に長期間の投薬やリハビリが必要となったり、また、手術そのものがダメージとなって知覚異常や筋力低下が残ったりするケースがある。その一因として、術前からの末梢神経の障害や、手術時に露出させた神経の周辺組織への炎症細胞の侵入によって形成された瘢痕が、神経再生の妨げとなることが考えられている。

これまで、末梢神経障害に対する医療機器として、人工神経と呼ばれる神経再生誘導材(ナーブリッジ(R)、リナーブ(R))が開発されているが、これらは損傷部が完全に切断された不連続性神経損傷に対してのみ使用されるため、多くの患者に適用することができない。これらの医療機器は損傷部を橋渡しするだけで、神経の再生を促進する効果もない。海外でも神経保護を目的とした類似用途の医療機器が開発されているが、神経の再生を促進する効果はなく、質感が硬く取り扱いが不便で、末梢神経に適用するにあたっては最適とはいえない。このように、末梢神経障害には既存の治療法では解決できない課題があり、新たな治療法の開発が望まれていた。

「シートによる神経保護に加え薬剤を「局所に」「持続的に」供給するこれまでにない治療法で、術後の知覚異常や筋力低下、また再手術リスクおよび術後通院回数を減少させることができ、患者の早期社会復帰などQOLや日常生活動作(ADL)の向上が期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 妊娠初期から発達する父親の親性脳の活動パターンに個人差があることを発見-京大ほか
  • 肥満の代謝制御ネットワーク機能不全を大規模に解明-東大ほか
  • 口腔内細菌が「食道がん」リスクとなる可能性-東京医歯大ほか
  • 統合失調症の新たな治療標的「PPARα」発見-理研ほか
  • 妊婦約2万人血中鉛濃度と出生児体格との関連を調査-京大ほか