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次世代型内視鏡用粘膜下注入材を開発、内視鏡治療成績向上などに期待-京都府医大

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2020年10月21日 PM12:30

SIM性能の上昇に伴い注射がしにくくなるというジレンマの解消を目指す

京都府立医科大学は10月16日、従来から消化管腫瘍の内視鏡治療に使用されている粘膜下注入材の性能を大幅に上回る、次世代型粘膜下注入材の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科消化器内科学廣瀬亮平助教、伊藤義人教授、感染病態学中屋隆明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Gastrointestinal Endoscopy」に掲載されている。


画像はリリースより

早期胃腸腫瘍の低侵襲内視鏡治療では、内視鏡的粘膜切除術(EMR)および内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が積極的に行われており、その適応も拡大している。粘膜下注入材料()を注入することによる粘膜下隆起の生成は、EMR・ESDの手技において不可欠なステップだ。高性能なSIMにより、高い粘膜下隆起を長時間維持することができ、安全かつ迅速な内視鏡治療(EMR・ESD)が実現する。現在、内視鏡治療で使用されている高性能SIMはいずれも粘性液体だが、どのような粘弾性特性をもつ溶液が高性能なSIMになり得るか解明されつつある。

ヒアルロン酸ナトリウム溶液(HA)は、その優れた性能により、内視鏡治療に広く使用されている。以前の研究では、ヒドロキシプロピルメチルセルロースやアルギン酸ナトリウム(SA)などのHA以外のSIMの一部においても、HAに匹敵する性能を有し、高性能SIMとして内視鏡治療に使用できることが報告されている。これらの粘性溶液は濃度(粘度)が上昇するほどSIM性能が上昇するが、一方で、粘度が上昇すると注射圧も上昇し、注射しにくくなる。したがって、比較的容易に注入することができる濃度範囲における最高濃度がSIMとして使用できる溶液の限界濃度となる。このジレンマは単一の溶液で構成されたSIMの性能に限界を生み出し、より高性能なSIMの開発を困難にしている。実際に、現在日本で市販されている現行のSIMであるHAは、いずれもその最大濃度である0.4%に設定されており、0.4%以上のHAはSIMとして販売されていない。

さらに、高性能なSIMは仮に開発に成功したとしても、実際の内視鏡治療においてSIM注射中に意図された部位とは異なる部位で粘膜下隆起が生じると、粘膜下隆起は解放されず粘膜下隆起が長時間続くため、治療手順を終えるまで妨げ続ける可能性があるという問題がある。低性能なSIMでは粘膜下隆起が不適切な部位で生じたとしても、粘膜下の上昇は数分以内に自然に失われ、その結果、処置手順に重大な悪影響を及ぼさない。したがって、より高性能なSIMを開発する際には、不適切な部位に粘膜下隆起が生じた場合に状況を容易に修正することができる柔軟性を併せ持ったSIMを開発することが重要だ。

不適切な部位に粘膜下隆起が生じた場合でも容易に修正可能な毒性の低い高性能SIMを開発

そこで研究グループは、高性能と高柔軟性の両立を達成するための実現可能な方法として、第一溶液(solutionα)と第二溶液(solutionβ)から構成される2液タイプの次世代型SIM、つまり、注入の過程を2段階にすることを考案した。具体的には、比較的粘度の低いsolutionαとsolutionβの2種の溶液を混合することによって、粘度が飛躍的に上昇し(ゲル化を起こし)、高いSIM性能を発揮するというものだ。この次世代型SIMは、それぞれ2液とも注入時は低粘度のため注射は容易であり、高すぎる注射圧が原因で高性能SIMが臨床使用できないという問題を解決する。また、第一溶液を注入した段階ではSIM性能(粘度)が高くないため、不適切な部位に粘膜下隆起が生じた場合にも、状況を容易に修正することができる。

同研究グループは次世代型SIMの候補材料としてアルギン酸ナトリウムに着目。アルギン酸ナトリウムは海藻から抽出された水溶性多糖類であり、人体への毒性が低く、食品添加物(ゲル化剤や増粘剤など)や医療添加物として使用されている。アルギン酸ナトリウム水溶液は粘性があり、これは2価の陽イオン(例えばCa2+)によってゲル化する。同研究では、アルギン酸ナトリウム水溶液のこれらの特性を利用して、2液タイプの次世代型SIMとしてアルギン酸ナトリウム水溶液(SA)と塩化カルシウム水溶液(Ca2+)の組み合わせを採用。この次世代型SIMの性能を廣瀬らが開発した測定モデルを用いて詳細に評価した。

最初に行った粘弾性評価では、Ca2+添加によりSAの粘弾性は劇的に増加した。SIMの性能評価では、次世代型SIMを使用した場合の粘膜下隆起の高さは、HAなどの現行のSIMを使用した場合よりもはるかに高くなった。さらに、ブタ腸モデルを使用した疑似病変に対する内視鏡治療(ESD)の成績の評価では、次世代型SIMを使用した内視鏡治療時間は現行のSIMを使用した内視鏡治療時間より大幅に短縮された(14.2±6.1 vs 29.2±9.1min、P=0.0004)。また、1治療当たりに使用された次世代型SIMの総量は現行のSIMの総量よりも大幅に少なくなることが明らかになった(7.0±0.9 vs 17.2±3.4mL、P<0.0001)。

安全かつ迅速で低侵襲な内視鏡治療を提供し、医療現場のニーズに対応

HAより高性能なSIMの実用化が難しかった点は、「性能を上げるため濃度(粘度)を上げると内視鏡注射針での注入が難しくなる」「不適切な部位に粘膜下隆起が作成された際、その隆起が長時間持続し治療手技を妨げ続ける(高性能獲得の代償に柔軟性が欠如)」ということである。研究グループは、これらの問題を解決するために、開発の基盤になる基礎研究を行ったうえで、カチオン(Ca2+)を含む塩類水溶液とカチオンでゲル化する多糖類水溶液から成る2液タイプの次世代型SIMを考案した。これら2液は粘度が比較的低いため内視鏡注射針で容易に注入可能であり、粘膜下で混合され粘弾性が上昇(ゲル化)することにより、局注液性能が粘膜下層内で大幅に上昇する(高性能の獲得)。また、第一液のみの注入では粘度がまだ低いため、意図した部位とは異なる部位で粘膜下隆起を作成しても、短時間で消失し治療手順に干渉し続けることがない(柔軟性の獲得)。

研究グループは今回の研究について、詳細な基礎研究を基盤に革新的な2段階局注システムを取り入れた次世代型SIMの実用化を目指している。2017年に特許申請済みであり、現在、扶桑薬品工業株式会社と実用化に向けて共同開発を進めている。「実用化を目指す次世代型SIMは、現行のSIMをはるかに凌駕する性能と柔軟性を併せ持つことにより、従来より安全かつ迅速で低侵襲な内視鏡治療を提供し医療現場のニーズに応えることが期待されている」と、研究グループは述べている。

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