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肺線維症、新規治療標的候補としてRNA分解酵素「Regnase-1」を同定-京大ほか

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2020年10月15日 PM12:00

Regnase-1に強く制御されている肺の細胞は?マウスで検討

京都大学は10月14日、RNA分解酵素であるRegnase-1が、2型自然リンパ球(Group 2 innate lymphoid cells:ILC2)の機能を制御することにより、肺の線維化を抑制していることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の竹内理教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「European Respiratory Journal」にオンライン掲載されている。

肺線維症は、肺が線維化を起こすことで、硬く膨らみにくくなる病気。粉じんの吸入や、関節リウマチなどの膠原病が原因になることもあるが、原因が不明な特発性も多く見られる。特に、特発性肺線維症は、診断後生存期間中央値は3~4年と、多くのがん腫よりも予後不良な疾患。しかし、その病態には不明な点が多く、治療法も限られているのが現状だ。

ILC2は、近年新しく発見されたリンパ球の一種。インターロイキン(IL)-5やIL-13などのサイトカイン(生理活性タンパク質)を多量に産生することで、アレルギー性疾患の発症・増悪に寄与することが知られている。呼吸器疾患では、特に喘息の病態と強く関連することが示されているが、他の呼吸器疾患におけるILC2の役割や、その機能を制御するメカニズムについては十分にはわかっていない。

Regnase-1は、DNAから転写され作られるメッセンジャーRNA(mRNA)を分解する酵素。これまでにRegnase-1はIL-6や、血管から炎症組織への白血球の遊走を制御するサイトカインの一種のケモカインであるCXCL1など、炎症に関連する分子のmRNAを分解することで、過剰な炎症応答を抑制することが示されてきた。一方、Regnase-1を欠損するマウスは、特に、肺において強い炎症性疾患を自然発症し、さまざまな炎症細胞の浸潤を認めることが報告されているが、どのような細胞の増加に直接的に寄与しているのか、またヒトの疾患にどのように関わるのかという点についてはほとんど報告がなかった。

そこで、今回の研究では、Regnase-1欠損マウスを用いて、Regnase-1によって強く制御を受けている肺の細胞が何であるのか、それがヒトの疾患とどう関わるのかを検討した。


画像はリリースより

、ILC2の活性化・増殖を抑制する機能を有する

まず、マウスに対して、野生型の骨髄細胞とRegnase-1欠損骨髄細胞を混合して移植する競合的骨髄移植を用いて、Regnase-1欠損により特徴的に増加する細胞の種類を検討。その結果、肺では、特にILC2の著明な増加を認めた。そこで、研究グループは「LC2」に着目して検討を進めた。

肺からILC2を単離し、培養した結果、Regnase-1を欠損するILC2の細胞増加は、細胞増殖に関わる分子であるInducible T Cell Costimulator(ICOS)の発現が上昇することによる可能性が示唆された。

また、Regnase-1を欠損したILC2は、炎症を惹起する機能を有するILC2で高発現する分子KLRG1の発現が亢進することなど、細胞の活性化を示唆する特徴を有しており、実際にIL-13などのILC2に特徴的なサイトカインの産生が亢進していることも明らかとなった。したがって、Regnase-1はILC2の活性化や増殖を抑制する機能を有すると考えられた。

Regnase-1、mRNA分解で肺線維症発症を抑制

次に、Regnase-1欠損ILC2とコントロールILC2の遺伝子発現を比較し、Regnase-1欠損ILC2において発現が亢進している遺伝子群がどのような疾患と関わるのか、バイオインフォマティクスによる分析を実施。その結果、気管支喘息などILC2との関連性がこれまで報告されている疾患に加えて、特に肺線維症との強い関連性が認められたという。

そこで、Regnase-1欠損マウスと野生型マウスからILC2を単離・培養し、組織の線維化を起こす薬剤ブレオマイシンを投与して肺線維症を誘導したマウスに移植。その結果、Regnase-1欠損 ILC2を移植したマウスでは肺線維症の程度が増強することが示され、Regnase-1欠損ILC2は線維化を促進する機能を有することが判明した。

さらに、Regnase-1が転写因子のGATA Binding Protein3(GATA3)やEarly growth response protein1(EGR-1)の発現量を調節し、線維化促進機能を制御する可能性も示唆された。つまり、ILC2に発現するRegnase-1は、mRNAを分解することで、マウスにおいて肺線維症の発症を抑制することが明らかとなった。

血液中ILC2数が多いIPF患者では、生存期間が有意に短く

続いて、ILC2に発現するRegnase-1とヒト肺線維症との関連を解析。京都大学医学部附属病院で過去に収集された特発性肺線維症患者由来の細胞を用いて検討した結果、気管支肺胞洗浄液中のILC2の数と、Regnase-1の発現量との間に有意な負の相関を認めた。これはRegnase-1の発現量が減ると、ILC2が多くなるということで、Regnase-1欠損マウスの肺でILC2が増えるという所見に合致すると考えられる。

さらに、血液中のILC2数が多い特発性肺線維症患者では、有意に生存期間が短いことが明らかとなった。

IPF新規治療開発につながる可能性

今回の研究では、Regnase-1が肺におけるILC2の増殖と活性化を抑制し、特に、ILC2の線維化促進作用を強く制御することが明らかとなった。さらに、ヒト検体を用いた検討により、特発性肺線維症患者においても、Regnase-1を介したILC2の機能制御機構が、その臨床経過に影響を及ぼしている可能性が示唆された。

組織の線維化は、上皮細胞や線維芽細胞、血球系の免疫細胞が複雑に作用し合って形作られる病態だ。その代表的な疾患である肺線維症について、ILC2の関与を基礎実験と臨床データの両方を用いて示したのは今回の研究が初めてだという。また、ILC2の線維化促進作用を制御するメカニズムもこれまでに報告がなく、新しい知見だとしている。

研究グループは今後、Regnase-1の発現量や機能を薬剤的に制御する手法を開発するとともに、それをILC2に効率的にデリバリーする方法についても検討を進め、特発性肺線維症の新規治療につなげていきたいとしている。また、同研究成果をもとにして、肝硬変や腎硬化症など、他部位の線維化でもRegnase-1を介した線維化制御機構が存在するのかという研究が広がる可能性がある、と述べている。

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