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がんペプチドワクチン、食道がん術後補助療法としての有用性をP2試験で確認-近大ほか

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2020年09月04日 PM12:00

食道がんは予後不良のため、術後補助療法の開発による再発予防が急務

近畿大学は8月31日、食道扁平上皮がんにおいて、手術後にリンパ節転移が確認された予後不良の患者対象に、術後補助療法としてがんペプチドワクチンの投与で、食道がんによる生存率を従来の約2倍に改善できることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部外科学教室(上部消化管部門)の安田卓司教授ら、順天堂大学大学院研究基盤センターの竹田和由氏、東京大学医科学研究所の中村祐輔氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Surgery」にオンライン掲載されている。

日本人の食道がんの95%近くを占める扁平上皮がんは、進行が早く、周囲の重要臓器へ容易に浸潤するため切除不能となりやすい。また、早期から広範囲かつ高頻度にリンパ節に転移する、極めて予後が不良の疾患だ。ステージ1を除く切除可能進行食道がんでは、術前に化学療法で全身の微小転移の根絶を図るのが標準治療とされているが、術前化学療法を行ったにもかかわらずリンパ節転移が3個以上残っている半数以上の患者の5年全生存率は、20%前後とされている。そのため、術後補助療法による再発予防が求められるが、現在有効な治療法はなく、その開発が急務の課題となっている。

また、がん細胞における免疫監視機構からの逃避を無力化する免疫チェックポイント阻害薬と相補的な関係にあり、がんを攻撃する武器を持つ細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を増幅せるワクチン療法の確立が期待されている。


画像はリリースより

ステージ2・3進行食道がん対象に、3種新規がん抗原ペプチド治療を実施

投与されたがん抗原ペプチドは、抗原提示細胞表面のヒト白血球抗原(HLA)を介して抗原提示されるが、HLAには様々なタイプがあり、結合性が異なる。今回は、日本人の6割が有しているHLA-A2402に結合性が高く、また扁平上皮がん細胞に特異的に発現している3種類の新規がん抗原ペプチド(URLC10、CDCA1、KOC1)を用いて試験を実施した。

同試験は、術前化学療法または化学放射線療法施行後に根治切除術が行われ、かつ病理学的検索でリンパ節転移を有していた臨床病期ステージ2・3進行食道がん症例を対象に、HLA-A陽性の患者にはがんペプチドワクチン治療を行い、HLA-A陰性例には再発が確認されるまでは無治療で経過観察を行うこととした。

なお、がんペプチドワクチン治療は単独で術後2か月以内に投与を開始し、3種類のがん抗原ペプチドを最初の10回は毎週、次の10回は2週間ごとに皮下または皮内に投与し、治療中の再発の有無に関わらず計20回で投与を完了することとした。

同試験は探索的第2相試験であり、各群30例を目標症例とし、最終的にワクチン群33例、対照群30例の登録が得られた。有害事象は注射部位の皮膚反応のみで重篤なものはなく、早期再発で通院困難となった3例以外は全例治療を完遂した。

5年生存率は対照群32.4%、ワクチン群60.0%

同試験の結果、主要評価項目である無再発生存期間は、ワクチン群で良好な傾向にとどまったが、食道がん特異的生存期間では5年生存率が対照群32.4%に対し、ワクチン群60.0%と有意に予後を延長することが示された(ハザード比0.554、p=0.045)。

3種類のがん抗原ペプチドのペプチド特異的CTLの誘導能をみると、CTLを誘導したがん抗原ペプチドの個数が増えるにしたがって再発が抑制され、2種類以上のがん抗原ペプチドでCTLの誘導が確認された症例の食道がん特異的生存期間は延長していた。

CTL(-)/PD-L1(-)の腫瘍をもつ症例、5年生存率は対照群17.7%、ワクチン群68.0%

続いて、どのような症例にがんペプチドワクチン治療が有効か、腫瘍の微小環境の観点から検討。腫瘍の微小環境は、切除標本における免疫染色で、腫瘍内へのCTLの浸潤の有無とCTLへ抑制性シグナルを伝えるがん細胞表面のPD-L1の発現の有無で評価した。その結果、ワクチン群の約6割に相当するCTL(-)/PD-L1(-)の腫瘍をもつ症例において、食道がん特異的5年生存率は対照群17.7%に対し、ワクチン群68.0%と50%近い生存率の改善を認めた(ハザード比0.31、95%信頼区間:0.11-0.77、p<0.010)。

一方、CTL(-)/PD-L1(+)の腫瘍をもつ症例5例において、ワクチン投与の効果が全く認められなかった。これは、ワクチンにより誘導されたCTLの効果がPD-L1を介した抑制性シグナルで打ち消されたと推測されるという。

P3試験の症例登録は終了、来年最終解析予定

今回の試験結果は、誘導されたCTLが予後改善に寄与しているということを示すとともに、PD-L1発現例では免疫チェックポイント阻害薬との併用が有効である可能性も示唆するものだとし、がんペプチドワクチン治療の有効性と今後の免疫療法の個別化に向けて新たな発展性を示すものだとしている。

また、今回の研究は、基礎研究から医師主導臨床試験、そして企業主導の第3相臨床試験へと橋渡しされた創薬モデルケースだ。第3相臨床試験の症例登録は終了しており、来年最終解析予定。同研究と同様の有効性が証明され、日本から世界初のがんペプチドワクチン治療薬が承認されることが期待される、と研究グループは述べている。

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