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小児脳腫瘍「髄芽腫」の悪性化にBCOR遺伝子変異が関与-NCNPほか

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2020年08月24日 PM12:15

SHH型髄芽腫における二次的遺伝子変異を探る

(NCNP)は8月20日、小脳の小児悪性脳腫瘍である「」において、1遺伝子で見られる傷(変異)がその悪性化に関わることを発見したと発表した。この研究は、NCNP神経研究所、病態生化学研究部(部長・星野幹雄)の川内大輔室長の研究グループによるもの。研究成果は、「Genes and Development」に掲載されている。


画像はリリースより

髄芽腫は十数年前までは見た目(病理学的な解析)からがんを評価してきたが、 近年は見た目に加えて中身(遺伝子発現パターン、ゲノムの変異やメチル化状態)を詳細に解析することにより、大きく分けて4つのグループに分類できることがわかってきた。そのうちの1つのグループであるソニック・ヘッジホッグ()型と呼ばれる髄芽腫は、細胞増殖を刺激するSHHシグナルが小脳顆粒細胞の前駆体(GNP)で異常に活性化することで生じると考えられてきたが、近年の研究でSHHシグナルだけでは悪性腫瘍への形質転換は不十分であり、二次的な他の遺伝子のダメージが必要であることが明らかになってきた。言い換えると、どの遺伝子が傷つくかによって、腫瘍が異なった個性(がんシグナル)を持ち始めると考えられる。これまでそういった二次的な遺伝子の変異が何であるかを証明した研究は数えるほどしかなく、SHH型髄芽腫の多様な個性を完全に説明できるには至っていない。

BCOR遺伝子変異でIGF2発現上昇、SHH型髄芽腫の進展を加速

今回、研究グループはまず、以前報告したデータベースからヒトSHH型髄芽腫において高頻度で変異している遺伝子をリストアップ。その中から特に他の腫瘍でも高頻度に変異が報告されているBCOR遺伝子に着目し、その変異箇所を詳細に解析した。その結果、約69%(13例中9例)の患者に共通して、BCORタンパク質のカルボキシル末端(C末端)欠損の遺伝子変異があると判明。そこで、小脳顆粒細胞でのみC末端を欠損したBCORタンパク質(BCORΔE9-10)を生み出すマウス(Atoh1-Cre/BcorΔE9-10マウス)を作出した。SHH型髄芽腫はPtch1欠損マウスの約30%で形成されるが、このPtch1欠損マウスとAtoh1-Cre/BcorΔE9-10マウスを交配(Ptch1欠損BcorΔE9-10マウス)すると、100%のマウスで3か月以内に腫瘍が形成された。Bcor遺伝子に変異があるPtch1欠損マウスの腫瘍と、Bcor遺伝子が正常なPtch1欠損マウスでの腫瘍では、前者の方が同じ細胞数を免疫不全マウスの脳に移植した場合に、はるかに早くがんを形成する能力があることもわかった。また、Atoh1-Cre/BcorΔE9-10マウス自身は髄芽腫を形成することはないので、BCOR遺伝子の変異そのものは小脳顆粒細胞をがん化する能力はなく、むしろSHH型髄芽腫の進展を促し、悪性度に関わることが明らかになった。

次に、Bcor遺伝子の変異によって腫瘍がなぜ悪性化するのかを調べるため、Bcor遺伝子に変異があるPtch1欠損マウスの腫瘍(Ptch1欠損BcorΔE9-10腫瘍)と、変異がないPtch1欠損マウスでの腫瘍における遺伝子発現の違いについて解析。その結果、Bcor遺伝子に変異がある腫瘍では、細胞の増殖を促進することが知られているタンパク質IGF2が高レベルで生み出されていることがわかった。さらに、Igf2遺伝子を強制的に作り出すレトロウイルス(Igf2ウイルス)を腫瘍の起源細胞であるPtch1欠損GNPに感染させ、その感染させた細胞を免疫不全マウスに移植すると、Igf2ウイルスを感染させた細胞は対照の細胞と異なり100%のマウスで腫瘍を形成することを発見。この腫瘍のIgf2の発現量はPtch1欠損BcorΔE9-10腫瘍よりもはるかに少なかったため、Ptch1欠損BcorΔE9-10腫瘍の悪性度が高い理由の一つとして、高レベルのIGF2が原因であることが示唆された。

さらに研究グループは、今回の髄芽腫モデルで得られた「SHHシグナルの活性化」と「BCOR遺伝子の変異」、そして「IGF2発現の異常上昇」の正の関係性が、ヒトの脳腫瘍や他の固形がんで共通して見られるかどうかを調べた。結果、髄芽腫モデルと最も高い相同性を持つヒト髄芽腫(Y497xの変異を持つもの)でIGF2が非常に高いレベルで発現しており、BCORタンパク質のC末端に変異を持つ脳腫瘍である原始神経外胚葉腫瘍でも同様の傾向を確認した。またSHHシグナルが顕著かつ、BCOR遺伝子に変異を持つ腎明細胞肉腫においても、IGF2が高レベルで観察されたことから、BCORは腫瘍の形成過程のさまざまな場面でIGF2の発現を抑制している可能性が示唆された。

BCORはPRC1.1複合体の形成を介してIGF2を抑制

BCORは、ゲノム上でヒストンのユビキチン化(H2AK119Ub)を介して遺伝子の発現を抑えるPRC1.1複合体として機能していることが知られている。また、PRC1.1複合体形成に必須であるPUFDドメインがヒトSHH型髄芽腫において高頻度で欠けていることから、研究グループはPtch1欠損BcorΔE9-10マウスから得られた腫瘍でBCORΔE9-10タンパク質はPRC1.1複合体タンパク質であるPCGF1と結合できないことを確認した上で、腫瘍モデルにおいてBCOR分子やヒストン修飾H2AK119Ubのゲノム上での存在位置を免疫クロマチン沈降法(ChIP)で解析した。その結果、正常なBCORが存在するPtch1欠損マウス由来の腫瘍ではBCOR及びH2AK119UbはIgf2遺伝子座に観察されたが、Ptch1欠損BcorΔE9-10マウスで生じる髄芽腫では、これらの局在が著しく減少していた。このことから研究グループは、BCORのC末端に存在するPUFD領域が欠如するとPRC1.1複合体が形成されず、さまざまな腫瘍でIGF2の発現を抑えることができなくなるモデルを提唱した。

脳腫瘍の化学療法は、腫瘍細胞が増えるメカニズムに応じて治療薬を使い分けていく戦略が効果的であると期待されている。今回の研究成果は、BCORのC末端が機能不全である髄芽腫で誘導されるがんシグナルとしてIGF2を特定した点で、大きな意義がある。一方でIGF2の発現を積極的に亢進させる遺伝子変異や分子メカニズムは未だはっきりしておらず、その分子機構を明らかにすることは、さらに正確なIGF2がんシグナルの診断につながるものと考えられる。研究グループは今回の成果について、「髄芽腫の治療法を検討する際の分子診断マーカーとしてだけでなく、BCOR遺伝子に変異を持つ他のがんの増殖メカニズムをより深く理解するための手助けとなることが期待される」と、述べている。

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