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マクロファージに発現するMincleが急性腎障害の慢性化と関連、動物モデルで-名大ほか

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2020年08月18日 PM12:45

病原体や死細胞に対するセンサー「」、肥満で生じる脂肪組織の慢性炎症でも重要な役割

名古屋大学は8月17日、急性腎障害から慢性腎臓病への病態の進展に、マクロファージに発現するmacrophage-inducible C-type lectin(Mincle)が関わることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大環境医学研究所/医学系研究科の菅波孝祥教授、田中都講師、丸山彰一教授、坂(田中)まりえ研究員、九州大学大学院医学研究院の小川佳宏教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Journal of Experimental Medicine」に掲載されている。


画像はリリースより

Mincleは、炎症刺激によりマクロファージにおいて発現が強く誘導される分子として、1999年に発見され、その後、結核菌や病原性真菌に対する病原体センサーであることが報告された。すなわち、マクロファージの細胞膜上に局在するMincleが病原体を認識すると、細胞内にシグナルが伝達され、炎症性サイトカインを産生することにより、生体の感染防御に働くことがわかっている。一方、Mincleは、死細胞に対するセンサーであることも明らかになっており、研究グループはこれまでに、肥満で生じる脂肪組織の慢性炎症において、Mincleが重要な役割を担うことを報告している。

Mincle欠損と野生型マウスの腎病変を比較、腎障害の慢性化におけるMincleの意義を検討

急性腎障害は、さまざまな原因により急激に腎機能が低下する状態で、入院患者の3.5%に発症するなど比較的高頻度に認められる腎疾患。患者の半数程度は腎機能が一旦回復するが、最近、腎臓にはダメージが蓄積しており、中長期的には高い確率で慢性腎臓病や末期腎不全に移行することが明らかになり、この病態メカニズムが注目を集めている。これまでに、炎症の慢性化や線維化、血管障害などのメカニズムが提唱されているが、その詳細はわかっていない。人口の高齢化や糖尿病など生活習慣病の増加、集中治療領域の発達、造影剤の使用やがん症例の増加などに伴って、日本においても急性腎障害の発症頻度は増加傾向にあり、その対策は喫緊の課題だ。

今回の研究では、腎虚血再灌流によるマウス急性腎障害モデルを用いた。このモデルでは、腎臓の近位尿細管に強い障害が生じ、近位尿細管の壊死、炎症細胞の浸潤、血管障害などにより急速に腎機能が悪化する。障害は一過性で、数時間〜1日をピークとして、その後は徐々に回復するが、喪失した近位尿細管は十分に再生・修復せず、腎萎縮に至る。そこで、急性期(〜1日)、修復期(3〜5日)、慢性期(7〜14日)において、Mincle欠損マウスと対照(野生型)マウスの腎病変を比較することにより、腎障害の慢性化におけるMincleの意義を検討した。

Mincle、腎障害の修復期〜慢性期の持続的な炎症に関連

対照マウスでは、腎障害6日目までに約半数が死亡したが、Mincle欠損マウスでは全例が生存した。急性期の腎障害の程度に差がなく、修復期〜慢性期にかけてMincle欠損マウスでは速やかに炎症が軽減した。慢性期では、対照マウスで健常な近位尿細管数が著しく減少し、腎重量も約6割に減少したが、Mincle欠損マウスでは健常近位尿細管が残存し、腎重量も保たれた。このようにMincleは、腎障害の急性期ではなく、修復期〜慢性期における持続的な炎症に関わることが明らかとなった。

続いて、組織学的な解析により、Mincleを発現するマクロファージは、細胞死に陥った近位尿細管(壊死尿細管)の周囲に集積することが判明。すなわち、Mincleは壊死尿細管を感知して、腎障害の慢性化に働くことが想定された。そこで、壊死尿細管からMincleを活性化する因子(内因性リガンド)を探索。具体的には、障害腎より抽出した脂溶性成分をカラムにより分画し、Mincle活性能を指標として質量分析で同定した。その結果、β-グルコシルセラミドという糖脂質とコレステロールが共存することで、強いMincle活性化能を示す(Mincleリガンドとなる)ことを見出した。実際、障害腎の壊死尿細管部位にβ-グルコシルセラミドとコレステロールが蓄積することを、組織染色により確認したという。

Mincleがマクロファージによる死細胞の貪食を強く抑制

従来、Mincleはマクロファージの炎症性サイトカイン産生を促進させることが知られていたが、今回、Mincleがマクロファージによる死細胞の貪食を強く抑制することを新たに見出した。

死細胞は、炎症刺激因子DAMPsを放出するため、通常、生体内において死細胞はマクロファージにより速やかに貪食・処理される。Mincleの活性化により死細胞クリアランスが低下することで、死細胞が長期間残存し、炎症が増悪すると想定される。実際、急性腎障害モデルの慢性期において、Mincle欠損マウスでは、炎症サイトカインの発現や死細胞の数が対照マウスよりも減少していたという。

β-グルコシルセラミドなど内因性リガンド、急性腎障害の病勢や予後を反映するバイオマーカーとなる可能性

今回の研究では、マウス急性腎障害モデルを用いて、Mincleが急性腎障害の慢性化に関わることがわかった。これまでは、主に腎障害の急性期に関する研究が精力的に行われてきたが、Mincleは修復期〜慢性期に作用する点がこれまでにないユニークさである。

現在、病態メカニズムに基づいた急性腎障害の治療は存在せず、その対応は喫緊の課題となっている。しかし、急性腎障害は急激に発症するため、ヒトにおいて病初期に治療介入することは困難だ。また、急性腎障害から慢性腎臓病への移行メカニズムも十分にわかっていない。今回の研究の成果を踏まえて、修復期〜慢性期のMincleを標的とすることは、今後の治療戦略を考える上で有用と考えられるとしている。

また、新たに同定したβ-グルコシルセラミドなど内因性リガンドは、急性腎障害の病勢や予後を反映するバイオマーカーとなる可能性がある。今後は、Mincleの作用に関する詳細な分子機序を解明するとともに、臨床サンプルを用いて急性腎障害の診断や治療における意義を検証する予定だ、と研究グループは述べている。

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