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小児のファンコニ貧血において、SLFN11遺伝子が治療標的となる可能性-京大ほか

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2020年08月11日 PM12:45

シスプラチンなどに高感受性を示すファンコニ貧血、SLFN11発現との関連は?

京都大学は8月7日、SLFN11遺伝子がDNA損傷部位へのRAD51集積を阻害することにより、ファンコニ貧血の発症を促進・悪化させるメカニズムを明らかにし、SLFN11がファンコニ貧血に対する治療標的になる可能性があると発表した。これは、同大大学院生命科学研究科の岡本祐介研究員(医学部血液内科所属、現在トロント大学留学中)、同高田穣教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Blood」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

SLFN11遺伝子は、大規模ながんデータベースの解析により、その発現量が、DNA障害型抗がん剤の感受性と強く相関することが報告されている。例えば、がん細胞がSLFN11発現を失うと抗がん剤で死ななくなる(抵抗性となる)など、がん治療法選択における重要性から最近注目を集めている。

一方、再生不良性貧血、、急性骨髄性白血病の原因となる「」は有名な小児の遺伝性疾患で、体内で自然発生するDNA損傷を十分に修復することができない。そのため、造血幹細胞が細胞死に陥って徐々に減少し、DNA変異が蓄積し、がんや白血病を発症する。ファンコニ貧血は、特にDNA鎖間のクロスリンクというタイプのDNA損傷が修復できない。そのため、クロスリンク損傷をきたす代表的な抗がん剤である「」や「マイトマイシン」によって、高度の細胞死が引き起こされることが知られている。

研究グループは、SLFN11遺伝子が造血幹細胞において発現が高いことに気づき、SLFN11がファンコニ貧血の発症にどう影響するかを調べたいと考えた。つまり、シスプラチンなどの抗がん剤に高感受性を示すファンコニ貧血細胞においてSLFN11の発現を無くすと、ファンコニ貧血細胞が抗がん剤に対して抵抗性になるのではないかという仮説から研究を開始した。

SLFN11ノックアウトのファンコニ貧血細胞で細胞の生存率が上昇

まず、ファンコニ貧血の原因遺伝子で重要なFANCD2遺伝子を欠損した患者由来細胞であるPD20細胞を用意。この細胞で、遺伝子特異的にタンパク質の量を抑制できるsiRNAという手法を用いてSLFN11の発現量を低下させたところ(ノックダウン)、がん化学療法剤シスプラチンの投与後におけるPD20の細胞死が低下(生存率が上昇)することを観察。これは、SLFN11の存在が、がん以外に、ファンコニ貧血患者細胞においてもDNA損傷への感受性を上昇させていることを意味する。

次に研究室で保有している細胞のうち、「HAP1」というヒト細胞株がSLFN11を高発現していることを確認。CRISPR-Cas9によるゲノム編集技術を用いて、HAP1細胞株においてファンコニ貧血遺伝子であるFANCD2と、SLFN11遺伝子をそれぞれ破壊したところ(ノックアウト)、PD20と同様の結果が得られることがわかった。さらに、SLFN11をノックアウトした細胞では、抗がん剤への感受性が低下しただけでなく、ファンコニ貧血細胞に特徴的に見られる染色体断裂や、細胞周期停止も改善していることがわかった。

SLFN11はDNA損傷部位でゲノム分解を促進し、DNA損傷を悪化させる

これらの現象は、SLFN11を無くすとファンコニ貧血の所見が改善すること、SLFN11がDNA損傷自体を悪化させていることを強く示唆している。これを踏まえ、DNA損傷周辺のDNAの状態をDNAファイバー法という手法で調べた。ファンコニ貧血細胞では、DNA損傷近傍のゲノムが分解されることがわかっている。調べた結果、SLFN11遺伝子をノックアウトしたファンコニ貧血細胞では、このゲノム分解が起こらなくなっていることを確認。つまり、SLFN11はゲノム分解を促進する機能があることがわかった。

さらに、このゲノムDNAの分解は核内のDNA2やMre11と呼ばれるDNA分解酵素によること、SLFN11は、ゲノム分解を抑制するRAD51分子のDNA損傷部位への集積を低下させることも解明した。

今回の研究によって、SLFN11がDNA損傷部位へのRAD51集積を阻害することにより、ファンコニ貧血の発症を促進・悪化させるメカニズムが明らかになり、SLFN11がファンコニ貧血に対する治療標的になる可能性が示唆された。この可能性は、さらに、ヒトiPS細胞などの実験系、マウスモデルなどを用いて、検証する必要がある。「SLFN11は、DNA損傷を主な作用機序とするシスプラチンなどの既存の抗がん剤に対する薬剤耐性に関わっていることから、SLFN11の機能を解明することで、がん細胞における抗がん剤治療抵抗性のメカニズム解明に寄与するのではないかと期待している。一方で、基礎生命科学的には、SLFN11がRAD51を制御するメカニズムの解明が重要だ」と、研究グループは述べている。

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